分かりたくないような
何故か喫茶店とは逆方向に歩き始めた霧華さんは、
商店街の入り口でようやく立ち止まってくれました。
「…で?」
…えっ?
…で、って何?
不意に話し掛けられたのですが、
何に対する質問なのかが分からなくて困ってしまいました。
「何が…?」
「は?何が?じゃないわよっ!ったく、これだからお馬鹿を相手にするのは疲れるのよ!!」
…あうぅ~。
霧華さんはまた不機嫌そうな表情で私を睨みつけています。
「ホンットに鈍いわね!今の状況を考えれば普通分かるでしょ!?」
…え~?
…そんな~。
突然怒りだされても分からないことは分かりません。
「何が知りたいの?」
「お馬鹿の家がどこにあるのかを聞いてるのよっ!!!」
…あ~。
霧華さんは私のお家がどこなのか知りたかったようでした。
「私のお家が知りたいの?」
「別に知りたいわけじゃないわよ!!!ただお馬鹿が道に迷ってばかりであまりにも可哀相だから途中まで送ってあげようかなって思っただけよっ!!!」
…なるほど~。
何となく分かるような。
それでいて分かりたくないような。
すごく複雑な心境なのですが、
今は『途中まで送ってあげる』という意味で受け取れば良いと思います。
「お家に送ってくれるの?」
「途中までよっ!!『途・中・ま・で!!』分かった!?」
「うんっ!分かったよ♪」
ものすごく照れ屋さんで変わった子ですが、
本当はとても優しくて良い人なのかもしれません。
「お願いしても良い?」
「途中で飽きたら帰るから、そのあとは自分で帰るのよ!!」
「うん。ありがとう♪」
「………。」
途中まででもお家に近づければ何とか一人で帰れます。
「お願いします♪」
「…ふんっ!」
精一杯の笑顔でお願いしてみると、
霧華さんは恥ずかしそうな表情でそっぽを向いてから商店街の外に視線を向けました。
「で?結局どこに向かえば良いのよ!?」
…あ、うん。
「私のお家はね…。」
ポケットに仕舞っている住所を書いたメモを霧華さんに見せてみると、
霧華さんはすぐにどの辺りなのか分かったようでした。
「あぁ~。あの辺りね。」
「知ってるの?」
「まあ、町の中なら大抵知ってるわ。」
「すご~いっ!それじゃあ、どこにでも行けるの?」
「どこでもってわけじゃないけど。迷子のお馬鹿に比べれば遥かに行動範囲が広いでしょうね。」
…あぅぅ~。
そこを言われてしまうともう何も言い返せません。
「ごめんね。」
「別にどうでも良いわよ。…って言うか、年下の私に道案内をしてもらうなんて、正真正銘のお馬鹿よね?」
…う~ん。
…そうかも。
自分でもそう思います。
「もっと頑張るね。」
「全く出来そうにないけどね。」
「あう~。」
やっぱり言い返せないです。
「それでも頑張るよっ♪」
「あっそ。勝手にすれば?」
そっけない態度で私を見放す霧華さんですが、
それでもちゃんと私の手を引いて道案内してくれるようでした。




