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THE WORLD  作者: SEASONS
4月2日
19/4820

連戦1

そして先ほどの試合からおよそ2時間後。


たどり着いたのは第9検定試験会場だ。


「16001番の天城総魔だ。試合がしたい」


これまでと同様に受付で申請する。


そして差し出された参加者名簿を係員から受け取った。


当然だが今回も会場内にいる生徒全員の名前が書かれているようだ。


この会場は14000から15999番までの生徒が集まっているらしい。


全ての生徒が格上という事実によって受け取った参加者名簿には今回も会場内の全ての生徒の名前が記されている。


現時点ではどの生徒でも選べるわけだが、

まずは少しだけ番号が上の生徒を指名することにした。


「15978番、佐野下恵さのしためぐみさんですね。本日はまだ下位対戦を行われていませんので挑戦を許可します。試合場C-1へ移動してください」


「ああ、わかった。」


受付で指示を受けてからすぐに試合場に向かおうとすると、

再び誰かに見られているような気がした。


やはりいるようだ。


一時的に離れていた監視役の人物だったが、

おそらく昼食を終えて戻ってきたのだろう。


予想はしていたが迷うことなくこの場所にいるということはやはりこちらの行動を先読みして試合内容だけを監視するつもりなのかもしれない。


そしてあくまでも実力の調査が目的だとすればそれほど気にする必要はないと思う。


試合を見られるだけならば周囲にいる学生達と何も変わらないからな。


観察の対象が特定の人物か不特定の人物かという違いがあるだけで見られることそのものに違いはない。


そう考えれば特に気にはならない。


推測が正しければおそらく監視が行われるのは午前と午後の試合のみと考えて間違いないだろう。


だからこそ学園の寮には監視がないと思われる。


そして同様の理由によって食事中や学園内部を散策中には監視の目が弱まっているのだと思う。


試合だけが目的で間違いないはずだ。


だとすれば実力の調査くらいは好きにさせておけばいい。


そう判断して試合場へと向かう。


すでに待機していた審判員と共に対戦相手の到着を待っていると、

しばらくしてから対戦相手の佐野下恵が現れた。


「佐野下恵です。よろしくお願いします」


それほど番号が離れていないからだろうか。


今回の対戦相手である恵はこれまで戦ってきた篠田や江利香とは違って、

こちらを見下すような話し方はしなかった。


とはいえ制服を見ればお互いの学年がわかる。


向こうは俺が新入生だと気づいているだろう。


それでも成績が重視される学園の方針のせいか、

険悪な雰囲気は一切感じられない。


「………。」


黙って試合場に立つ俺と控えめに歩みを進める恵の二人が試合場で向き合うと最後に審判員が歩み出てきた。


「それでは試合を始めます。両者共に、準備はよろしいですね?」


最終確認をとる審判員に向かって二人揃って頷く。


審判員は堂々とした動きで右腕を頭上に掲げた。


「試合、始めっ!!」


勢いよく右腕を降り下ろしながらの号令。


その合図によって恵は即座に魔術の詠唱を開始するものの。


こちらからは攻撃しようとせずに相手の様子を見る事に専念する。


実力の全てを見せてもらうためだ。


今回は相手の実力を見定めて自らの実力を底上げすることが目的だからな。


一つでも多くの魔術を覚えることに集中する。


そのために審判員の合図によって試合が始まっても自分からは一切動かないでいた。


ただじっと様子を見て相手の動きを観察する。


その間に恵の魔術が完成する。


「アイス・クラッシュ!!」


魔術が発動して恵の右手から放たれた氷の塊がこちらの目前で炸裂した。


勢いよくはじけて多方面に強く降り注ぐ氷の粒。


広範囲に広がる氷の散弾は数が圧倒的に多いものの。


一つ一つは小さな粒なのでそれほど高威力に見えない。


だがそれでも速度と命中に関しては間違いなく氷柱吹雪よりも上だろう。


初めて目にする新たな魔術を見てから即座に対応策を考えだして迎撃のための魔術を詠唱する。


詠唱したのは最速の迎撃魔術だ。


利便性という意味ではかなり上位に入るであろう魔術を先程の試合で手にいれているからな。


「ウインド・クラッシュ」


風を生み出すだけの簡単な魔術だが、

その簡単な魔術だからこそ瞬間的に発動できるうえに幅広い応用が効く。


「つぶて程度なら、これで十分だ。」


迫り来る氷の散弾を風で全て吹き飛ばす。


単純な考えではあるが、

だからこそ魔力もそれほど消費しない。


そのうえ上手くいけば相手に魔術を反射できるという部分も考慮して迫りくる氷の粒を吹き飛ばしてみると、

初撃の氷の魔術があっさりと阻まれた事で恵は新たな魔術を放ってきた。


「並みの魔術では効果がなさそうですね。だったら、ファイアー・ボール!!!!」


恵の手から放たれた炎の球がこちらに向かって襲いかかる。


その大きさは直径50センチを優に越える大型の炎の玉だ。


範囲攻撃だったファイアー・ウェーブの火力を一点に集めたかのような強力な炎。


この炎の玉は突風程度で吹き飛ばせるような安易なものではないだろう。


それどころか逆に炎の勢いを強めかねない威力を秘めている。


ここは回避だ。


迎撃に適した魔術がないと即座に判断して炎の玉を回避するが余裕を持ってさらに後退する。


少し距離をとるべきだと感じたからだ。


どの程度の威力があるのかが分からないという理由もある。


全力で後方に下がって着弾点から距離をとる。


わずか数秒間で逃げ切れる距離は決して広くはないものの。


それでも開始線から4メートルほどは離れられただろうか。


先程まで立っていた地面に炎の球が着弾すると同時に大きな火柱が天井に向かって吹き上がった。


着弾と同時に炎上する魔術。


まともに受けていれば一撃で倒れてしまっていただろう。


気力だけで耐えられるものではないと思えるような強力な攻撃だったと思う。


だが、事前に大きく回避したことでこちらの被害は何もない。


強いて言うなら熱風を受けて呼吸が辛くなったことくらいだろう。


「大した魔術だな」


思ったことを素直に言葉にしてみると、

恵は少しだけ表情を歪めてから静かにため息を吐いた。


「ちょっぴり悔しいですね。この距離だと単発魔術は回避されてしまうし、かといって範囲魔術では弾かれる、ですか。」


攻撃が通じないことを相当悔しく思ったのだろう。


ブツブツと不満の言葉を呟いてから再び魔術の詠唱を開始した。


「次はこの魔術で…っ!!」


思案を止めて、恵は新たな力を発動させる。


「ウォーター・ミスト!」


魔術名が宣言された直後。


痛くもかゆくもないただただ純粋な白い霧が試合場全域に立ち込める。


霧を生み出してどうするつもりなのか?


目的が分からない。


そう思った瞬間に恵は全ての魔力を出し尽くす勢いで必殺の一撃を放った。


「審判員さん、ごめんなさい。ライジング・スパーク!!」


雷撃だった。


それは一筋の雷だ。


さきほどの試合で江利香が使用していたような擬似的な範囲攻撃ではない。


恵の攻撃は単体の魔術として完成された真の雷撃だ。


く…っ!!


危険を察知した瞬間。


それはもう手遅れに近かった。


試合場内全域を覆う霧の中では逃げ場の無い強力な雷撃が瞬く間に拡散して広がってしまうからだ。


そのせいで。


「くぁっ!?」


両者の間にいた審判の悲鳴が真っ先に試合場に響き渡る。


そして瞬く間に広がる雷光が俺の体にまで届くのとほぼ同時に辛うじて迎撃の魔術が間に合った。


「氷柱吹雪!」


雷撃がこちらに届くよりもホンの一瞬だけわずかに早く完成した魔術が発動した。


だが、吹雪は恵に向かわない。


俺の周囲で停滞しているからだ。


「何とか間に合ったな」


吹雪を周回させて氷柱を集めて氷の結界を造り上げることで雷撃を無効化することに成功した。


「くっ、氷の結界ですか」


総魔の周囲に氷の結界が完成するのと同時に恵の放った雷撃が襲いかかるがこの攻撃は意味をなさない。


互いの魔術がぶつかり合ってから数秒後。


雷撃が静まるのと同時に恵は忌々しそうに氷の結界をにらみ付ける。


「上手くいったと思ったのに…っ」


氷は電気を通さない。


その事実に気付かされた恵は即座に次の魔術を発動させようとした…のだが。


高位の雷撃魔術で魔力の全てを使い果たしていたようで、

次の魔術を展開できないまま立ち尽くしてしまっている。


「この試合が今日の初戦だったら、と思うこと事態が言い訳ですよね…」


すでに試合を行っていたせいで魔力が消耗していたなどと言い訳をしたところで試合結果は覆らない。


「試合続行は不可能です。」


魔力を使いきったことで、もう何も出来ないのだろう。


動きを止めてしまい、

立ち尽くしてしまった恵に対して、

氷の結界を砕いて脱出した俺は左手を向けて突き出した。


「一応聞くが、諦めるのか?」


戦う意思を見せない恵を見つめながら問いかける。


「敗北を認めるのか?」


問いかけながらも魔術の詠唱を行う俺の姿を見ていた恵は素直に敗北を宣言した。


「ええ、私の負けを認めるわ」


俺が攻撃を仕掛ける前に恵はあっさりと降参してしまった。


「し、勝負あり、勝者、天城、総魔っ」


雷撃の影響に巻き込まれた審判員が自らの役目を遂行するために言葉をとぎらせながらも試合終了を宣言し、

その直後に気を失って倒れた。


そんな審判員の様子を静かに眺めながら恵が俺に頭を下げる。


「ごめんね。中途半端な結果になって」


「いや、いい。」


それなりに楽しめたからな。


恵にとっては悔いの残る試合であっても俺にとっては新たな魔術を幾つか目にすることができた満足できる結果だった。


それだけで十分だったと判断して恵との会話を終わらせる。


「機会があればまた戦おう」


「ええ、そうね。」


少し落ち込んだ表情で試合場を去っていく恵の後ろ姿を見送ってから、

俺もゆっくりと歩き出す。


過ぎたことはどうでも良い。


今はただ次の試合に進むだけだ。


恵との試合に勝利したことで受付に戻って次の対戦相手を選ぶことにした。


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