戦わないほうが良いよ
「…と、まあ彼女達の扱いに関してはひとまず俺達が預かるという話で決着がついたんだが、それはそれとしてまだ説明しておくべきことがある。」
五十鈴菜々子さんが米倉美由紀さんという名前に変わった事実を話し終えた黒柳さんは次の話題に進みました。
「結論から言わせてもらうと、次回の魔術大会は通常通り開催されることになった。」
「あ、やっぱりあるんですか?」
「ああ、今月も開催されることになった。」
説明を受けた由香里さんが質問をしたことで
黒柳さんはしっかりと頷いてから説明を続けてくれました。
「…とは言っても、その辺りに関しても色々と議論があったんだがな。まだまだ国内全域において戦争の爪痕が残る現状で戦闘を主とした大会を開くことに異論を唱える者がいたのも事実だ。」
…ですよね。
「だが、魔術大会の本来の目的は傷付け合うことではない。各学園での成長を促すと同時に共和国の力を示す意味合いも含まれているのだ。」
…えっと。
…共和国の力って何でしょうか?
「一言で説明するのは難しいが、魔術大会には共和国の実力を各国に示す意味合いが含まれている。力を示すことによって共和国は安全であり平和であるということを国民に実感してもらうための祭事でもあるのだ。」
…と言うことは?
大会を開催することで共和国には戦える力があることを示すという意味でしょうか?
「まあ、すでにセルビナやミッドガルムが落ちた現状で大会を開催する意味はないと言う者もいるのだがな。」
…あ~。
そういう考え方もあるんですね。
「だがな。終戦を迎えた現状だからこそ、各国の重役を呼び寄せることが出来るのだ。」
「あぁ~!なるほど。それなら理解できます。要するに大陸南部の各国から重要な人を呼び集めて共和国の力を見せ付けるということですよね。」
「ああ、その通りだ。」
…?
どういう意味でしょうか?
私にはまだ分からないのですが、
他の国から人を呼ぶことにどんな意味があるのでしょうか?
「例え大陸南部を制圧したとしても、全ての者達が共和国に従うわけではないからな。」
…それは、まあ。
「今もまだ各国には共和国を敵対視する者達がいる。」
…やっぱりそうなんだね。
「だからこそそれらを黙らせるという意味合いもあるのだ。」
「他国への牽制が含まれているということですよね。」
「その通りだ。」
…ああ、なるほど。
それなら何となく理解できます。
たぶんですけど。
共和国は強いんだよって伝えることで、
戦わないほうが良いよって思ってもらいたいということです。
「だからこそ大会を開催する意味はある。それに何より宗一郎さんや俺達からすれば、美由紀が念願としていた年間制覇の夢が次の大会にかかっているわけだからな。例え大会を開催する理由に無理があるとしても、強引に押し通してみせるだけだ。」
…それって、どうなのかな?
強引に開催させてみせると言い切った黒柳さんは、
すごく楽しそうに笑っています。
「公私混同と言われようとも次の大会は開催させる。そうすることで俺達の夢は叶うのだ。」
…夢?
はっきりと断言する黒柳さんの言葉を聞いて、
私と五十鈴さん達を除く全ての人達が苦笑いを浮かべていました。
…夢って年間制覇のことだよね?
その夢なら私も知ってます。
お姉ちゃんや翔子さんから毎月お話を聞いていましたので、
おおよその事情は知ってるつもりです。
…まだ誰も達成したことがない最高の称号なんだよね?
先月の大会に参加していない和泉由香里さんや、
全く参加したことのない里沙さんや長野さんには得られない称号ですが。
たった一人だけ夢を叶えられる人がここにはいます。
御堂さんだけが辿り着ける共和国最高の称号。
それが年間制覇です。
あと一歩で夢が叶うはずだったお姉ちゃんはすでにこの世にいません。
…ですが。
御堂さんが夢を叶えることで大切な人達の夢も叶えることが出来るんです。
…だとしたら。
必ず優勝してほしいです。
ただ祈ることしか出来ない私ですが、
それでも御堂さんの優勝を願い続けたいと思います。
…ずっと応援していますから。
お姉ちゃんの分までずっと。
ずっとずっと。
祈り続けようと思います。




