気づかないもの?
《サイド:常盤沙織》
ふふっ。
気合いに燃える翔子を見ていると、
なんだかそれだけで幸せな気分になれるのは私だけでしょうか?
本人は隠しているつもりかも知れませんが、
あの子が天城君に好意を持っていることはすぐに気付きました。
最終的にどうなるかはまだ分かりませんが、
上手く行くことを祈る気持ちで翔子を見守っていこうと思います。
ただ…。
肝心の天城君に翔子の気持ちは届くのでしょうか?
正直に言えばかなり不安を感じる部分があります。
人との関わりを避ける傾向にある彼が翔子を受け入れる可能性がかなり低く思えてしまうからです。
ですがそれも含めて翔子の努力次第なのかも知れませんね。
結果がどうなるのかは分かりませんが、
翔子が幸せになってくれれば何も言うことはありません。
それよりも今は他に気になることがあります。
あまり他人に興味を示さない彼が翔子の気持ちに気付かないのは仕方がありません。
そういった浮ついた気持ちがなさそうなので気づかないのは仕方がないと思うのです。
ですが、どうしてあの人も気付かないのでしょうか?
少しため息を吐きたくなる心境で龍馬に視線を向けてみました。
龍馬が何を考えているのかは分かりませんが、
これだけは間違いなく断言できます。
龍馬もまだ翔子の恋心に気付いていないと言うことです。
男の人って、そういうものなのでしょうか?
私から見れば明らかにそうだと思うことでも、
男の人から見れば気付かないものなのでしょうか?
それが悪いとは言いませんが、ホンの少しだけ翔子が可哀相な気がします。
ですがそれも翔子の乗り越えなければならない『壁』なのかも知れませんね。
出来ることなら翔子に協力してあげたいのですが、
他人の恋心に口出ししても良い結果は出ないと思うので今は何も言わないことにしました。
もしも気付いているのが私だけなら、
そっと様子を見守ってあげる方が良いと思うからです。
全ては翔子次第なのですから。
そう結論を出して翔子に話しかけることにしました。
「翔子」
「ん?」
振り返る翔子に聞いてみます。
「今日はもう遅いけど、どうする?」
「あぁ~そっか。もう9時を過ぎてるんだっけ?」
翔子は近くの時計に視線を向けました。
つられて私もそちらに視線を向けます。
時刻はすでに9時20分です。
すでに日は暮れて、真っ暗な空に数え切れないほどの星がきらめいています。
「まだ大丈夫かな?」
「ええ。大丈夫よ」
「そっか」
翔子は小走りで私に駆け寄ってきて、私の手をぎゅっと握りました。
「そろそろ帰ろっか?」
「ええ。そうね」
あまりのんびりとはしていられません。
なので私と翔子は彼と龍馬に視線を向けて、
ひとまずお別れの挨拶をすることにしました。
「では、また明日」
「ばいば~い!また明日ね~!」
元気良く手を振る翔子。
彼と龍馬に見送られながら、私達は帰宅することにしました。
「早く帰ろ~!」
笑顔を浮かべる翔子に微笑んでから、二人並んで歩きだします。
そんな私達に…
「気をつけて帰るんだよ」
心配してくれる龍馬の声が届きました。
「龍馬もね~!」
翔子は後ろを振り返って返事を返しましたが、
私は龍馬に微笑んだだけでひとまずこの場をあとにしました。




