自問自答
《サイド:御堂龍馬》
『…で、あなたはどうするの?』
問いかけられた理事長の言葉が頭から離れなかった。
彼はすでに新たな道を選んだからだ。
そして翔子も力を捨てることを選択している。
この状況で僕はどうするべきだろうか?
沙織だけは選ぶことさえ出来ないけれど、僕にはまだ選択肢があるんだ。
今のままでいるのか?
それとも新たな道を行くのか?
どういう状況だろうと翔子と沙織の関係は変わらない。
力を失ったからといって僕達の関係が変わるわけではないということを物語っているように見える。
そんな翔子を見ていると少しだけ羨ましく思えるほどだ。
翔子がどんな気持ちで力を封印したのか?
僕には分からない。
だけどその勇気は称賛に値すると思う。
僕にも出来るだろうか?
何も分からない不確かな力を求めて、
今ある力を捨て去ることが僕には出来るだろうか?
自問自答する心。
今よりも強く成れる保証なんてどこにもないんだ。
そんな冒険のような行動をすぐには選べないと思う。
だから僕は彼に視線を向けてみた。
力を失ったことに対して後悔を感じさせない態度。
そして強い意志を秘めた瞳。
彼の瞳を見ているだけで、吸い込まれてしまいそうな気迫を感じてしまう。
なのに、どうしてかな?
「天城総魔」
自然と彼の名前を呼んでいた。
驚きの表情を浮かべながら僕に視線を向ける翔子と沙織だけど、
彼は表情を変えずに視線だけを僕に向けている。
交わる視線。
少しだけ緊張を感じてしまうのは、僕が戸惑っているからかな?
「きみは怖くはなかったのか?ようやく手に入れた力を失うことが怖くなかったのかい?」
どうなのかな?
問いかけた僕の声は震えてたかもしれない。
恐怖とかそういうことじゃなくて、戸惑いと疑問があるからだ。
なぜ迷わないのか?
そんな疑問があったから。
だから聞いてみたんだけど。
僕の疑問を理解してくれたのか、彼はすぐに答えてくれた。
「力を失う恐怖か?その質問に対してなら『ない』と言えるだろうな。力にすがるつもりがないと言えば分かるか?俺は強くなることだけを望んでいるからな。その為に必要なら力を捨てる程度のことに迷いはない。ただそれだけのことだからな。お前は何の為に力を望む?1位でいる為か?」
1位でいる為?
「いや、そんなつもりはないよ」
「だったら何の為に力を求める?」
「僕は…」
彼の言葉が僕の心を揺さぶっていた。
その理由が僕自身にも分からなかったからだ。
どうして?
僕は何のために力を求めているんだろうか?
いや。
それ以前に、何時から僕はこの力に頼るようになってしまったんだろうか?
僕が強さを求める理由は、何だろう?
自分でもわからない。
だけど、そうしなければいけないと思っていたんだ。
その理由が分からないままに…。
「きみは強くなる為に力を捨てる勇気を見せた。僕は…いや、僕にも出来るだろうか?」
「それは自分自身で決めることだ」
ああ、そうだね。
突き放すような彼の言葉だけど、彼の言葉は真実を物語っていると思う。
僕の進むべき道は誰かが決めることではなくて、僕自身が選択することだからだ。
そうでなければ力を捨てても何の意味もないからね。
自らの意思で立ち上がらなければ、強さを手に入れることは出来ないんだ。
そう思えた。
だから…。
だから僕はもう迷わない。
彼のように、そして翔子のように僕も選ぼうと思う。
「そうだね」
僕は迷いを捨てて彼に向き合う。
「自分で決めることだね」
「ああ、自分で決めろ」
「分かったよ」
彼の言葉を聞いて僕は大きく頷いた。
「僕も始めてみるよ。もう一度、最初から 」
僕の決意を聞いて、彼は微笑みを浮かべてくれた。
そしてふと視線を向けてみれば、翔子と沙織も優しく微笑んでくれていたんだ。
「行こう。理事長室へ」
僕も歩きだすことにした。
この先どうなるかなんて分からないけれど。
彼と一緒なら…いや、みんなが居てくれるなら頑張れると思うんだ。
例え一時的に力を失ったとしても僕はまた這い上がれる。
みんなが居てくれるから、僕はまだくじけない。




