他にも
《サイド:御堂龍馬》
会場から離れた僕達は、
幾つかの花壇を眺めることが出来る小さな休憩所の一角で足を止めることにした。
あのまま会場にいたら嫌でも目立っていただろうからね。
さすがにここまで追ってくるような物好きはいないようだ。
翔子の治療をするにしても、
試合で何があったのかという話を聞くにしても、
余計な邪魔が入らないほうが良いと思う。
そういう意味ではこの場所はそんなに悪くないんじゃないかな?
まだまだお昼には早いから、休憩に来るような生徒は少ないしね。
ゆっくり話し合えると思うんだ。
「ここまで来れば、ゆっくりできるんじゃないかな?」
ひとまず意識を失っている翔子を見てみる。
体のあちこちに火傷の跡が残っているようだね。
「翔子は大丈夫なのかい?」
ダンシング・フレアの直撃を受けたんだったかな?
通常の戦闘だったら即死級の攻撃だけど。
制服に付加されてる魔術耐性のおかげで、
あらゆる攻撃魔術の威力が低下するからね。
そこまで危険な状態にはならないようになっているはずだ。
まあ、彼の魔法攻撃を受けるとなると、
制服の防御能力なんて紙にも等しいだろうけどね。
それでも通常の魔術ならある程度軽減できるようにはなっているんだ。
だから火傷程度で済んでる。
本来なら医務室に運ぶべき状態に見えるけれど。
個人的にはあまり心配してないかな?
ここには彼がいるからね。
生死をさまようほどの怪我でもないし。
この程度の火傷の治療ならたやすいはずだ。
「治せるかい?」
尋ねてみると。
「ああ、問題ない」
彼は翔子の胸の上に手を置いてからすぐに魔術を発動させた。
「リ・バース」
白く輝く神聖な光だ。
小さな光が翔子の体を包み込んだ次の瞬間。
翔子の体から全ての火傷が消え去っていた。
そして。
「う…ん…っ!」
翔子が意識を取り戻したんだ。
「あれ…?私…。」
ゆっくりと体を起こした翔子が僕と彼を交互に見つめてる。
だけど、いつもの元気は感じられないね。
落ち込んでるような表情に見える。
やっぱり試合に負けたことを悔やんでいるのかな?
「大丈夫かい?」
「あ、うん。大丈夫だと思う。でも…負けちゃったわ。」
がっくりとうなだれる翔子は相当落ち込んでいるようだ。
だからと言って元気づけてあげられるような都合のいい言葉なんて思い浮かばない。
試合中に何があったのか僕は見てなかったからね。
どう励ませばいいのかさえわからないんだ。
「体調はどうだい?」
「あ~、うん。大丈夫っぽい」
ひとまず体に異常はないようだ。
その確認が出来ただけでも良かったかな。
そんなふうに考えていると。
「………。」
彼が翔子の頭の上にそっと手を置いていた。
そして優しく頭を撫でている。
うーん。
彼なりに元気づけてあげているのかな?
よくわからないけれど、
翔子の表情に少し元気が戻ったようには思えた。
「ありがとう、総魔」
心を落ち着かせて微笑んでいる。
うん。
大丈夫なようだね。
これなら心配しなくていいのかな?
翔子は無事に目覚めてくれたんだ。
「ふぅ…。」
精神的には疲れてるようだけど。
ひとまず心配はないだろうね。
「何があったのか聞いてもいいかい?」
「うん…。いいけど、あれは反則よね~」
気持ちを落ち着かせた翔子がため息混じりに呟いた直後に。
「反則なんてしてないわよ!!」
突然、怒鳴り声が響き渡った。
ん?
誰だろうか?
声がした方向に視線を向けてみると。
先程の少女達がすぐ側まで近付いているのが見えた。
「ずるなんて、してないんだからっ!」
怒った表情を見せているのはポニーテールの女の子だ。
翔子と試合をしていた少女は、
申し訳なさそうな雰囲気でポニーテールの子の後ろに隠れている。
見た感じだと、人見知りなのかな?
ポニーテールの子は堂々としてるけれど、
どうやら二人共僕達を追いかけてきたようだね。
そんな彼女達の姿に気づいたことで翔子は苦笑いを浮かべていた。
「あ~。ごめん、ごめん。別にずるをしたとかそういうことを言ってるわけじゃないのよ」
素直に謝る翔子だけど。
「じゃあ、どういう意味なんですか!?」
彼女は質問を続けてくる。
「えっとね。その子の『能力』よ。それが凄い、っていうことよ」
「え?能力?優奈の能力って、何か知ってるんですか?」
「確証はないけどね。おそらくそうだと思ってるわ」
翔子が宣言した途端にポニーテールの女の子が表情を変えた。
そして真剣な表情で翔子に詰め寄ってくる。
「教えてくださいっ!!」
「ぇっ?ぇっ?ぇっ?」
突然の剣幕に戸惑う翔子は接近してきた女の子から視線を逸らしてから。
「もしかして、何も知らないの?」
後方でオドオドと戸惑っている少女に視線を向けて訊ねていた。
「あの、その…。すみません。自分でもよく分からなくて…」
か細い声で答える少女の言葉を聞いたことで。
「はぁ…。」
翔子は深々とため息を吐いていた。
「何も知らない子に負けたのね…。」
再び落ち込む翔子だけど。
その翔子を揺さぶるかのように、
ポニーテールの子は問い続けてくる。
「だから、教えてくださいってばぁ!!!」
うーん。
その行動はどうなのかな?
話を聞きたいと思うのなら、まずは手を離すべきじゃないかな?
ガクガクと揺さぶられる翔子は話したくても話せないだろうからね。
「痛い、痛いって!分かったから、放してってばっ!」
つかみ掛かる手を払いのけた翔子が渋々話し始める。
「その子の能力は『吸収』よ。間違いないわ」
「「え?」」
翔子の言葉を聞いて驚く二人の少女だけど。
驚いたのは二人だけじゃなかった。
「なっ!?吸収だって!?」
まさか彼以外にもその能力を持つ人物がいるのか!?
戸惑う僕達の視線が翔子に集まる。
そしてポニーテールの子が質問を続ける。
「吸収って何?そんな能力があるなんて、どの書物にも書いてなかったわよ!?」
再び怒鳴り出す少女を見て、翔子はため息混じりに答えていく。
「珍しい能力、と言うよりは未確認の能力って言うべきかしら?まさか他にもいるなんて、考えてなかったから驚いたわ」
「え?他にも…?」
彼女達が疑問を感じる気持ちは分かるけどね。
だけど翔子の言葉が真実だとすれば。
翔子の対戦相手だった女の子は
彼と同じように吸収の能力を持っているということになってしまう。
「まだそこまでは知らないってことかしら?『吸収の能力』は総魔も持っているのよ。現段階で確認されているのは総魔とあなただけね」
翔子の視線の先にいるのは試合に勝った少女だ。
翔子に見つめられて戸惑う少女は、
どう答えるべきか悩んでいるようだった。




