時間稼ぎ
《サイド:常盤沙織》
翔子と私と天城君。
そして最後に龍馬も食事を終えました。
ただ。
昼食の間ずっと。
龍馬は心を隠して無理に笑顔を作っているかのような、そんな気がしていました。
いつも見ているから私には分かります。
龍馬が無理をしていると感じられたのです。
もちろんその理由が彼にあることは理解しているつもりです。
すでに龍馬は彼の下であることを自覚しているからです。
だから、でしょうか。
龍馬の言動からはいつものような覇気が感じられません。
ですがそれは微かな差だったと思います。
翔子さえ気付かない微妙な違いだからです。
おそらく龍馬自身も気づいていないと思います。
それぐらい些細な違いです。
それでも私は気付いていました。
おそらく龍馬にとっては決して気付かれたくない事実だと思います。
だからこそ無理をしてまで明るく振る舞っているのだと思います。
そんな龍馬に私が口出しすることは出来ません。
彼と向き合う意志を見せる龍馬に一体何が言えるでしょうか?
私に出来ることはそれほど多くありませんが、
少なくとも龍馬が動き出すその時まで『僅かながらも時間を稼ぐこと』が私の役目だと思います。
その程度のことであれば私にも出来るからです。
…と言うよりも。
それぐらいしか思い付きませんでした。
それでも心の余裕を持てる程度の時間を稼ぐことは出来たようですね。
食事を終えてお箸を置く龍馬の瞳にはしっかりとした意志が感じられるからです。
決意を示すかのような龍馬の瞳。
その瞳を確認してから私は静かに席を立ちました。
「片付けて来るわね」
全ての食器を集めて重ねます。
それ程、数がないのは私と翔子の食器がほとんどないからでしょうか。
食器を集めて運ぶ私に翔子と龍馬が背後から『ありがとう』と言ってくれる声が聞こえました。
これから始まる会話はどんな内容になるのでしょうか?
正直、私も心が落ち着かない気分です。
今後の予定がこの話し合いによって決まると言ってもいいと思うからです。
『今後に影響を及ぼす会議』
そう考えると、この人込みの中で話をするわけにはいかない気がしてきます。
「移動したほうがよさそうね」
ひとまず食器を全て返却し終えてから皆の所へ戻ることにしました。
こういう時にこそ役立つあの場所へ。
そんなふうに考えながら戻ってみると、龍馬と翔子も席を立ちました。
「それじゃ、行こっか?」
微笑む翔子。
「そうだね」
頷く龍馬。
二人も私と同じことを考えていたようですね。
「ほら~。行くわよ、総魔!!」
力付くで引っ張って歩きだす翔子に文句さえ言わずに歩きだす天城君。
私達4人は校舎の屋上へと移動することにしました。




