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THE WORLD  作者: SEASONS
プロローグ
3/4820

ジェノス魔導学園

《サイド:米倉美由紀》


さて、と。


とりあえず説明を続けるわね。


共和国では国内にある全ての町で魔術師の支援組織である魔術師ギルドと魔術師の育成を行う魔導学園を抱えているわ。


これは私が治めている港町ジェノスも同様で、

共和国全体で見ても最大規模の巨大学園を自治しているの。


まあ、自治と言っても国家としてはまだまだ弱小の発展途上国だから税金の徴収には限りがあるし、

資金管理と街の発展はそれぞれの町ごとに行うという原則があるせいであまり資金が豊富なわけではないんだけどね。


それでも後世の育成という目的を担って学園の運営は各町に任されているのよ。


だから魔術を極めようとする人達にとって魔導学園は一種の聖地と言えるでしょうね。


共和国の各地から優秀な魔術師が教師として集まるし。


ありとあらゆる魔術と魔法の技術が混在しているし。


豊富な知識と経験が蓄積しているからよ。


今では大陸中にひっそりと設立されている魔術師ギルドも各学園を卒業した魔術師達が徐々に拠点を広げて共和国から各国へと進出していったという経緯があるわ。


学園は魔術師を育成して、

育った魔術師の一部が魔術師ギルドに所属して、

各国で難民となっている魔術師を保護して共和国に集める。


そして集まった魔術師は学園で成長して、

再び各国へ進出して難民となっている魔術師を呼び集める。


その繰り返しによって共和国は勢力を拡大しつつ行き場のない魔術師達を保護しているの。


もちろん魔術師全員が魔術師ギルドに所属してるわけじゃないけどね。


学園を卒業したからといってもこうしなければいけないっていう決まりはないからどういう人生を歩むのかは個人の自由よ。


だけど大抵の場合は4つの選択肢に分かれるかしら?


一つ目は魔術師ギルドに所属して国外の拠点を広げたり、

国内の治安維持に協力したりする傭兵のような立場ね。


二つ目は冒険者ギルドに所属して各種依頼を請負いながら他国から物資を調達したり、

国内の未開地域の開拓をしたりして何でも屋とでもいうべき仕事につく人もいるわ。


ん?


魔術師ギルドと冒険者ギルドは何が違うのかって?


そうね~。


二つのギルドの違いは国営と民間企業と言えば分かるかしら?


魔術師ギルドは共和国が運営していて国の発展を目的としているのよ。


基本的には魔術師の育成と保護ね。


各学園の教員も魔術師ギルド所属ということになるわ。


わかりやすく言うなら公務員ってことよ。


だけど冒険者ギルドは民間の経営で個人的な依頼や任務を解決することを目的としているの。


物資の調達とか盗賊退治とかもそうね。


だから何でも屋とも言われるんだけど、

国が経営してるわけじゃないから比較的自由度は高いと思うわ。


上からの命令で動くんじゃなくて自分のやりたい仕事を選べるからよ。


どちらが良いとは一概には言えないけれど、

どちらも必要な組織なのは間違いないでしょうね。


で、三つ目の選択肢として共和国の軍に所属する人もいるわ。


これはもう完全に国の組織よ。


非公式とは言え、

国内外を自由に活動する魔術師ギルドとは違って、

軍の活動範囲は完全に国内に限定されているわ。


まあ、下手に国外に出ようものなら侵略とみなされて攻撃されてしまうからでもあるんだけどね。


国の安全のために保持している部隊なのよ。


もののついでに説明すると、

共和国の軍は大別して3つの組織に分かれているわ。


陸軍と海軍と国境警備隊の3つよ。


基本的には陸軍が国内の治安維持部隊として活動していて、

他国からの諜報員を強制送還したり、各町の治安向上に努めているの。


海軍は周辺海域を守りながら他国からの難民の保護をしたり、

海賊を撃退したり、漁業に協力したりしているのよ。


そして最も危険な地域を担当しているのが国境警備隊でしょうね。


これは陸軍にも海軍にも属さない独立組織で、

有事の際には独自の判断で行動することが認められている共和国の最前線部隊でもあるわ。


他国からの攻撃に対して真っ先にぶつかる部隊だから危険度は最大級よ。


だからこそ戦闘技術に特化した精鋭部隊としてその名を周辺各国に轟かせてもいるわ。


それら3つの軍部が共和国の保有する軍事力よ。


一応、公式では全て合わせると20万を超える大部隊になるって発表しているわ。


ただ、実際に全部隊を動員しようと思うと、

資金的な問題で国内の経営が傾いてしまうでしょうけどね。


今のところそれほど大規模な戦闘が起きたことはないから全部隊を動員する必要性は今後もない…と、思うわ。


というか、起きないで欲しいと願っているというべきかしら?


いつ、どこで、何が起きるかなんて、誰にもわからないけどね。


ひとまずその辺りの不安に関しては置いておくとして、

最後の選択肢は赤十字魔術医師団と呼ばれる医療機関に入ることよ。


わりと戦闘に特化しがちな魔術師だけど、

ちゃんと回復魔術も発展しているわ。


だから一般的な医師や薬剤師とかと協力して国内各地の病院や施設で治癒術師として活躍している魔術師も数多くいるの。


とまあ、そんな感じで。


魔術師ギルドと冒険者ギルド、そして軍と医師団。


それら4つの組織が魔術師の主な就職先になるでしょうね。


もちろんどこにも所属せずに個人として自由に活動している人や一般の仕事に就く人もいるけれど、

その辺りはごく一部ね。


ほとんどの魔術師が4つの組織のどこかに所属しているわ。


そうして組織の規模を拡大することで、

共和国も規模を拡大してきたのよ。


だから魔導学園の存在は共和国にとってなくてはならない存在と言えるでしょうね。


…って、まあ、色々と話が逸れた気がするけど。


肝心なのは私が統治している港町ジェノスにある魔導学園に今年も多くの生徒達が入学してきたという話よ。


季節は桜の花びらが舞う春。


日付は4月1日ね。


曜日としては日曜だから世間一般的には祭日よ。


だけど学園には関係のない話だったりするわ。


全寮制のうえに生徒数も非常に多いから学園の施設や機能を止めることはできないのよ。


だから休日らしい休日はないわ。


せいぜい月末くらいかしら?


毎月、最終日だけは各種施設の点検整備のために全ての業務が停止するの。


さすがにその日だけは完全に休日ということになるんだけど、

それ以外は曜日に関係なく常時運営されているわ。


そんなジェノス魔導学園に今年も千人を越える新入生達が入学式を迎えるために学園の一画に集まっているところなのよ。


一応、私も今いる場所だけど、

ここは各種式典においてのみ使用される式典会場よ。


最大5千人ほど収容できる大規模会場なんだけど、

今日は入学式のために開放されているわ。


新入生だけじゃなくて保護者や学園の教師達も集まるからよ。


そんな中で最も注目を集めているのはもちろん新入生達なんだけど、

まだまだ幼さを感じさせる少年もいれば少し大人びた雰囲気を持つ少女もいるわね。


屈強な体つきの青年もいるし、

緊張して落ち着きの無い雰囲気の女性もいて千差万別と言えるほど様々な子達が集まっていると思うわ。


その雑多な雰囲気だけを見てしまえば一見統一性の欠片も感じられない新入生達に思えるけれど。


これは当然の結果なのよ。


魔導学園は通常の教育機関とはほんの少しだけ違いがあるの。


年齢で区分けされる一般的な教育機関とは違って、

魔術師であるかどうかという部分だけが問われるからよ。


だから最低限の年齢制限はあるものの、

簡単な試験を受けるだけで誰でも学園に入学する事ができるの。


特に私が経営しているジェノス魔導学園の入学条件はとても単純な内容になっているわ。


第一に『魔術師としての才能があること』


これは魔力さえあれば問題ないわね。


第二に『15歳以上であり、20歳までであること』


要するに義務教育が終わっていて、

成人するまでっていうことよ。


ただそれだけなの。


だから入学試験自体は存在するけれど、

その成績によって学園に入れないということは一切ないわ。


結論から言えば満点でも0点でも入学できるしね。


それじゃあ、何のための試験なの?っていう話になるんだけど、

入学試験はあくまでも新入生達の実力を図るためのものさしでしかないわ。


ただ単にどの程度の実力があるのか?という部分を調査するためだけの試験なのよ。


だから年齢や能力にバラつきがあるし、

見た目に差が出てくるのも当然の結果ね。


入学は自由だし、退学も自由。


そして授業の選択も自由にできるわ。


戦闘技術を磨くことも、

医師として学ぶことも、

研究者として魔術の発展に努力するのも全て、

本人の気持ち次第なのよ。


ただ、卒業はそれなりに難易度が高いわ。


だけど卒業試験そのものはいつでも好きな時に受けることができるの。


そういう意味でも学園での自由度は非常に高いでしょうね。


唯一制限があるとすれば、在学できる年齢かしらね。


学園に在学可能な年齢は最長で22歳までと定められているわ。


これは単純にいい加減に自分の人生を決めなさいっていうことよ。


成人していつまでも学生なんてしていられるほど共和国は裕福な国じゃないの。


ちゃんと仕事をして税金を払ってもらわないと困るのよ。


あくまでも学園は国営なんだしね。


国の方針には従ってもらわないと困るわ。


だからもしも22歳までに卒業できなかった場合は強制的に中退ということになるわ。


そういう生徒達はどこの組織にも入れずに一般的な職業に就くことが多いみたい。


まあ、卒業できないくらい魔術師としての才能が低いんだから大きな組織に入るのが難しいのは仕方がないわよね。


ただ、そのせいで道を逸れてしまって犯罪に走る子もいるみたいだけど。


そういう子達は大抵、陸軍の治安維持部隊に捉えられて強制労働という名の未開地域の開拓に送り込まれたりするらしいわ。


まあ、そんな子は本当にごく一部で、そうそういないんだけどね。


でも、実際問題として卒業できない子達は毎年数多く出るわ。


それでもジェノスの魔導学園は一人でも多くの魔術師を育成するという目的を持って多くの生徒を募集しているから入学希望者は毎年かなりの数になるの。


今年度のように千人を超えることもよくあることなのよ。


…と言うよりも、今年は少ないほうかしら?


平均的には毎年2000人くらいはいるのよ。


多い時には3000人を超えることもあるわ。


だからこそ、生徒数が多い反面として学園の設備維持のために他の学園よりも入学金がかなり高めなのが最大の欠点と言えるんだけどね。


一応、魔術師としての資質さえあれば基本的には誰でも簡単に入学できるから、

お金さえあればという条件がつくけれど、

入学の自由さがこの学園の特色なのよ。


さらに言うと。


ジェノス魔導学園が他の教育機関と異なる要因の一つが卒業試験にあるわ。


入学が自由なジェノス魔導学園では卒業に関してもかなりの自由が許されているの。


もちろん学園の歴史上において学園の存在そのものを否定しかねないその『偉業』を成し遂げた子はいまだかつて誰もいないんだけど。


この学園の卒業試験は入学式の『当日』から受ける事が出来るようになっているのよ。


卒業試験の内容に関しても入学式で一通り説明されるんだけど。


これから魔術師として勉強をしようと考える子達にとってはどうころんでも合格はありえない内容になっているわ。


卒業試験を受ける権利は誰にでもあるし、

いつでも何度でも試験を受ける事は出来るんだけど。


現実的にはちゃんと長い年月をかけて成長を繰り返して苦労の末にようやくたどり着ける最終的な目標に定められているからよ。


本来なら数年の年月をかけて魔術師としての腕を磨いてから着実に卒業を目指していくように調整されているの。


それでも卒業試験への挑戦を入学式当日から認めているのは自分自身の実力を過信して暴走する事がないようにと考えた学園の措置でもあるわ。


中途半端な実力で自分を過信して周りが見えなくなった子達にいかに井の中の蛙であるかを教えつつ、

学園を卒業する事の難しさを教える事が出来るという二つの意味が含まれているのよ。


まあ、一言で言うなら『調子にのるな』っていうことよ。


もちろん、本気で努力しても試験に落ちる子はいるから『もっと頑張りましょう』っていう意味でもあるけどね。


ちゃんと自分の進むべき方向性を見極めて努力すれば卒業できるような試験内容にはしているわ。


だから卒業できない生徒よりも、

ちゃんと卒業していく生徒の方が圧倒的に多いのよ。


とまあ、そんな感じで様々な理念を持つジェノス魔導学園なんだけど。


今年も入学式がこれから行われるから共和国の代表である私も今日だけは本来の役職である知事兼理事長として入学式に参加して生徒達に挨拶をする予定が組まれているわ。


さてさて。


今年はどんな子達が集まったのかしら?


自分で言うのもどうかと思うけど、

私としてはこういう祭りごとを徹底的に楽しむ性格なの。


入学式での挨拶も今年で二回目だし、

気楽な気持ちで式典での挨拶を引き受けていたわ。


ただ、去年の新入生達はいまいちだったから、

今年は期待したいと思ってるところよ。


去年は過去最多の3800人の新入生がいたんだけど実力的に気になるような子は残念ながら一人もいなかったのよね~。


いくら数が多くても、質が悪いと学園としては意味がないのよ。


まあ、数も少なくて質も悪いっていう状況にならなかっただけまだましだけどね。


とりあえず今年はどうなのかしら?


入学希望者としては過去最低の1024名なんだけど、

この中からどれだけの生徒が無事に卒業できるのかを楽しみにしたいと思っているわ。


ひとまずこれから入学式が始まるわけだけど、

興味本位で千人に及ぶ新入生が集まる会場を見回してみる。


現時点で気になる子は特にいないわね。


緊張した様子の新入生達がとても可愛らしく思えるわ。


みんな最初は大人しいのよ。


学園での生活に慣れてしまえば今ここで感じている緊張感も忘れ去られてしまうでしょうけど…。


だけどね。


だからこそ、こういうのを初々しいって言うんじゃないかしら?


今、目の前にある光景は今しか見れない光景なのよ。


個人的にはまだ2回目だからそんなことを考えてしまうけど、

学園としては毎年同じことが繰り返されているのよね。


だとしたらいつかはこの光景を眺めるのが当たり前に思う日も来るのかしら?


見ている側も慣れてしまうと思うわ。


その代表格である教師達も数多く参列しているわけだけど他の人はどう考えているのかしら?


最初は可愛らしいのに、

いずれ憎たらしくなるとか考えていたりするのかしらね?


実際にどうかは知らないけど、

そういう会話も職員室ではあったりするんでしょうね。


まあ、経営者であって教師じゃない私としては職員室に顔を出すことも教師達と話をすることもほとんどないけどね。


一度は聞いてみたい質問だと思うわ。


まあ、さすがにこの状況でそんな質問は不謹慎だからしないけどね。


とりあえず入学式の始まりを待つ間にこっそりと欠伸を堪えながら周囲の様子を眺めてみる。


そして時刻を確認してみようと思った瞬間に、

カチッと小さく響く音と共に時計の針が午前9時を示したようね。


ついに、入学式が開催されるのよ。



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[気になる点] 『さて、と。 とりあえず説明を続けるわね。』 (絶望) と、飛ばしても大丈夫…ですよね?
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