剥奪と降格
『コンコン』と鳴り響く音を耳にした瞬間に再び私の心を緊張感が支配してしまったわ。
まあ、この状況で誰が来たかなんて聞くまでもないわね。
私から呼び出したんだから。
当然、彼らが来たと考えるべきよ。
「どうぞ」
声をかけるとすぐに扉が開かれたわ。
『ガチャッ』と扉を開く小さな音が鳴って、
御堂君を先頭にして沙織と翔子の二人も室内に歩みを進めてくる。
そして最後に天城君が部屋の中に入って来たんだけど。
最後に部屋に入った彼が扉を閉めたことで、
4人の視線が私へと集中してしまったわ。
う~ん。
なんとなくやりにくい雰囲気ね。
緊張感たっぷりの雰囲気を感じるけれど、
ここまできて言い争いをするつもりはないのよ?
落ち着いて話し合いをするために、ひとまず4人に声を掛けることにしたわ。
「とりあえず、そちらにでも座ってくれるかしら?」
ソファーを示すと4人は素直に移動してソファーに腰を下ろしてくれたわ。
意外と…って言うと失礼かもしれないけど。
思っていたよりもすんなり従って助かるわね。
彼らの行動を確認してから席を立った私は、
テーブルの上に『用意していた物』を手に取ってから彼等に歩み寄ってみる。
向かって右側の席には御堂君。その奥隣に沙織が座っているわね。
左側には天城総魔がいて、その奥隣に並んで座っているのが翔子よ。
それぞれに向かい合って座る4人を眺めてから一冊の書物を中央のテーブルの上に置いたわ。
そして説明を始めることにしたの。
「まずはこれを渡しておくわね。これは『原始の瞳』と『封印の指輪』に関する記述が記載された本よ。しばらく貸してあげるから、自由に使っていいわ」
書物を貸し出してから、次に原始の瞳もテーブルの上に置いてみる。
「せっかくだからこれも預けておくわね。必要かどうかは知らないけれど、持っていて困るものでもないでしょ?」
高価な物だから大事にしてね…とは言えなかったけどね。
水晶玉も天城総魔の前に置いて、しばらくの間だけ貸し出すことにしたのよ。
そのあとに。
用意していた物の最後の一つを御堂君の前に置いたの。
『コトン』と鳴った小さな音に気付いて視線を向けた御堂君が指輪に気付いた瞬間に、
僅かな緊張感を表情に浮かべたのが見えたわ。
だけどね。
予想通りいらないとは言われなかったわ。
御堂君は緊張した面持ちでゆっくりと手を伸ばして、
手に取った物を右手へと近付けていったのよ。
「一応聞いておくけど、覚悟は出来ているわよね?」
尋ねてみると。
「はい」
御堂君はしっかりと頷いてから封印の指輪を右手の人差し指にはめ込んだわ。
そして、願ったようね。
「力を封印する。」
宣言した瞬間に指輪が小さく輝いたのよ。
この瞬間に御堂君も力を失ったことになるわ。
だけど何を封印したのかなんて聞くまでもないわよね?
失った力はおそらく王者の才能。
「魔力特性の『支配』で、間違いないかしら?」
尋ねてみた私に御堂君は無言で頷いてくれたのよ。
どうやら予想はあたっていたようね。
これで天城君と翔子に続いて御堂君も能力を封印したことになるわ。
学園の上位5名のうち、3人が力を失ったことになるのよ。
ここまでの事実を再認識しながら、彼等に説明を続けることにしてみる。
「それじゃあ、少し説明しておくわね」
話し始める私に再び4人の視線が集まったわ。
うんうん。
これが本来あるべき姿よね。
真剣な表情の4人と向き合いながら、話を進めてみる。
「まず手始めに、沙織を除く3人は現段階において一時的に生徒番号を剥奪するわ」
「えっ?」
「どうして?」
私の言葉を聞いて驚く様子の沙織と翔子だけど。
天城君と御堂君の表情に変化がない様子から推測すると、
すでに二人は考えていたのかもしれないわね。
だとすれば話が早くて助かるわ。
「詳細はあとで説明するとして、先に結果を伝えるわね。生徒番号1番、天城総魔。あなたの新たな番号は21398番になるわ。それが現時点で学園最下位の成績よ。この一週間ほどの短期間ですでに退学した新入生が数名いるからそれが現状での最低番号になるわ」
辞めたのは主に、生徒手帳の記録を改ざんしていた生徒なんだけど、
大々的に情報が公開されたことで学園にいずらくなって自主退学していったのよ。
その辺りの事情も説明してから、次に御堂君に視線を向けたわ。
「生徒番号2番、御堂龍馬。あなたは21397番で彼より一つ上ね」
「上、ですか?」
疑問を浮かべる御堂君にはもう少し説明が必要なようね。
「最上位の天城君を最下位に置く為にはそうするしかないでしょう?まあ、あなた達に番号なんてあまり意味はないし、力を封じた現状でも上位100位圏内に入れるだけの力はあるんだから、細かい部分を気にする必要はないんじゃない?」
どうせすぐに変動するんだから、誰が下かなんてどうでもいいと思うのよね。
結果的に誰が1位になるかっていう部分が本題なんだから、
最下位争いなんてしてる場合じゃないでしょ?
そう思うから次に翔子に視線を向けたわ。
「それから翔子は現在5位なんだけど、これからは21396番になるわ。異論はある?」
「いえ、構いません」
翔子の場合は何でもいいようね。
真剣な表情で私の言葉を受け入れてくれたわ。
御堂君と違って番号に関してそれほど興味がないみたい。
たぶん、天城君と同じように最下層からやり直すこと自体に意義を感じてるんだと思うわ。
「まあ、そんな感じで番号の入れ替えを行うから、現時点での1位は自動的に北条君になってしまうわね。その次の2位に沙織が昇格するわけだけど…」
今度は沙織に視線を向けてみる。
「大丈夫よね?」
確認してみると、沙織は迷わず頷いてくれたわ。
「ええ、大丈夫です」
真剣な表情を浮かべる様子から察するに、沙織はすでに気付いてるようね。
北条君が倒れている現状では学園の治安は沙織の手に托されたのも同然なのよ。
たった一人で学園の治安を維持するという重圧をしっかりと受け止めてくれた沙織は気合を込めた瞳で私と見つめ合ってる。
そんな沙織の表情を見れたことで、私は少しだけ安心できたわ。
どうしてって?
まだ学園の安定は保たれてるって感じられたからよ。
沙織を核とした治安維持が続くのなら、
御堂君と翔子の一時的な離脱くらいはなんとかしのげるはず。
そんなふうに思えたのよ。
だから私は一通りの説明を終えてから再び天城君に視線を向けたわ。
「さて、これで私が協力出来ることは全て終えたわ。次はあなたの番よ」
「どうすればいい?」
「どう、っていうか。私の希望はさっき言ったことと変わらないわ。学園への協力をお願いしたいだけなの。本当なら『特風』への参加もお願いしたいところだけど、強制できることじゃないからその辺りはあなたの意志に任せるわ」
「特風?」
あ~。
うん。
彼はまだ知らないんだったわね。
「その説明は翔子達に任せるわ。たぶん、あなたは興味ないでしょうし。だからひとまず貴方にお願いしたいことは一つだけよ。学園の治安維持の為にあなたの力を貸してほしい。ただそれだけよ。異論はないわね?」
「ああ、問題ない」
少し強引に確認してみたんだけど、彼はしっかりと頷いてくれたわ。
「お~け~。それじゃあ、私の話はここまでよ。他に何か質問はある?」
「いや、特にはないな」
「そう?他のみんなはどう?」
御堂君達にも訊ねてみる。
だけど、返事は返って来なかったわ。
「特に質問はないってことでいいのかしら?」
もう一度尋ねてみると4人はそれぞれに視線を合わせて確認しあい始めたわ。
その結果。
全員一致で結論が出たようね。
「今のところ、特に質問はないようです」
代表で答えたのは沙織よ。
いつもなら御堂君が率先して発言することころだけど、
彼が目の前にいることで遠慮してるようね。
まあ、私としては誰が仕切るかなんてどうでもいいのよ。
結果的に学園の平和が守れるのならそれでいいの。
学園の頂点が天城君でも御堂君でも大差はないわ。
私が管理できる戦力であればそれでいいのよ。
そう思える余裕が出来てきたことで、
大きく頷いてから全員に指示を出すことにしたわ。
「それじゃあ今日はこれで解散よ。ただ、手続きは明日になってから行うから、3人は試合が出来ないと思っておいてね。まあ、遅くても明後日の朝までには調整が終わるように努力するから、明日は休暇だと思ってゆっくりしてくれればいいわ」
沙織以外の3人だけは明後日まで試合ができないと説明してから。
「また会いましょう」
4人が席を立って退室するのを見送ることにしたのよ。
一応4人それぞれに対して軽く挨拶はしたけどね。
特に問題なく話し合いが終了したわ。
はぁ…。
やっと、終わったわね。
急に静かになった部屋の中で、再び大きなため息を吐いてみる。
疲れをあらわにしながら、時計に視線を向けてみるとすでに午後9時を回っていたわ。
どうやら30分ほど話をしていたようね。
終わってみればあっという間だったけど。
どこか一箇所でも失敗していたらこんなに上手く話がまとまることはなかったと思うわ。
「長かったわね…。」
今日一日は本当に長かったと思う。
ここまで精神的に辛いと感じることは滅多にないのよ。
それこそ他国の首脳陣との対談並に気を使っていたでしょうね。
だけどその交渉ももう終わり。
ようやく緊張感から解放されたのよ。
そう思えたことで、今度は急激な眠気が襲ってきたわ。
「もう無理。」
何もしたくないし、誰とも会いたくない。
そう思ってしまうほど疲れきっていたの。
こんな状態で家までちゃんと帰れるのかしら?
些細な不安を感じつつ。
ひとまず帰宅の準備を始めることにしたわ。




