翔子の財布
「それはそうと、お金の価値が分からないっていうことは成美ちゃんはお金を持ってないってことよね?」
…え?
「あ、はい。持ってないです。」
配達で受けとったお金は持っていますが、
自分のお金ではないので大事にポケットの中に仕舞ってあります。
「お店のお金は持ってますけど、自分のお金は持ってないです。」
「そう。」
素直に自分の状況を答えると、
お母さんの質問は続きました。
「…っていうことは、財布も持ってないんじゃない?」
「あ、はい。持ってません。お家でお姉ちゃんのお財布を借りようと思ってたんですけど。昨日はお財布を探すのを忘れてたのでまだ持ってないです。」
「あ~、やっぱりないのね。」
「は、はい…。」
お金を持つ以上はやっぱりお財布は必要なのでしょうか?
「帰ったら探してみます。」
「それでも良いけど、良かったら翔子の財布をあげてもいいわよ。」
「えっ!?翔子さんのですか!?」
「ええ、成美ちゃんさえ良ければ、だけどね。どうする?」
「そ、その…っ。頂けるのならすごく欲しいですっ!」
お姉ちゃんのお財布ももちろん欲しいですけど。
翔子さんのお財布はもっともっと欲しいです。
「本当に頂けるんですか?」
「ええ、良いわよ。この間、鞄を持ってきてくれた時に翔子の財布も中に入っていたから成美ちゃんが使ってくれるのなら持っていって良いわよ。」
…やった~!!!
翔子さんが使っていたものならどんな物でも欲しいです。
「結構使い込んでるから汚れてるけど、まだまだ使えると思うわ。」
翔子さんのお財布がここにある説明をしてから、
戸棚の中から少し汚れたお財布を取り出してくれました。
「はい。どうぞ。」
「は、はいっ。」
お母さんから受け取ったのは、
ピンク色のハートの模様が入った白いお財布でした。
…可愛い♪
「本当にもらっても良いんですか?」
「ええ、折角だから中身もあげるわ。大したモノはないと思うけど、いらないモノがあれば処分してくれれば良いから。」
「い、いえ…。そんな…。」
処分なんて勿体なくて出来ません。
翔子さんの想い出の品は大切に保管したいです。
「中を見ても良いですか?」
「ええ、いいわよ。」
お母さんの許可をもらってからお財布の中を見てみると、
思っていた以上に色々なモノが入っていました。
「あ、あの~。お金も入ってますけど…?」
金額はまだ分かりませんが、
どう考えても5000f以上のお金がお財布の中に入っています。
「このお金は…」
「ああ、良いのよ。」
返そうと思ったのですが、
お母さんが手で制しました。
「そのお金は翔子の物だから成美ちゃんが使ってくれれば良いわ。」
「え?で、でも…。」
「ふふっ。良いのよ。私が持っていても生活費で消えていくだけだから、成美ちゃんが使ってくれれば良いの。」
「で、でも、結構沢山あるんですけど…。」
「大丈夫よ。そのお金は翔子が自分で貯めたお金だから遠慮はいらないわ。それに使うべき本人がいないのに残しておいても仕方がないでしょう?」
「そ、その…。本当に良いんですか?」
「ええ、良いわよ。成美ちゃんが使ってくれるのなら翔子も満足でしょうしね。」
…そ、そうでしょうか?
本当に満足かどうかは分かりませんが、
お母さんは翔子さんのお金を受けとってくれそうにありません。
…はぅ~。
ちょっぴり困りながら他のモノも見てみると、
お財布の中には細々とした物が沢山入っていました。
…全部、翔子さんの物なんだよね?
私の知らない翔子さんの想い出がお財布の中に沢山詰まっているようです。
「本当に…このお財布を頂いても良いんですか?」
「ええ、成美ちゃんさえ良ければ持っていって良いわ。」
何度も何度も確認してみたのですが、
それでもお母さんの考えは変わらないようでした。
…翔子さんのお財布なんだよね。
…欲しいな。
世界でたった一つのお財布です。
他では絶対に手に入りません。
…翔子お姉ちゃん。
翔子さんの笑顔を思い浮かべながら、
お財布を頂くことにしました。
「翔子さんのお財布を使わせて欲しいです。」
「ええ、どうぞ。」
「ありがとうございます♪」
優しく微笑んでくれるお母さんに感謝しながら、
翔子さんのお財布を大事に大事に抱きしめました。




