人の価値観は
「お待たせしました~。」
「ふふっ。おはよう成美ちゃん。」
「はい!おはようございます♪」
やっぱり美春さんは素敵です。
学園の制服を着てるだけなのに、
他の誰よりも圧倒的に素敵だと思います。
…すごく綺麗だし。
…すごく優しいし。
外見も性格も完璧です。
「いつ見てもすごく綺麗ですね。」
「そう?」
思ったことを素直に口に出してみると、
美春さんは照れ臭そうな表情で微笑んでくれました。
…照れた笑顔も素敵です。
同性の私から見ても見とれてしまいます。
「やっぱり美春さんが一番です♪」
「ん~。まあ、人の価値観はそれぞれだからとやかく言うつもりはないけどね。」
…?
一旦言葉を区切った美春さんは、
私の顔を見つめてから上から足元までゆっくりと見渡していました。
「今日の成美ちゃんは気合い全開じゃない?少し大人っぽくてすごく良いと思うわよ。」
…え?
「そ、そうですか?」
「ええ、まるでどこかの国のお姫様に思えるくらい素敵よ。」
「そ、そんなことはないと思うんですけど…。」
お母さんが用意してくれたお姉ちゃんの服は普通に町で買えるようなありふれた服の一つだと思います。
…特別すごい服っていうわけじゃないよね?
服の価値は分かりませんが、
それでも豪華なドレスやお姫様が着るようなきらびやかな衣装とは比べものにならないはずです。
…そもそもお姫様を見たことはないけどね。
九鬼穂乃華さんという方の名前は知っていますが、
出会ったことはありません。
セルビナ王国でも見ていませんし。
共和国にはいないそうです。
「美春さんのほうが素敵ですよ~。」
「ありがとう。まあ今はそういうことにしておくわ。だけど学園に行くまでにはどちらが良いかなんて答えは出ると思うけどね。」
「答え…ですか?」
「ええ。でもまあ、その辺りは学園に向かいながら教えてあげるわ。」
「はあ…。」
良く分かりませんが、
ここで立ち話をしていても学園には行けないので移動するべきだとは思います。
「よろしくお願いします♪」
「ええ、それじゃあ行きましょう。あ~でも今日は荷物が多いみたいね。手伝ってあげましょうか?」
「あ、いえ…っ。大丈夫ですっ。ちゃんと自分で持てますから。」
ケーキの入った箱を両手に一つずつ持っているので荷物が多く見えますけど。
中身は軽いから平気です。
「みなさんに食べていただこうと思って、お父さんにケーキの作り方を教わったんです。」
「あぁ~。なるほどね~。箱の中身はケーキなのね。」
「はい♪」
「ふふっ。御堂君も喜んでくれるんじゃない?」
「…だと良いんですけど。初めて作ったので上手く出来てるかどうかは自信がないです。」
「そうなの?まあ、はっきり言うなら味や見た目なんてどうだって良いと思うわよ。何よりも大事なのは成美ちゃんが作ってくれたっていう部分じゃない?成美ちゃんの手作りケーキなら、それだけで十分過ぎるほどの価値があると思うわよ。」
「そうなんですか?」
「私の意見としてはそういう女の子っぽい努力は大事だと思うわ。御堂君だって成美ちゃんの手作りケーキなら大喜びでしょうしね。」
「…そうでしょうか?」
「まあ、今ここで心配するよりも実際に食べてもらうのが一番手っ取り早いでしょうけどね。」
…あ、はい。
…そうですね。
確かに言われた通りなのですが、
それでもやっぱり緊張してしまいます。
「とりあえず行きましょう。一時間くらいかかるから、急がないと御堂君が先に学園についちゃうかもしれないわ。」
「あっ、はい。」
それは困ります。
「分かりました。」
「ええ。それじゃあ行きましょう。」
「はい!」
「ふふっ。」
さりげない仕種で私を先導しながら歩きだした美春さんは、
私を庇うかのように歩きやすい道を選びながら学園までの道案内をしてくれました。




