きっと
《サイド:常盤沙織》
「行っちゃったわね」
「ああ、そうだね」
翔子と彼が出て行くのを見送ってから、龍馬に振り返りました。
「龍馬はどうするの?」
「うーん、そうだね。少し考えを整理したいかな?だからもうしばらくここにいるよ」
「そう」
龍馬なりに色々と考えたいことがあるようですね。
だとしたら私もいないほうが良いのかもしれません。
「それじゃあ、私は行くわね。そろそろ研究所に戻らないといけないから」
「ああ、そうだね。沙織も色々と忙しいだろうし、僕達のせいで色々と迷惑をかけることもあるかもしれないけど、だけど僕も頑張るから、だから…だからもう少しだけ、時間をくれないかな?」
………。
控えめに願う龍馬に、
私は微笑みを返すことしか出来ませんでした。
「大丈夫よ、龍馬。今までずっと忙しかったんだから。少しくらい休憩しても誰も怒ったりなんてしないわ」
好きなだけ休めばいいと思います。
急ぐ必要なんてないと思うんです。
「だから今だけでもゆっくり休んだ方がいいと思う。きっとそれが、あなたの為だと思うから」
龍馬が望むのなら、時間くらい稼いで見せます。
例え今この瞬間に何が起こったとしても。
そして誰がどこで何を言ったとしても。
龍馬が望むのなら、私は私の役目を果たして見せます。
それが私の役目だと信じているからです。
「大丈夫よ。」
声をかけてから、龍馬に背中を向けて歩きだしました。
あまり長く龍馬の傍にいると涙が出てしまいそうだったからです。
「…頑張ってね、龍馬」
ささやかな想いだけを残して、私も休憩室を後にしました。
残された龍馬がどんな顔をしていたのか、私には分かりません。
ですがきっと、笑ってはいなかったと思います。
…きっと…。
…きっと…。




