棒読み口調
《サイド:黒柳大悟》
………。
何てことだ。
あまりの面倒臭さに一瞬呆然としてしまったじゃないか。
美由紀のやつめ。
面倒なことを全部俺に押し付けて逃げやがった。
怒りと呆れが入り混じりながらも一応会場全体を見渡してみる。
だが、な。
見えるのはどうしようもない程に崩壊してしまった検定会場だ。
どこから手を付ければいいのか考えるだけで頭が痛くなってくる。
この状況でどうしろと言うのだ?
会場の中央では天城君達がまだ残っているようだが、
彼等に手伝わせることは出来ないだろう。
いくら実行犯とはいえ、彼等に責任などないのだからな。
学生に責任を取らせる学園などありえないだろう?
そもそもの前提として試合を認めたのが学園なのだ。
それなのに責任を追及するのというのはおかしな話だ。
そう考えたことで、西園寺君達に視線を向けてみた。
ほぼ全ての職員達がすでに会場をあとにしている。
残っているのは数名の職員と西園寺君、そして峰山と藤沢君だけだ。
俺を足しても10人にも満たない人数しかいない。
それもこのまま放っておけばすぐに全員が帰ってしまうだろう。
…まずい。
このままだと俺一人で責任を負うことになってしまいかねないからだ。
若干の焦りを浮かべながら、まずは西園寺君に呼び掛けることにしてみる。
「西園寺君!ちょっと話がある」
「はい?なんでしょうか?」
すでに作業中にもかかわらず。
冷静な対応を見せてくれる西園寺君に作業の中止と会場の事後処理の指示を出すことにした。
「美由紀に会場の事後処理を頼まれた。悪いが協力してくれないか?」
「は?事後処理…ですか?」
小さく呟いてから会場を見渡す西園寺君。
その頬に一筋の汗が流れたのを俺は見逃さなかった。
「これはさすがに無理ではないですか?」
戸惑う西園寺君の気持ちは分かる。
正直な話、修繕するよりも新しく建て直した方が早いかもしれないからな。
だが、な。
「やれと言われたからには無視は出来ないだろう。」
「それはまあ、そうですが…」
もう一度会場を見渡す西園寺君の表情は、明らかに途方にくれている。
「ひとまず出来ることから始めるしかない」
「…そう、です、ね。」
棒読み口調で答えているな。
まだ戸惑いから抜け出せないようだが、
それでも残っている職員達に的確に指示を出していくのはさすがだと思う。
疲れた表情を浮かべながらも文句一つ言わずに動き出す職員達。
優秀な部下を持ったことを誇りに思いながら、俺も調査を開始することにした。
まあ、順調に行けば2、3時間で終わるだろう。
設計段階から参加して誰よりも会場を詳しく知る俺達ならそれほど時間がかからない…と信じたい。
実際に終われるかどうかは疑問だがな。
それでも全員がため息を吐く中で、西園寺君だけはせっせと真面目に仕事を進めているようだ。
この状況にあっても真面目さを失わない彼女の苦労を少しだけ理解出来そうな気持ちになった。
「やるとなった以上は仕方がない!さっさと終わらせるぞ!」
職員達に号令を出しつつ。
全力で作業に取り掛かることにした。




