封印の影響
《サイド:黒柳大悟》
ふう…。
一通り終わったようだな。
そろそろ休憩を挟むべきだろうか?
時計に視線を向けてみれば、
実験が始まってからすでに1時間が過ぎようとしている。
思った以上に時間がかかったな。
これまでに観測した魔術は100を越えているだろうか?
次から次へと発動していく御堂君の魔術なのだが。
最初の二つの魔術に引き続き、彼独自の魔術は全て発動しなかった。
とは言え。
学園で教えている基本的な魔術は全て使用可能だったからな。
やはり封印の影響は個人の能力に大きく関わって来るようだ。
御堂君の場合。
支配の能力を封じた為ことで彼の独自の魔術は限りなく全てにおいて使用不可能になっていると考えていいだろう。
『封印の影響は能力にまで及ぶ』という事実。
今回の実験結果によってその一点は証明されたと言っても良いはずだ。
単純に特性が封じられるだけではなく。
そこに関連する能力。
及び理論にまで影響を及ぼすことが明らかになった。
この結果から想像するならば、
天城君と美袋君の二人も多大な影響を受けているだろう。
実際にどの程度の影響が起きているのかは分からないものの。
御堂君と同程度の弱体化が起きているのは明白だ。
可能ならば一度彼等の測定もしてみたいと思うが、それはまたの機会でいい。
今は御堂君の実験を終わらせることが優先だからな。
「よし、そろそろいいだろう!実験を終了する!」
俺の呼び掛けによって、ほっとため息を吐く職員達。
その気持ちは分かるが、もう少し控え目にしてほしいと思ってしまう。
疲れているのは俺も同じだからな。
むしろ徹夜明けで働き続けている分だけ職員達よりも労働時間は長いはずだ。
…とまあ、心の中では思うものの。
表情では笑顔を崩さないように徹しておいた。
上に立つものとして、部下に当り散らすような真似はできないからな。
もしもそうしてしまえば俺に対する信用は一瞬で失われてしまうだろう。
だから今は職員達に労いの言葉を贈って通常業務へと帰すことにする。
「ご苦労だったな。みな、少し休んでくれ」
仮にも所長だからな。
威厳を失うような行動は控えなくてはならない。
そう考えて職員達を解放することにしたのだが…。
とは言え。
睡眠時間を確保するために早く仕事を片付けてしまいたい気持ちは俺も同じだからな。
のんびりとはしていられない。
「調子はどうだ?動けるか?」
集めた実験記録を手にしてから御堂君に歩み寄ってみる。
「ええ、何とか」
若干疲れた表情を見せてはいるが、
意識を失って倒れるほどではないようだ。
それでも疲労は隠せていないからな。
魔力の限界は一目見て明らかな状態だった。
まあ、この1時間、休むことなく魔術を連射していたのだ。
疲れるのも仕方がないだろう。
いや、そもそもの前提として並の魔術師ならばとっくに倒れ込んでいる状況だ。
それなのに。
本来の能力を失ってもなお、
これだけの魔術が使える御堂君の実力はそれだけでも称賛に値すると思う。
「少し休憩を挟んでから実験結果を整理しよう。俺の部屋まで来れるか?」
「はい。大丈夫です」
姿勢を正して呼吸を整える姿は好感が持てる。
疲れていても弱音を吐こうとはしない御堂君を引き連れて、
ひとまず所長室に戻ることにした。




