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THE WORLD  作者: SEASONS
4月6日
211/4820

依頼

《サイド:常盤沙織》


翔子と分かれてからしばらくして校舎の屋上にたどり着きました。


そして屋上に出てすぐにある特風会に視線を向けました。


ここはいつもと変わらない景色です。


昨日の出来事とは何も関係のない、いつもと同じ風景でした。


目の前にある会議室の裏手には私達だけが使用出来る専用の休憩所もあるのですが、

おそらく今の時間帯だと龍馬は特風会の方にいると思います。


なので、私は部室に歩みを進めました。


特別風紀委員専用会議室。


通称『特風会』です。


各分野において優秀な成績を持つ人材だけが入ることの出来る特殊な委員会でもあります。


ですので。


現時点では生徒番号が降格している龍馬ですが、

それでも私達の指揮官であることに変わりはありません。


番号に関係なく、実質的に龍馬が特風の頂点に居ることに変わりはないのです。


実力だけを見れば天城君が一番であることはすでに証明されていますが、

風紀委員としては龍馬が頂点のままで話が進められています。


龍馬が特風の指揮官であり。


その下に私と翔子と北条君の3人がいます。


さらに私達の下にそれぞれの部門の補佐官がいるのですが、

現在、特風に所属しているのは総勢14名です。


それぞれの役割と説明すると。


全ての権限を持つ全体の指揮官として龍馬がいます。


その龍馬の下に諜報活動を主とする3人の生徒がいます。


一応、翔子が諜報部の責任者なのですが。


繰り上げ3位になった和泉由香里と順位は128番で特風の中では最下位ですが、

卓越した行動力と情報網を持つ長野淳弥(ながのあつや)という男子がいます。


そして情報処理能力が高くて魔術の解析や構築などの研究者としての実績も合わせ持つ3人の生徒が分析班です。


天城君に敗北して生徒番号は降格しましたが、

繰り上げもあって現在29位の矢野百花さん。


そして36番の木戸祐樹(きどゆうき)君と45番の須玉聡美(すだまさとみ)さんがいます。


さらに鎮圧や制圧などの戦闘を主とする5人の生徒がいます。


筆頭の北条君が現在暫定1位になっていますね。


そして天城君に敗北して降格しましたが、

繰り上げ5位の岩永一郎君と27位へ降格した後に繰り上げで24位になった大森遼一君。


現在8位の伊倉信夫(いくらしのぶ)君と10位になった梶原裕美(かじわらひろみ)さんがいます。


そして医療部門からは私と現在19位の芹澤里沙(せりざわりさ)さんがいます。


この14人がこの学園の主力部隊として治安維持を一手に引き受ける学園の要になっています。


今もまだ眠りから目覚めない北条君や、

力を失って降格した龍馬と翔子を含めると、

特風の中で主力といえる3人が欠けた状態です。


さすがにこの状況では治安維持の為の力が不足していることは事実だと思います。


そもそも『治安維持』というのは何も学園内部だけの話ではないのです。


私達の目的は平和と安定なので、この町全体においての治安も任されています。


各町ごとに設立されている学園のそれぞれに独自の防衛力を存在していて、

それぞれの町の治安維持を任されているのです。


学園内部だけであればそれほど悩むことはないのですが、町全体となると話は別ですね。


単純に人手は必要ですし、何をするにしてもある程度の実力は必要です。


そういう意味において現在の状況はあまり好ましいと言える状況ではありません。


早急に何らかの手を打つ必要があると思います。


そういう話も含めて、龍馬を探していました。


特風会の部屋の前に立って、大きく深呼吸をします。


そして室内に龍馬が居ることを願いながら、ゆっくりと扉を開きました。


『キィーッ…』と、扉のきしむ音と共に広がる視界。


かなり広い部屋ではありますが仕切りはあまりないので一目で部屋が一望出来ます。


ゆっくり歩みを進めると、室内の中には3人の生徒がいました。


一人は諜報部の長野淳弥君です。


翔子が滅多にここにこないので、

各地から集まる情報を整理して書類にまとめる作業のほとんどを彼が一人で行っています。


なので今日も書類整理に追われているように見えますね。


そんな長野君とは少し離れた場所で何らかの作業を行っている人物は医療部門の芹澤里沙さんです。


彼女の場合は特にやらなければいけないことはないのですが、

人手の足りないときは善意で書類整理を手伝ってくれています。


たぶん今日は北条君達が動けない状況を考えて、

戦闘部門と分析部門の書類整理や風紀委員への直接的な指揮を執るために協力してくれているのだと思います。


そして部屋の一番奥にいる人物。


いつもの席に腰を下ろして書類の束に視線を向けている彼が私の探している人物です。


龍馬がここにいました。


3人は事務作業を進めながら何らかの話をしている最中のようでしたが、

扉が開いた音に気付いてようで、私に視線を向けてくれました。


まずは挨拶をするべきですね。


「おはようございます」


丁寧に挨拶をしてから歩みを進めていくと。


「おう、おはよう、常盤さん」


「おはよう沙織。元気してる?」


長野君と里沙の二人が挨拶を返してくれました。


「ええ。健康そのものよ」


軽く挨拶を交わしてから3人の側へと歩み寄ります。


「龍馬もおはよう。」


「ああ、おはよう、沙織。調子はどうだい?」


「特に問題はないわ。いつも通りよ」


「ははっ。それは何よりだね」


龍馬が笑顔を見せてくれました。


本当は彼の方が疲れているはずなのに、そんな様子を一切見せないのです。


「龍馬は大丈夫なの?」


私の視線は自然と龍馬の右手にある指輪へと向いていました。


だからでしょうか?


私の質問の意味に気付いた龍馬は、

微笑みを浮かべたままで指輪に視線を向けました。


「ああ、大丈夫さ。後悔はしてないし、する必要がないからね。強くならなければ彼に追いつくことは出来ないんだ。だから力を失うとかそういうことは大した問題じゃないって今は考えてる」


天城君に追いつくために…。


強く拳を握り締める龍馬の瞳には強い意志の力を感じました。


ですが、長野君は納得できなかったようです。


「はぁ。そういうもんかねー?」


龍馬の言葉を聞いて疑問を呟いています。


「わざわざ力を捨てる必要はないと思うけどな?」


確かに、そうかもしれませんね。


長野君の言い分も分かります。


いえ、分からないとは言いません。


そう思う気持ちは誰にでもあると思うからです。


ですが、割り切るということも大切なことではないでしょうか?


今の力を維持しながら別の力を求めるよりも。


今ある力に見切りをつけて全く別の力を追い求めること。


それも一つの方法だと思うからです。


二つを追い求めるのではなくて、

ただ一つを求める方がより確実ではないでしょうか?


荒療治と言えばそうかもしれませんが、

新たに一から出直すという気持ちが大事なのだと私は思います。


そしてそれはきっと龍馬も同じはずです。


「これでいいんだよ」


自信を持って答えた龍馬の言葉には一切の迷いが感じられません。


だからでしょうか?


龍馬の気迫を感じた長野君は大きなため息を吐いていました。


「まあ本人がいいならそれで構わないけどな。でもなー。何だか勿体ねえな」


何度もぼやく長野君ですが、その発言を一切気にしない様子の里沙が龍馬に話しかけました。


「まあ、そうなっちゃったものは仕方がないと思うけど。それはともかくとして、御堂君が負けるなんてそっちのほうが驚きなのよね~。その天城って子はそんなに強いの?」


いまだに信じられないという表情を浮かべる里沙ですが、

そう思うのも無理はありません。


これまで龍馬は無敗の英雄だったからです。


学園の内外を問わずに龍馬が敗北したことはこれまで一度もありません。


だからこそ里沙も驚いているのですが、

今回の事実はどれほど疑っても変えられません。


だから龍馬は真面目な表情を浮かべて里沙の質問に答えていました。


「彼はとても強いよ。多分…」


龍馬は瞳を閉じました。


思い悩むような表情です。


口に出す事をためらうような表情を浮かべてから言葉を続けました。


「多分。僕達が…いや、特風全員で戦いに挑んでも彼には勝てない。それだけは自信を持って言えると思うよ」


「はあ?」


「うそ~?」


龍馬の言葉に驚く二人。


けれど、真剣な表情を浮かべる龍馬を見て二人とも口を閉ざしました。


信じられないという表情を浮かべながらも、

龍馬の言葉に嘘はないと思う信頼があるからです。


相反する二つの気持ちが重なり合って、

どう答えるべきか悩んでしまう二人に、今度は私から話し掛けることにしました。


「龍馬の言葉に嘘はないわ。私も戦ったから分かるけれど、彼は決して負けないと思う。例え力を封印した現状でも彼に戦いを挑む勇気を私は持てない。そう思えるくらい彼は強いのよ」


「「………。」」


私の言葉を聞いて黙り込む二人。


面識がなくて情報すらまともに持っていないせいで、

私達がどれだけ説明してもすぐには納得出来ないようですね。


ですが真剣な表情を浮かべる私と龍馬を見て、

二人はそれ以上の追求を諦めたようでした。


「御堂、悪かったな。勝手なことを言って」


「いや、気にしてないよ。きみの言葉も決して間違ってはいないからね」


微笑みを浮かべる龍馬。


そんな龍馬を見たからでしょうか?


長野君は気まずさを捨て去るかのように、もう一度頭を下げました。


「いや、御堂の気持ちも考えないで言い過ぎた。俺は天城という男を知らないが、御堂の心を動かすほどの男だということは理解出来た。だから…」


長野君は頭を下げたままで言葉を続けました。


「俺も応援する。御堂がもう一度学園の頂点に返り咲ける日が来るように、俺に出来ることがあれば何でも言ってくれ」


「ははっ。ありがとう。きみが理解してくれたことが何よりも嬉しいよ」


龍馬が笑顔を浮かべた瞬間に空気が軽くなったような気がしました。


長野君も笑顔を浮かべています。


こういう関係を友情というのでしょうか?


少し、羨ましい気がしました。


「ん~。とりあえず私は様子見かな~?」


呟いた里沙は私達から離れて自分の席へと戻って行きました。


そして慣れた手つきで私物を整理しながら、私に話しかけてきました。


「ねえねえ、沙織。今日は図書室で少し調べ物をしてから医務室に行くつもりなんだけど、沙織はどうするの?」


う~ん。


今日の予定は…特にはないはずです。


強いて言うなら昼食で翔子と合流できるかどうか?というくらいでしょうか。


なので。


いつも通り魔術研究所に向かうつもりではいます。


「今日も研究室に篭ると思うから医務室には行けないと思うわ」


「あ~、やっぱり?まあ、沙織はそっちが本業だから専念してていいと思うんだけど。ここ最近、医務室も忙しいみたいだから時間があったら手を貸してほしいっていう依頼が来てるわよ」


「あら?そうなの?」


「そうそう。まあ、私も詳しい話は知らないんだけどね。やたらと怪我をして医務室に運び込まれてくる変な新入生がいるらしいわよ~」


「新入生?」


「っていう話よ。まあ、実際にどういうことなのかは、あとで医務室に行って確認してくるわ。まあ、心配しなくても沙織が出向くほどの問題じゃないとは思うけどね~」


「ふ~ん。よくわからないけど、私に協力できることならいつでも言ってね」


「ええ、必要そうなら、ね。まあ、とりあえず確認に行ってくるわ」


医務室からの援護要請の内容を確認するために。


里沙は部屋を出て行きました。


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