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THE WORLD  作者: SEASONS
4月3日
31/4820

乱入

《サイド:天城総魔》


翌日。


学園生活が始まって3日目の朝。


今日は検定会場には向かわずに、

男子寮を出たあとは食堂で朝食を済ませてから校舎に隣接する図書室に向かうことにした。


理由は幾つかあるのだが、

まだまだ調べたいことがあるからだ。


昨日の午後。


翔子と話をしてから、ずっと考えている事があった。


現状でもホワイト・アウトがある限り誰にも負けない自信はある。


例え戦う相手が翔子であっても何とかなるとだろうと考えている。


だがそれは負けないというだけであって必ずしも勝てるというわけではない。


どんな攻撃を受けても吸収出来る自信はあるものの。


上には上がいることを考えれば、

いずれ破られる日も来るだろう。


霧の結界に絶対的な防御能力はないからな。


相手が並みの魔術師であれば負けることはないはずだが、

そうでなければどうか?


最上級の防御魔術であるシールドでさえも許容範囲を越えれば突き抜けることがある。


それはすなわち。


魔術では魔法には勝てない、ということだ。


その事実が当然、ホワイト・アウトにも影響する。


無条件で全ての魔術が吸収できるわけではないからな。


ある一定以上の攻撃を受けた場合。


結界を突き抜ける可能性が十分にあるはずだ。


…とは言え、当面の間は問題ないと思う。


結界の限界を超えるほどの攻撃を受ける機会はまだないと思っているからな。


だがそれはあくまでも、当面は、だ。


いずれ限界は訪れてしまうだろう。


だからこそ。


今後も学園最強を目指す上で力不足は何としてでも補わなければならない課題となる。


それになにより、

防御に自信はあっても攻撃に関して言えば並みの生徒と変わらないからな。


さらなる今後の課題として防御の補強とは別に攻撃の決定打も必須と言えるだろう。


まずはそれらの欠点を克服する為に。


新たな情報を手に入れるべく、

図書室にある幾つもの魔導書に目を通してみる。


一度、教室で魔術の講義を受けるべきだろうか?


そんなふうに思う気持ちもある。


本来なら校舎内にある教室でまともな授業を受けるべきなのかもしれない。


そう思う気持ちも確かにあった。


ただ、どんな授業を受けたとしても俺が望んでいる答えは得られないとも思う。


俺の力は『吸収』という特殊な能力だ。


この魔術は現時点では他の誰にも扱えない稀少な能力でもある。


そのせいで『吸収』という力を説明出来る教師は学園中を探してもどこにもいないだろう。


理論上は不可能とされていた能力だからな。


何らかの授業を受けてとしても知りたい事を教えることができないと思う。


そう思うからこそ独学で知識を集めるしかないというのが実情となっている。


もちろん、まったく別の方法を模索するのであれば授業を受けることに問題はない。


吸収という力にこだわらないなら多少なりとも授業を受ける事に意味はあるだろう。


だが。


わざわざ講義に出なくても魔導書を調べて分かる事なら図書室で調べた方が集中出来ると思っている。


周囲を気にせずに済むだけまだましだからな。


今はまだ授業に参加せずに魔導書と向き合いたい。


まずは出来ることからやるべきだと思う。


調べるだけ調べてそれでも分からなければ授業に参加すればいい。


自分自身で調べることから始めたいからな。


さしあたって今日の調査は魔法でいいだろう。


単純に魔法が使えれば良いと言うわけではないことは翔子との話し合いによって理解している。


使いこなせなければ意味がないからな。


強くなる為には常に最善の策を考え続ける必要があるだろう。


ひとまずこれからどうするかだが…。


午前中は調べ物に費やすつもりで数十に及ぶ書物を机の上に広げている。


「まずは翔子の言葉の裏付けから始めるか」


小さく呟きながら着々と調べ物を進めていく。


魔法が魔術を下回る可能性や魔法の習得の難しさなど。


あらゆる面での調査を行うためにだ。


様々な魔道書に目を通して刻々と過ぎていく時間。


そんな最中。


調査を開始してから1時間ほどが経過して午前9時を過ぎた頃。


一人の少女が堂々と姿を現して向かいの席に腰を下ろした。


「やっほ~♪今日も元気してる?」


無駄に明るく元気な声が誰なのか?


そんなことは考えるまでもない。


声をかけられたことで視線を向けた先にいたのは昨日と同じように笑顔全開の美袋翔子だった。


「またお前か。今日も助言に来たのか?」


満面の笑みといった雰囲気の翔子に今日もわざわざ話をしに来たのか訪ねてみると、

何故か翔子は首を左右に振ってから俺の問いかけを否定した。


「ううん。特に話すことは何もないわ」


別の理由があるのだろうか?


「…だったら何をしに来た?」


「何っていうほどでもないけど、他にやることもないし、とりあえず様子を見に来たの。」


様子見?


本当にそうなのか?


言い方の問題というほどでもないが、

どちらかといえば暇だから来たように思える。


どちらにしても迷惑なことに変わりはないが、

だがまあ、ここは図書室だ。


出入りは自由にできるからな。


どこにいようと咎められることもなければ、

文句を言うこともできない場所だ。


どこでなにをしようと翔子の自由にすればいいと思う。


そこまでは、構わない。


ただ。


来るのは構わないが目の前にいて尾行は成立するのだろうか?


いや、この場合は監視というべきか?


どちらにしても調査が行える状況だとは思えない。


この状況で分かることがあるとすれば、

せいぜい俺が魔術の知識をほとんどもっていないという事実程度だ。


その事実によって何らかの判断が行われる可能性はあるが、

その程度のことが知られたところで何も問題はないと思う。


そもそも魔術を学ぶために学園に来たのだからな。


何も知らないことは恥でもなんでもない。


「何を見に来たのかは知らないが、当分ここを動くつもりはない。暇ならどこか別の場所で時間を潰してきたらどうだ?」


翔子の目的は俺の試合の調査のはずだ。


「ここにいる必要はないだろう?」


「う~ん。そうなんだけど、それはそれで中途半端なのよね~。何かをし始めた時に呼び出しがかかったりすると面倒じゃない?だったら最初から近くにいるほうが余計な気を使わなくて済むと思うのよね~」


俺の邪魔をすることに関しては何も思わないのだろうか?


出来ることならこの場で気を使ってもらいたいと思うのだが…。


「ここに居座るつもりなのか?」


「そうなっちゃうかな~?まあ、私のことは置いておくとして、今日も勉強なの?」


「ああ、そうだが。結局、何が目的だ?」


「ん~。すごく警戒されてる感じがするけど、特に聞いてもらうほどの用はないのよね、って言うか…一応あるんだけど、今日も試合を観戦したいだけだから、ここにいるあなたに用はないわ」


つまり今日も試合を観戦するつもりでいるということだ。


それは構わないが用がないと断言するくらいならここにいる必要はないだろう。


素直にどこかに移動してくれないだろうか?


「言いたいことは分かった。とりあえず用がないのなら他の所に行くんだな。さっきも言ったが、しばらくここを動くつもりはない」


「ホントに?まあ、試合の前に声をかけてくれるんならそうするけど。いつ検定会場に行くか分からないのに、あなたを放置するわけにはいかないのよね~」


「次にどこに向かうのかはすでに予想出来てるんじゃないのか?」


「まあね~。それはそうなんだけど、一人っきりでただただ待ち続けるっていうのも寂しすぎるでしょ?」


それが監視というものじゃないのか?


いや、そもそも監視役が目の前にいること自体が異常だと思うのだが翔子はそうは思わないのだろうか?


「このままずっと俺を見張っているつもりか?」


「一応、そういう事になるわね」


やはり監視を続けるらしい。


「だったら特に文句を言うつもりはない。監視がしたいのなら離れた場所で好きなだけすればいい」


監視そのものに文句を言うつもりはないからな。


好きなようにしろと告げたのだが、

それでも翔子は動かなかった。


「そんなに邪険にしないでよ。もちろん最初はね。そのつもりだったのよ。でもさ、何時間もただ待ってるだけって、結構キツイって事に気付いたのよね~」


昨日の今日で既に面倒くさくなったのだろうか?


言いたいことはわからなくもないが、

それは翔子の都合であって俺には関係のない話だ。


そんなくだらない理由でかかわり合いになるつもりは一切ない。


「だから、なんだ?」


「だから、どうせ近くにいなきゃいけないのなら、隣でもいいんじゃない?って思ったわけよ」


一度接触したからか、

姿を隠すという選択肢はすでにないらしい。


「なるほど。要するに話し相手が欲しかったんだな」


「ちょっとっ!!人を寂しがり屋さんみたいに言わないでくれる?単に隠れるのに飽きただけよ」


全力で宣言する翔子だが、

その宣言によって『離れた場所から様子を見る』という考えがないことが明らかになった。


本当に監視役を請け負っているのだろうか?


色々と疑問に思う部分があるのだが、

隠れるという選択肢を捨てた翔子に離れた場所にいろというのはもはや無理のある話らしい。


お互いの立場的にどうなのかと思うが、

翔子の距離感に関しては諦めるしかないようだ。


「それで?」


「ん?」


首をかしげる翔子を放置して、

手元の書類に視線を戻しながら尋ねてみる。


「俺に何か用か?」


「用はないわよ」


本気で何もないらしい。


胸を張って答える翔子から悪意が一切感じられないあたり、

本当に用もなく姿を見せたようだ。


「だったらもう一度言う。俺の邪魔にならない場所で好きなだけ監視すればいい。今は調べ物で忙しいからな。用がないのなら気が散るから他の場所へ行ってくれ」


はっきり邪魔だと言い切った。


友達でも何でもないからな。


遠回りな表現をする必要はないだろう。


翔子を無視して調査を再開することにする。


目的は魔法の調査だ。


だが、知らない単語を調べるために複数の魔道書を同時進行で読み進める必要がある。


ただでさえ集中力が必要となる作業だ。


翔子に関わっている暇はない。


机に並べている複数の魔道書を並行して調べ、

気になった部分を別の魔道書でさらに調査していく。


そんな単純な作業を黙々と進めていくのだが、

翔子を無視して作業を再開してからホンの数分後に事態が急変してしまう。


「ん~。あっ♪そうだ!」


翔子の突然の思いつきによって、

こちらの願いがあっさりと否定されてしまうことになる。


黙って何かを考え込んでいた翔子が不意に一つの結論に至ったからだ。


「せっかくだし、何か聞きたい事があったら教えてあげるわよ?意味が有りそうで無かったりする魔導書を読むより面白いかもしれないし~。それに、ほら、これでも私も一応先輩だしね♪結構、色々な事に詳しいのよ」


本当によくしゃべるな。


大人しく黙っていることができないのだろうか?


話しかけてくる翔子の笑顔からは構って欲しいという雰囲気しか感じられない。


こうなるともはや放置すら無理かもしれない。


こちらとしては無視したくても翔子に諦める様子はないように思えるからだ。


だが、だからといってここでまた翔子との会話に時間を費やす気にはなれない。


もしもここで妥協してしまえば今後も同じような状況が続いてしまう気がするからな。


そうさせないためには断固として翔子を拒否し続ける必要があるだろう。


「悪いが、興味はない」


はっきりと伝わるように断言した。


話し合う気はないという意思を伝えたつもりだ。


それなのに翔子は引き下がらないつもりらしい。


「絶対有意義な時間を過ごせるはずだから!だから相談してみるべきだってば!ねっ?ねっ?」


しつこいくらいに食い下がってくる。


離れるのも放置するのも無理のようだ。


俺が場所を変えたくらいでは問答無用で追いかけてくるだろう。


無視もできず、放置もできない。


この状況で調査に集中するのはさすがに無理だ。


もう諦めるしかないのかもしれない。


翔子はどうあっても話がしたいらしい。


あるいは一人にされるのが寂しいのだろうか?


無駄に明るい翔子の性格を思えば友人の数は決して少なくはないと思うのだが、

どうあってもこの場を離れてくれるつもりはないようだ。


「何度も言うが話し合うつもりは一切ない。どうしても話し相手が欲しいのなら、他を当たってくれ」


あくまでも翔子を無視して魔導書に視線を向け続けようと考えた。


だが、それでも。


わずか数秒後に邪魔が入る。


笑顔を浮かべながら殺気を放った翔子が有無を言わさずに実力行使に出たからだ。


ばさばさばさばさっ!!と、音を立てて全ての魔道書が薙ぎ払われてしまった。


机の上にあった魔道書が一つ残らず撤去されてしまったのだ。


「………。」


綺麗に整理して順番に並べていたはずの魔導書が全て薙ぎ払われてしまい、

机の下にばらばらに散らかってしまっている。


その結果を見て思うことは一つ。


もはや諦めるしかない、ということだ。


調査は失敗だ。


図書委員を呼び出せば翔子を強制退去させられるかもしれないが、

すでに俺の集中力は途切れてしまっている。


今更、ここでやり直そうという気にはなれない。


もう一度調べなおすにしても、

少し時間をおいて気持ちを落ち着けてからにするべきだろう。


決して自分に非があるとは思わないが、

図書室でなら有意義な時間を過ごせると考えていた自分が間違っていたのだとはっきりと自覚できた。


そしてさらに思う。


本来ならば騒いでいい場所ではないはずなのだが、

翔子に説得は通じないだようだ。


それが可能ならすでに話はついているはずだからな。


静かにすべき図書室で実力行使を行った翔子をとがめる人物が誰一人としていないということによって図書室でさえも学園の意向によって動いているということが分かってしまった。


もちろん翔子の行動に驚いている生徒達はいるようだが、

逆に言えば翔子の行動に対して疑問を感じていない者達が翔子の協力者と言えるだろう。


見える範囲内だけでも思っていた以上に数が多い。


ざっと数えて10名以上の生徒達が翔子の行動を見守っているように思える。


これが学園中となると100や200では数え切れないだろう。


だとすれば、少し考えを改めるべきかもしれないな。


まさか俺の監視がこれほど大規模に行われているとは思ってもいなかったからだ。


ここだけでこの状況なら学園内はどこまで監視の目が広がっているのだろうか?


少し興味が出てきた。


とは言え、翔子に聞いても答えては貰えないだろう。


黙らずにはいられない性格のようだが、

余計なことをべらべらと喋るような口の軽い人間には思えないからな。


今は聞くだけ時間の無駄だろう。


それでも状況的に気にはなる。


俺一人に対して動員するには大げさすぎるように思えるからだ。


一度、背後関係を調べてみるべきかもしれない。


何が目的なのだろうか?


その答えを調べる必要があるかもしれないと今更だが思えてきた。


「ふぅ」


現状を確認したことでため息を一つ吐く。


そしてもう一度翔子に視線を向けてみる。


相変わらずの笑顔だ。


監視されているという事実さえなければ、

とても可愛らしい少女だと思う。


これまで見てきた生徒の中で間違いなく1、2を争う美少女だろう。


翔子が側にいること自体に不満はない。


決して悪い気はしないからな。


だがそれはあくまでも通常なら、という前提があっての話だ。


監視役として接近してきた女を素直に信じるほどまぬけな性格ではない。


今ここで見せている笑顔の裏に何らかの思惑が感じ取れる以上。


不用意に関わるのは身の破滅を招くだけだ。


「一応確認するが、まだ俺に何か用か?」


「だ・か・ら!用はないけど、暇なのよっ!!」


はっきりと言いきった翔子の言葉に裏の事情は感じられない。


おそらく本当に暇なのだろう。


「もう一度聞くが、本気で言っているのか?」


「当然でしょ!」


当然、なのだろうか?


そもそも監視が忙しいことなどあるのだろうか?


色々と疑問を感じるが全力で肯定する翔子を見つめながら何度目かのため息を吐いてみる。


そろそろ俺も疲れてきたな。


これが翔子の作戦だとすれば実に有効的な妨害方法だと思う。


ただ暇だというだけの理由で笑顔で迫られているのだ。


実力行使で追い払うこともできない。


「わかった。どうしても相手になって欲しいのなら話し相手になってやろう」


「なによ~。その言い方だと、まるで私が友達のいない孤独な美少女みたいじゃない!?」


「………。」


今更だが、話が噛み合う気がしない。


友達がいるかいないかは知らないが、

自分で美少女と言う必要はあっただろうか?


いや、そもそも翔子から話を聞いて欲しいと言っていたはずだ。


それなのに怒鳴られる理由は何なのだろうか?


よくわからない。


翔子の性格が理解できない。


こちらの意図が伝わることはないのだろうか?


もはや翔子の言葉を追求する気にもなれず、

ただただため息を吐いてみる。


「まあ、いい。得るものは何一つとして無いと思うが、一応質問はさせてもらおう」


話し合うだけ無駄だという考えをあからさまに強調してみたのだが、

おそらくこれも伝わらないだろうな。


「う~ん。なんだか気になる言い方ね~」


こちらの意図に気づいたからどうかは不明だが、

話し合いが成立することには満足したらしい。


翔子は機嫌を取り戻して笑顔を浮かべている。


「まあいいわ、何でも聞いて!」


楽しそうに微笑む笑顔の裏側は分からない。


だがこうなった以上。


翔子が満足するまで話し合うしかないだろう。


そうだな。


幾つか聞いてみたいことはあるが、

まずは昨日の試合に関してだ。


「昨日の最後の試合は見ていたか?」


「ええ、もちろん見てたわよ」


「俺のホワイト・アウトの能力と、お前の能力を比較して、どちらが上だと判断している?」


「うわ~。ズバッと聞いてくるわね~。まあ、お互い駆け引きをしても意味はないでしょうし、その方が私も答えやすくていいんだけどね~。だけどはっきり言うなら私の方が遥かに上ね。私の力ならホワイト・アウトを突き抜ける自信があるわ」


「それは魔術と魔法の差だな?」


「そうよ。私の攻撃をあなたの結界が防ぐ事は不可能よ」


「だとしたら魔法としてホワイト・アウトを発現した場合はどうだ?」


「魔法としての戦いになれば、お互いの技術の差が結果として現れるから、現状で言えば答えは変わらず私の勝ちね」


技術の差か。


なるほどな。


ここまでの会話によって一つの結論を導くことができた。


「現状と言ったな?俺とお前の実力差はどの程度だと判断している?」


「昨日の試合を見た限りで言えば、私の力を10だとすると、あなたの力は2か3くらいかしら?それでも入学したばかりの新入生と考えれば驚異的なんだけどね~」


2か、3か。


悪くない評価だ。


「やはりそうか」


ここで確信を得た。


すでに翔子は恐れるほどの力の持ち主ではないということだ。


昨日の試合において俺はまだ全くと言っていいほど力を見せていなかった。


基本的には奪った力を叩き返していただけだからな。


俺自身の力はほとんど見せていない。


だとすれば、実際の差はもっと小さいだろう。


3倍ではなく2倍程度だろうか。


それでも差は十分大きいが予測が外れているという意味では翔子を出し抜くことに成功しているはずだ。


そのうえでもう一つ。


翔子はまだ気付いていないようだが俺はすでに一部の魔術を魔法として使う事も出来るようになっているということだ。


こちらはまだ実験段階だが、

俺は魔法が使えないわけではない。


魔術に関する知識は初心者並だが技術だけは徹底的に練習を重ねてきたからな。


14年だ。


魔術師として覚醒してから14年間。


生き抜くための手段として徹底的に魔術を使い込んできた。


まだまだ扱える魔術の種類は少ないが、

技術だけなら上級者を名乗れるだろう。


だからこそここまで勝ち進んでこれたとも言える。


魔法に関しては最後の切り札として当分の間は見せるつもりはないものの。


力を隠した状態で試合を勝ち進んできたことは事実だ。


だから翔子の予測は外れている。


読み間違えている部分が多い。


それでも現段階での魔力の総量は翔子に大きく劣るだろう。


その一点において反論の余地はないが俺は吸収の力を持っている。


今までの試合で得た魔力とこれから先の試合で翔子に辿り着くまでに戦うであろう者達の魔力。


そして俺自身の成長を考えれば翔子に追い付くのは不可能ではないだろう。


もしも満足できなければ魔力の吸収の為だけに何度か試合を繰り返してもいい。


いずれ魔力の総量が翔子を上回れば、

ホワイト・アウトが翔子の魔力も食らい尽くすはずだ。


とはいえ…。


他人の魔力を得ただけで強くなれると思うほど愚かでもない。


俺自身が強くなる必要はある。


「もう一つ聞きたい事がある」


「なになに?」


「力の象徴と聞いて、お前なら何を思い浮かべる?」


「力の象徴?」


「そうだ」


「う~ん?なんだろ~?」


翔子はうなり声を上げながら考え込んでいる。


本当にわからないのだろうか?


それとも分かっていて答えないのだろうか?


感情の変化が激しい翔子の表情からはどちらが正解なのかがわからない。


喜怒哀楽がはっきりとしすぎていて、

些細な変化というものがわかりにくいからだ。


「どう思う?」


「ん~。分からない…かな?」


具体的な何かを答えてくれることはなかった。


この言動が芝居なのか本気なのかがわからない。


もしも演技だったとすればかなりの役者だ。


俺では翔子の心理を読みきれないだろう。


だがもしも翔子の言動が本気だったなら、

裏を読み解くこと自体が無意味な気がする。


どちらが正しいのだろうか?


付き合いの浅い俺ではわからない。


翔子の言動は一方的な部分が多すぎて判別しきれない。


これまであまり他人と関わる経験が少なかったとは言え、

翔子の行動は決して一般的ではないだろう。


監視対象を翻弄させるという意味ではまさしく適任だ。


決していい意味ではないが、

だからこそ翔子が監視役なのだと何となく理解できた。


これほど面倒な人物はそうそういないだろうからな。


悪意がないにもかかわらず全く会話が成立しない。


そんな翔子をまともに相手にするのは気苦労以外の何ものでもない。


「分からないならいい」


これ以上質問をしても無駄だろう。


話が噛み合わないからな。


もはや聞くべきことは何もない。


そう考えて話を打ち切ったのだが、

それでも翔子はしつこく問い掛けてくる。


「それで?答えは何なの?」


自分からは情報を出さずに、

こちらの情報だけを求める翔子の行動に悪意が感じられないのが不思議だ。


もしかしたら、これが素の性格なのだろうか?


監視役として演じているのではなく、

純粋な性格のように思えてしまう。


現段階ではそうとしか思えない。


まあ、どちらでもいいことだが…。


翔子の性格に関しては気にするほどの理由もない。


どうせ試合で監視されるのなら答えを見せても結果は同じになるからな。


だとすればこれから取るべき行動は一つしかないだろう。


「人それぞれに答えは違うと思う。だが、俺なら…」


それ以上の説明は一旦保留にして、

ひとまず席を立つことにした。


「説明するよりも実際に見せた方が早い。会場に行くぞ」


散乱した魔道書を適当拾い集めてから図書室の出口に向かって歩き出す。


「ちょっ…待ってよ~!」


翔子の返事も聞かないまま歩き出したことで、

遅れて席を立った翔子が慌てて追いかけてきた。


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[一言] この女クレイジーすぎ
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