毎日余っちゃって
『コンコン』と玄関の扉をノックしてみると、
お家の中から翔子さんのお母さんの声が聞こえてきました。
「は~いっ。どなたですか?」
「あ、あのっ!お花の配達に来ました~。」
「ああ!はいはい、すぐに行きますね。」
私の返事を聞いた翔子さんのお母さんは、
すぐに玄関を開けて外に出てきてくれました。
…やっぱり翔子さんのお母さんだよ~。
「あら?あらあらっ?成美ちゃんじゃない!」
2週間ぶりに会えた翔子さんのお母さんを見て喜んでいると、
翔子さんのお母さんも笑顔で出迎えてくれました。
「久し振りね~!今日はどうしたの?」
「え~っと、その~。お花の配達に来たんです。」
「お花?」
「あ、はい。これです。」
私が来たことで少し戸惑っている様子の翔子さんのお母さんに、
お店から預かってきた花束を差し出すことにしました。
「深海花店からの配達です♪」
「あらあら。成美ちゃんが届けてくれたの?」
「あ、はい。昨日から働かせていただいてるんです。」
「あら、そうなの?」
「は、はい。あ、でも…まだ始めたばかりで何も分からないんですけど…。」
「ふふふっ。まあね。誰でも最初はそういうものよ。だけど途中で諦めずに、まじめに続けてさえいればいつかちゃんと出来るようになるはずよ。」
「あっ、はい。それまで頑張ります♪」
「あら~。相変わらず可愛いわね。それよりもどう?少し時間ある?仕事中で急いでるなら無理にとは言わないけど…。」
「あ、いえ…。少しくらいなら大丈夫です。」
「それじゃあジュースでも飲んでいく?ついさっき作ったばかりのりんごのジュースで良ければ沢山あるから好きなだけあげるわよ。」
「良いんですか?」
「ええ、良いわよ。翔子がいなくなってもいつかまた成美ちゃんが来てくれた時のために毎日用意してたから、飲んでくれないと毎日余っちゃって困るのよね~。」
「…あ、あははは…っ…。」
本当に困っているかのような表情を見てしまったことで、
思わず苦笑してしまいました。
…私のために作ってくれたジュースなら、飲まないわけにはいかないよね。
手作りのりんごジュースの味は今でもちゃんと覚えています。
…甘いけどさっぱりしてて、とっても美味しいんだよね。
翔子さんも大好きだった最高のりんごジュースです。
そのジュースが飲めるのなら喜んで頂きます。
「飲みたいですっ♪」
「ふふっ。それじゃあ中に入ってちょうだい。」
「はいっ!」
翔子さんのお母さんに誘われるまま、
久し振りに翔子さんのお家にお邪魔することになりました。




