隣…の近く
《サイド:美袋翔子》
校舎の屋上にある一室。
ここは特風会の裏側にある私達専用の休憩所なのよ。
だからここに入れるのは現在だと私と沙織と龍馬と真哉の4人だけになってるわ。
他の特風の仲間でさえ入る事を禁じられてる立入禁止区域なのよ。
って言っても、ここに入るための鍵を私達しか持ってないっていうだけの話なんだけどね。
仮に誰かが侵入したとしても、たいした物は何もないし。
入られて困るようなことは何もないと思うわ。
せいぜい私物が置いてあるから、
誰彼問わず来られると休憩室の意味がないっていうそれだけの理由かな?
それでも学園の四天王とも言える私達の休憩室ということもあって、
わざわざここに忍び込むような馬鹿は今のところいないわね。
というよりも。
そもそも屋上に来る人自体が少ないし、
来ても風紀委員の関係者だけじゃないかしら?
あとは理事長とかね。
そんな感じで人気の少ない屋上に総魔を引き連れて来て休憩室に到着したところよ。
「適当に好きな所に座って良いわよ~」
とりあえず声をかけてみる。
総魔は一番近い席を選んで腰を下ろしていたわ。
まあ、たぶん何も考えてないと思うけど。
わりと出入り口の近くに座った辺り、
長居するつもりはないって言ってるようにも思えるわね。
う~ん。
考えすぎかな?
実際にはただ単に移動するのが面倒だっただけかもしれないしね。
本当に適当に手近なソファーに座っていたわ。
だからまあ、私もその傍に座ってみる。
コの字型の縦の部分って言うとわかりやすいかな?
本当なら総魔の隣がいいんだけどね。
さすがにそこまで距離を詰めるのはどうかと思うし…。
他に座る場所がないならともかく、
そこそこ選択肢がある中で真っ先に隣を選ぶっていうのも無理があるわよね?
そう思うから隣のソファーを選んで座ってみたのよ。
一応、いつもならここが真哉の指定席なんだけどね。
今はいないし、別に問題はないはずよ。
まあ、文句があったとしても聞く気はないけどね~。
私は私の自由にするし。
真哉の不満なんていちいち気にするつもりはないわ。
だから、総魔の隣り…の近くは譲らないの。
遠からず、近からず。
微妙な距離感を保ちつつ。
総魔の傍に居続ける。
この努力を誰にも邪魔はさせないわ。
…なんてね。
そんなことを考えながら沙織と龍馬を眺めていたら、
二人はいつもの指定席じゃなくて総魔の向かい側のソファーに二人で並んで座ったのよ。
うあぁ~。
ちょっとずるくない?
こうなると総魔の隣に座ったほうが良かったかな?って思ったりするじゃない。
だけど、いまさら移動するのもどうかと思うのよね~。
総魔と龍馬は気にしないとしても、沙織は絶対に何か思うはずよ。
そしてきっと気付くはず。
だからこの状況で席を移動するのは難しいわ。
まあ、近づきすぎて総魔に嫌われると困るからとりあえずはこれでいいのかな?
ひとまずそう思い込むことにしておくわ。
ちょっぴり残念な気はするけどね。
今は全力で考えないようにして。
とりあえずは肝心の話し合いなんだけど。
これから何が始まるのかなんて一々聞いたりしないわよ?
みんな全てを理解したうえで大人しくしてると思うしね。
そんな雰囲気があるのよ。
総魔が席についたことで、私達もそれぞれに腰を下ろしてる。
休憩室の一画…というか、わりと出入口の傍だけど。
私達4人が席についたことで静かな時間が流れてるわね。
別に気まずくはないけど、
誰から話し始めるか牽制しあってる感じ?
まあ、本来なら真哉も参加させたい所なんだけどね。
いまだに目覚める様子を見せないあの馬鹿をここへ連れて来ても邪魔なだけだから今は放置してるわ。
ん?
冷たいと思う?
知らないわね。
だってあの馬鹿がいるとうるさいのよ。
「さて、と」
ひとまず私から総魔に説明してみることにしたわ。
龍馬にしても沙織にしても会話のきっかけが欲しいと思うしね。
「一応説明しておくわね~。ここは私達専用の休憩室なのよ。って言ってもまあ、そもそも屋上自体が風紀委員の管轄だから滅多に人が来ないんだけど。風紀委員の関係者が自由に出入りできる特風会とは違って、この部屋は基本的に部外者立入禁止区画だから、誰にも邪魔はされないし、ゆっくりと話が出来るはずよ」
まずはここがどういうところなのかを説明してみると、
総魔は静かに頷いてくれたわ。
うんうん。
物分りがよくて助かるわ。
まあ、単に気にしてないだけかもしれないけどね。
物静かな総魔の行動を眺めつつ。
ひとまず進行役として話を進めてみることにしたわ。
「で、まあ、今後について皆で話し合おうと思うんだけど、何か問題でもある?」
一応、念の為に尋ねてみる。
だけど特に不満はないみたい。
総魔は静かに首を左右に振ってたわ。
「いや。特に急ぐ予定もないからな。その程度で気が済むのなら構わない」
うんうん。
「ありがと」
拒絶しなかった総魔に感謝の笑顔を向けてから。
今度は龍馬に話をふってみることにしたわ。
「それじゃあ、とりあえず龍馬からで良い?」
「ああ、その方が有り難いかな」
「おっけ~。じゃあ、そういう感じで…」
進行を終えて、まっすぐに龍馬を見つめてみる。
これから始まる話は龍馬と総魔だけじゃなくて私にも影響するはずだからよ。
二人が仲良くしてくれないと、私も立場的に困っちゃうしね~。
そう思うからおとなしく龍馬の言葉を待つことにしたわ。
って言っても。
そんな何分も待つわけじゃないけどね。
「それじゃあ、質問をさせてもらおうかな」
ようやく龍馬が話し始めたのよ。




