少数派
図書室で調べ物をした後。
再び第9検定試験会場へと戻ってきた。
この会場での試合はこれで4回目になる。
早速、試合を行うために受付に向かったのだが、
さすがに顔を覚えられているようだ。
「まだ試合をするんですか?」
すでに連戦ではないものの。
受付の女性は呆れたような表情を浮かべながら俺に向かって話しかけてきた。
「先ほどの試合から少し時間が空いてますけど、あまり無理はしないほうがいいですよ?」
随分と心配されている気がするな。
個人的には無理をしているつもりはないのだが、
ここまで忠告されるということは一日に何度も試合をするのは珍しいのだろうか?
心配してもらえること自体に不満はないが少し気にしすぎだとは思う。
「一応聞くが、連戦する生徒はあまりいないのか?」
「ええ、そうですよ。本来なら1試合にほとんどの魔力を消耗してしまいますので2戦目以降はよほど調子の良い状態か対戦相手が弱っている時を狙うようです。ですので、あなたのように相手の状態を確認もせずに次々と試合を行う生徒は極一部の少数派だと思います。」
「つまり、少数ならそういう生徒もいるんだな?」
「私の知る範囲内ではいませんけど、もっと格下の初心者用の検定会場でしたらそういう生徒もいると聞いたことがあります」
新入生や格下の生徒は魔力の総量が少ない。
そして使える魔術も初歩的な魔術ばかりだから後先考えずに無茶ができるということだろうか。
逆に言えば上位を目指せば目指すほど魔力の消費量が増えて試合回数が減少していくということでもある。
より強力な相手を倒すためにより多くの魔力が必要になる。
そのせいで試合回数に制限が生まれて上位に上がりにくくなるのだろう。
美弥のようにそこそこの実力を持っていてもこの辺りでくすぶっている理由はそういうことなのかもしれない。
一時的に上位を目指すのは簡単だが手に入れた地位を守れるだけの実力がなければすぐに転落してしまうからな。
その危険性を回避する方法は確実に勝てる範囲内で徐々に成績を伸ばしていくということだろう。
そういえば一度だけ言われたことがあるな。
自分よりも10番程度格上の相手と戦って成績を伸ばすのが基本だと二つ目の会場で係員に言われたことがあった。
だからこそ美弥は自信をもっていたのだろう。
自分は絶対に負けない、と。
そう思える範囲での地位を維持していたからこそ試合を挑まれても負ける可能性はないと信じていたのだと思う。
その考えが多数派だとすれば学園の成績は運や奇策に左右されない堅実な実力を持つ生徒が過半数を占めることになる。
…となれば、やはり実力の底上げが必要だろう。
上位陣に加わるためには今の実力では全く足りていないと思う。
現時点ではまだ魔力を温存した状態で試合を進められてはいるが、
それが出来なくなった時が最初にぶつかる壁になってしまうだろう。
魔力を枯渇させるほどの戦いがどの段階で訪れるのか分からないものの。
今のように連戦できる日がいずれこなくなるのは間違いない。
このまま何の手も講じなければ、
いずれ魔力の底という限界が訪れてしまうはずだ。
その限界が訪れる前に今回の試合で完成させようと思う。
これまでの経験と知識をもとに独自の魔術を完成させるための一歩として再び試合に挑むつもりでいる。
「休息は十分にとった。試合をするのに問題はないだろう?」
断られる可能性はないはずだと思って問いかけてみると、
今回も素直に引き下がってくれた。
「え、ええ。何度連戦しても問題はありませんし、無理に止めはしませんけど、本当に試合をするんですか?」
「ああ、そのつもりだ」
「はあ、そうですか。それではこちらをどうぞ」
まだ何か言いたそうな表情をしてはいるが、
何を言っても無駄だと感じたのだろう。
ため息混じりに参加者名簿を差し出してくれた。
「今回も番号の近い相手でよろしいですか?」
これまでの流れから聞いてくれたようだが、
今回の目的は経験よりも実験が優先だ。
格上の相手と戦って試してみないことには意味がないからな。
首を左右に振ってから次の生徒を指名することにする。
「いや、次の相手はこの生徒だ」
「………。」
名簿の最上段に記されている生徒の名前を指差したことが気に入らなかったのだろうか?
今までは不安そうな表情だったのだが、
急速に不満そうな表情へと切り替えて先程よりも大きな溜息を吐いている。
「あの、本気ですか?」
「そのつもりだ」
「え~っと、もう知りませんからね?」
これまでのやりとりによって忠告は無駄だと分かっているのだろう。
少し投げやりな態度になった女性は早々に話し合いを放棄して手早く手続きを進めてくれた。
「もう何も言いません。生徒番号14033、来宮俊司さんをお呼びします。試合会場はC-1になりますので頑張ってください」
「ああ、感謝する」
呆れながらも応援してくれたことに礼を言ってから歩き出そうとすると、
何故か最後にもう一度だけ応援してくれた。
「あとで恨まれたくないので、ちゃんと勝ってくださいね」
もちろんそのつもりだ。
試合で負けたところで恨むつもりなど全くないがそもそも負けるつもりさえない。
「勝って次の会場を目指すだけだ」
結果を宣言して受付を立ち去ったあとに、試合場に向かって歩いていくと。
(当然いるな)
今回の試合にも監視がついているのが感じ取れた。
一時的に会場を離れて図書室にこもっていた間は気配を感じなかったのだが、
会場に戻ってきてみれば当然の様に監視の目が感じ取れるようになった。
図書室に入るまではついて来ていたのを確認していたのだが、
途中で気配を感じなくなっていたからな。
おそらくどこかで時間を潰していたのだろう。
監視が学園の意向であり、
ここが学園の内部である以上はあらゆる場所に監視員の協力者が存在しているはずだ。
食堂や、図書室や、あるいは各会場にも、
監視の包囲網が存在するだろう。
それらからの情報が途絶えない限りは24時間行動する必要がなく、
特定の状況時にだけ監視を再開すればいいのかもしれない。
一時的に見失っても各地からの情報を集めて追跡を再開すれば問題ないからな。
そうでなければ常時追跡し続けなければならないという
非常に面倒な状況になってしまうはずだ。
だとすれば直接的な監視は一人だけだとしても、
包囲網自体は学園中に広がっていると考えるべきかもしれないな。
これからはどこに向かっても完全に隠れることはできないと判断して行動すべきだろう。
…とは言え、隠れる理由は何もないけどな。
何らかの状況の変化が訪れない限りこれ以上の推測は不要だろう。
監視に関してはこれ以上気にしないでおこう。
そんなふうに考えている間に目的地である試合場にたどり着いていた。




