かみ砕いて
…って。
…うわ~。
…本当に食べてるよ。
駄菓子屋さんを出てからずっと、
霧華ちゃんに道を教えてもらいながらお家に向かって歩き続けているのですが。
手を繋ぎながら一緒に歩いている霧華ちゃんは、
買ったばかりのアメ玉の袋から次から次へとアメ玉を取り出して口の中へと運んでいました。
…すごい勢いだね。
口に入れた直後にガリガリとアメ玉をかみ砕いて消化しているようです。
たった30分くらいの間に100個を越えるアメ玉を食べていました。
「そんなに食べて飽きないの?」
「別に…。いつものことだし。」
「い、いつもそうなんだ…。」
霧華ちゃんとは仲良くなりたいですけど。
さすがにアメ玉100個は真似できそうにないです。
「気持ち悪くならないの?」
「全然平気。」
…そうなんだ。
私ならきっと気分が悪くなって途中で嫌になると思います。
「本当にアメ玉が好きなんだね。」
「別に…。ただ食べやすいだけよ。」
…え~?
…食べやすいかな?
私はそうは思いませんが、
霧華ちゃんにとってはそうなのでしょうか?
「あんまり食べると晩御飯が食べれなくなっちゃうよ?」
「そんな心配はいらないわよ。私の家はお父さんもお母さんも仕事に行ってて夜遅くまで帰ってこないから晩御飯の時間はまだまだ先だし。」
「え?そうなの?」
「なによ!?何か文句でもあるの!?」
「う、ううん。そうじゃないけど…。お腹空かない?」
「…うるさいわね~。アメを食べてれば十分過ぎるくらい満足よ。」
…あぅ~。
どうやら霧華ちゃんがアメ玉を食べているのは、
お家に帰ってもご飯がないからのようでした。
「私のお家でご飯食べていく?」
「い・ら・な・い。そんなことしたら家に帰ってからご飯が食べられなくなるじゃない。」
「でも…。お腹空くよね?」
「慣れてるから平気よ。別にご飯が食べれないわけじゃないし、10時には食べれるから心配してもらう必要はないわ。」
…10時?
今が7時を過ぎた頃だと思うので、
まだあと3時間ほど先です。
「本当にお腹空いてない?」
「平気よ。余計な心配はいらないわ。」
…う~ん。
霧華ちゃんは表情一つ変えずに平気だと言いました。
…だけど心配だよ~。
「朝とお昼はどうしてるの?」
「朝は用意してある朝食を一人で食べてるけど、お昼はお父さんのお店で食べてるし、夜は家族3人で揃って食べてるから大丈夫よ。」
…そっか~。
とりあえずちゃんと食べれてはいるようです。
…家族揃ってご飯を食べれるのが夜だけだとすると。
無理に私の家に誘ってご飯を食べてもらうと、
せっかくの家族団欒の時間がなくなってしまうかもしれません。
…だったら無理は言えないよね。
霧華ちゃんが唯一家族と過ごせる時間が夕食なのだとしたら、
私が余計なことをするべきじゃないと思います。
…霧華ちゃんから望まない限り、強制は出来ないよね。
家族仲良く食事を出来ることを祈りながら、
霧華ちゃんをお家に招待するのは諦めることにしました。




