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THE WORLD  作者: SEASONS
5月7日
3721/4820

養子縁組

「まず最初に言っておくけど、五十鈴さん達はしばらくこの学園で預かることになったんだ。」


「学園で預かる?」


「ああ、そうだよ。」



即座に問い返した里沙さんに、

御堂さんは頷きながら答えています。



「理由は幾つかあるんだけどね。もっとも大きな理由としては、兵器の研究に協力してもらうために黒柳所長がいるルーン研究所に来てもらったんだ。兵器の無効化か、あるいは妨害のための研究開発に協力してもらうためにジェノスまで来てもらったんだよ。」



…なるほど。


…そういうことなんですね。



「ふ~ん。なるほどね~。確かにそういう事情なら彼女達がここにいる理由が納得出来るけど、それだと他にも理由があるみたいな言い方よね?」


「ああ、兵器に関する研究とは別に、彼女達の保護も目的の一つになっているんだ。」


「保護?」


「うん。だけど詳しい話は僕がするよりも…」


「俺が説明しよう。」



さりげなく振り返った御堂さんの視線を受けて、

黒柳さんが説明を引き継ぐようでした。



「五十鈴菜々子に関しては兵器の研究を確実に遂行するために野々村斉蔵ののむらさいぞう立花光輝たちばなこうきの許可を得て保護条約を成立させてきた。」



…保護条約って何でしょうか?



「それほど難しい話ではないんだがな。まあ、簡単に言えば命の保証をするという話になる。詳しい内容を説明するなら、彼女達の過去を切り捨てることと引き換えにして、新たな人生を黙認するという結論に至ったのだ。」



…過去を切り捨てる?



それに新たな人生ってどういうことでしょうか?



「え~っと。良く分からないんですけど。それってつまり、戦争を引き起こした責任は問わないということですか?」


「まあ、はっきりと言ってしまえばそういうことになるな。」



私の代わりに里沙さんが聞いてくれているのですが、

どうやら色々と複雑な事情があるようでした。



「だが、さすがに兵器の開発と起動という最大級の犯罪に対して無処罰というのはなかなか難しい部分がある。」


「…ですよね。」


「ああ、だからこそ彼女達を処刑させずに生存させるためには、それ相応の価値を示すと同時に生存させることへの安全性を示す必要があるわけだ。」


「安全性って何ですか?」


「それがジェノスで預かるという結論に繋がるわけなんだが、彼女達は俺が面倒を見るという条件と米倉宗一郎さんが身柄を引き受けるという条件で、ひとまず処分が見送られることになった。」



…えっと。


…それってつまり黒柳さんと米倉さんが責任を持つということでしょうか?



「身柄を引き受けるってどういうことですか?」


「簡単な話だ。最大の戦犯者である五十鈴菜々子と宗一郎さんの間に養子縁組を成立させたのだ。」



…え?



「は?それって…。」


「ああ、彼女はすでに五十鈴という名を失って米倉という名に変わっている。」


「嘘ぉ!?親子になったんですか!?」



…うわぁ。



「他国の許可を得るためには他に方法がなかったのでな。」


「いや、だからってそんな簡単に…。」



…ですよね。



そんな簡単に決めちゃって良いのでしょうか?



「まあ、複雑な気持ちを感じるのは俺も同じだが、宗一郎さんは彼女に対して何らかの思い入れがあるみたいでな。宗一郎さんの計らいによって米倉菜々子に名を変えさせたのだ。そして更に、宗一郎さんは彼女に新たな人生を用意した。」


「新たな人生って何ですか?」


「彼女の過去を消し去るために、全ての名を捨てさせたのだ。」


「名前を…捨てる?」


「ああ、彼女はすでに『五十鈴菜々子』の名を名乗ることが許されない。そして名前を捨てることと引き換えにして新たな名前を与えられた。」


「新たな名前って何ですか?」


「米倉美由紀だ。」


「はぁっ?って!?はあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」



突然の発言を聞いたことで、

里沙さんは驚きを通り越して呆れ顔を浮かべていました。



「米倉美由紀って!」


「宗一郎さんが決めたことだからな。俺に意見する権利はないんだが、彼女の新たな名前として米倉美由紀の名を与えたらしい。」


「どうしてっ!?」



…そうですよね。


…どうしてなのでしょうか?



「真に親子であるという事実を証明するために、あえて美由紀の名を与えたのだろう。」


「そ、そんなことが許されるんですか?」


「…どうだろうな。心理的な疑問は誰もが感じるかもしれないが、現実的な話として米倉美由紀の名を受け継ぐことで彼女の生存は許されたのだ。」


「それは…そうなのかもしれませんけど…。」


「彼女はすでに米倉美由紀を名乗ることを義務付けられている。それらの条約が決定された現状で拒絶する権利は誰にもない。その名を認めなければ彼女を処刑する以外に道はなくなるからな。」


「は、はぁ…。」



まだ納得出来ていないような複雑な表情で頷く里沙さんですが。


それでもそれ以上の追求は諦めたようで、

静かに五十鈴さんに視線を向けていました。




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