無言の霧華
…ん~。
…そろそろ良いかな?
霧華さんのお父さんがいる喫茶店に戻る途中なのですが、
ずっと抱えていた霧華さんを地面に下ろして解放することにしました。
「無理に連れ回してごめんね。」
「………。」
ひとまず先に謝っておこうと考えて霧華さんから手を放したのですが、
霧華さんは何も言わずにずっと私を見つめています。
…う~ん。
…なんだろ~?
怒るわけでも喜ぶわけでもなくて、
ただ黙って私を見上げている霧華さんが何を考えているのかさっぱり分かりません。
「あ、あの…ね。霧華さん…。」
「………。」
頑張って話かけてみようと思ったのですが、
無言の霧華さんはいつもと雰囲気が違っていて何だかちょっぴり怖いです。
「あの…。その…。怒ってる?」
「…別に…。」
勇気を振り絞って聞いてみると、
本当に小さな声でしたがようやく返事をしてくれたんです。
「いちいちお馬鹿を相手に怒ってるほど暇じゃないのよ…。」
…そ、そうなのかな?
ボソボソと呟く声にはいつもの元気が感じられません。
「もしかしてどこか具合が悪いの?私が無理に抱えてたから苦しいの?」
「………。」
大人しくしてる霧華さんが心配になって聞いてみたのですが、
どうやらそういうことではないようです。
「…別に…。」
霧華さんはただじっと私を見つめたままで何も教えてくれませんでした。
…本当に大丈夫なのかな?
すごく不安になってしまったのですが、
霧華さんが教えてくれないと私には何も出来ません。
「えっと~、その…。とりあえずお店まで送るねっ。」
「………。」
ちゃんと喫茶店まで送り届けようと思って、
霧華さんの手を引きながら歩きだそうとしました。
ですが霧華さんは歩きだそうとせずに、
ぎゅっと私の手を握り返したままでそのまま立ち止まっています。
…えっと~?
「お、お馬鹿は余計な気を使わなくていいのよっ!」
…えっ?
どう話しかければ良いのか悩んでいると、
少しだけいつもの調子を取り戻した霧華さんが私の手を引いて歩きだしました。
ですが歩き出した方向は喫茶店ではありません。
「あ、あの…っ!?そっちは逆方向だよっ?」
「うるさいっ!!お馬鹿は黙ってついて来れば良いのよっ!!」
…あうぅ。
慌てて霧華さんを引き止めようと思ったのですが、
何故か怒り始めた霧華さんは私の手を引いたままで強引に喫茶店とは反対の方向に歩きだしてしまいました。




