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THE WORLD  作者: SEASONS
4月5日
182/4820

地震

《サイド:御堂龍馬》


勝ったっ!!!


今まで全力で攻撃するという機会がなかったからどれほどの威力があるのか自分でも知らなかったけれど。


強敵である天城総魔に放った一撃は間違いなく過去最高の攻撃だったと自負できる破壊力だった。


そのせいで試合場の結界まで吹き飛んでしまったけどね。


だけどそれほどの威力を込めなければ天城総魔は倒せなかったと思う。


中途半端な威力では通じないうえに魔力を奪われるだけで逆に危険な状況を招いてしまうことになるからね。


そうならないためには天城総魔の能力を上回る一撃を打ち込むしか方法がなかった。


「これで、決まりだ。」


大技を放った直後で、まだ状況が確認できていないけれど。


天城総魔が反撃してこないことを考えれば致命傷を与えることには成功しているはずだ。


試合場が崩壊して地面に大穴が開くほどの破壊力だからね。


これほどの一撃を至近距離で受けた以上。


無事でいられるわけがない。


「だけど、念には念を…かな」


最後まで油断しないために瞬時に後方へと身を引いて反撃に備える。


そして。


もくもくと粉塵が立ち込める破壊地点から数メートルほど後退して状況を確かめてみる。


どうなのかな?


天城総魔がまだ戦えるのかどうか?


その確認を取るまで気を抜くことはできない。


彼は倒れたのか?


1秒…2秒…3秒と経過していくものの。


崩壊した穴の下から天城総魔が出て来る気配は感じられない。


今の一撃で倒れてくれたのだろうか?


期待はするけれど、まだまだ警戒を緩めることはできない。


結果を確認するまでは油断できる相手ではないからね。


動くのか?


動かないのか?


破壊地点を見据えたまま。


油断する事なく聖剣を構えて、

姿の見えない彼の動きに気を配る。


どっちなんだ?


じっと様子を見守り続け。


汗ばむ手で聖剣を握り直そうとしたその瞬間。


突如として。


会場全体が揺れるほどの大きな地震が発生した。


「う、うわっ!?な、なんだっ!?」


まともに立っていられないほどの地震だった。


それなのに。


地震の揺れは急速に拡大し。


検定会場そのものがバキバキと崩壊する音を立てるほどの震動に変化していく。


「何が起きているんだっ!?」


僕だけではなくて、

離れた場所で観戦している翔子達でさえも踏みとどまることができずにしゃがみこんでいるようだ。


黒柳所長や他の観客達も似たような状況に思える。


ひとまず僕は聖剣を床に突き立てて必死に体勢を保っているけれど。


立ち上がることさえできずに片膝をつくのが精一杯の状況だった。


この揺れは…まずいんじゃないかっ!?


振動が弱まる気配は一切なく、今も会場そのものが悲鳴を上げているからだ。


もしもこのまま地震が続けば天井が崩落する危険性さえあると思う。


だけど、ここから動けない。


振動が強すぎて立ち上がれないんだ。


この状況で会場が倒壊すれば、

僕だけじゃなくて観戦者達も無事では済まないだろうね。


離れた場所で観戦している翔子達でさえ立っていられない状況なんだ。


誰もがその場に座り込んでしまうほどの大地震によって、

黒柳所長や職員達も全員が地に伏せるかのような体勢で震動に耐えている。


そしてその表情は不安と焦りに満ちているように思えた。


「だとしたら…違うようだね」


少し疑ってしまったけれど、

さすがにこれは黒柳所長達が仕掛けた罠ではなかったようだ。


もしもそうならこうなる前に逃げているだろうし。


驚き戸惑うような表情は見せないはずだからね。


それは黒柳所長の態度を見れば分かる。


誰もが状況を把握しきれていないんだ。


一体何が起きているのか分からずに、誰もが試合場の一点へと視線を向けている。


だとしたら。


残る可能性は一つしかない。


この地震を起こしている人物は一人しか考えられない。


だけど。


天城総魔が沈んでいるはずの大穴から肝心の彼の姿はまだ見えない。


それでも。


この場にいる誰もが確信しているはずだ。


この地震は自然現象ではないから彼の魔力によって引き起こされているものだって誰もが理解しているはずだ。


だとすれば彼はまだ倒れていないということになる。


全力で放った一撃を受けてもまだ天城総魔を倒せなかったということだ。


何とか、追撃を仕掛けないと…。


早急に対処しなければいけないんだ。


時間を与えれば与えるほど彼は力を増大させてしまいかねないからね。


怪我の治療と圧縮魔術の保管。


それらを防ぐ方法は攻撃を続けることだけだ。


彼の行動を封じる方法はそれしかない。


「何を企んでいるのかは知らないけれど、嫌な予感しかしないよ」


危険を感じるからこそ、早急に打って出なければ間に合わない。


「あと一撃、入れてみせるっ!」


聖剣を支えにしながら懸命に立ち上がろうとしたけれど。


その行動は既に遅かったみたいだ。


たぶん、様子を見ている時間が長すぎたのかもしれない。


こちらが追撃を決めた時にはすでに彼が動き出そうとしていた。


僕の予想を超えて、動き出そうとしていたんだ。


「そ、そんな…バカなっ!?」


自分の目で確認したことが信じられなかった。


今、目の前にある現実。


それが信じられなかった。


「ど、どうして…っ!?」


驚愕が困惑へと変わり。


攻め込むことさえ忘れて呆然としてしまう。


「どうしてなんだっ!?」


そんなはずはないと思いたいけれど。


目に見える現実はこちらの予想から大きくかけ離れていた。


試合場が崩壊して出来た大穴から彼が出てきたからだ。


それも、最悪の状態で、だ。


純白の翼が現れたのはまだいい。


魔力さえあれば再生は可能だからね。


だから恐怖は感じない。


だけど、天城総魔本人に関してはそうじゃないんだ。


ほぼ密着状態という至近距離で、自己最高の一撃を放っていたんだ。


当然、無傷でいられるはずがない。


それなのに。


大穴から姿を見せた天城総魔の姿に負傷した様子が見られなかった。


なぜだっ!?


天城総魔の姿に気付いた観客達も驚きを通り越して恐怖を感じているみたいだ。


誰もが表情を引きつらせている。


僕だって気持ちは同じだけど…っ。


目の前の現実が理解できなかった。


翼をはためかせながら大穴からゆっくりと浮上する彼からは恐怖しか感じられない。


傷一つ見られない彼の異常性が見る者全てに恐怖を与えているのが感じられてしまう。


僅かな時間で治療したのだと言われれば納得できないことはないけれど…。


制服の各所はあちこちと破れているのにグランド・クロスによる被害は何もないようだ。


魔術で治療したのは間違いないと思うけれど。


魔術を発動させた形跡を感じなかったことが気になってしまう。


まさか、本当に無傷で耐え凌いだのかっ!?


霧の結界は消失しているけれど、

彼の手にはしっかりと魔剣が握られていた。


…って、あれ?


魔剣?


魔剣そのものが天城総魔の手にあることに不自然さは何もない。


だけど魔剣が放つ雰囲気は先程と違うように思えてしまう。


いや、まてよ?


まさかっ?


まさか…っ!?


先程の一撃。


グランド・クルスは間違いなく僕が放てる最強の一撃だった。


だけど。


その一撃を放つ時に。


僕は何をしていたのかを思い出した。


…しまったっ!?


僕は魔剣と斬り合っていたんだっ!!!


至近距離で互いの剣をぶつけ合っていたんだ。


当然、全ての魔術は魔剣と激突することになる。


天城総魔本人に当たる前に、魔剣に力を喰われていたんだっ!!!!


試合場が崩壊したのは魔剣が制しきれなかった余波が原因だったのかもしれない。


あるいは天城総魔だけを守って衝撃の全てを試合場に受け流したのかもしれない。


どちらにしても彼自身には届いていなかったということだ。


制服が破れているのは試合場が崩壊した衝撃を受けたからだと思う。


それなりの怪我はあったのかもしれないけれど、

その程度なら軽度の回復魔術でも十分に対処できるだろうね。


僕の攻撃は不発だったということだ。


その事実に気づいたことで即座に迎撃の準備を整えようと考えるものの。


今もなお収まる事のない地震の影響でまともに立っていられない状態が続いている。


翼をはためかせて空を飛ぶ彼の姿を見上げながらも身動きひとつ取れないんだ。


「これから、何をするつもりなんだ…?」


呟いた僕の声は届いていなかったと思う。


だけど彼は僕の戸惑いを察して話しかけてきた。


「正直に言って驚いた。まさかこれほどの力を持っているとは思っていなかったからな。もう少し早い時点で今の攻撃を受けていたなら、魔力が足りずに光に飲み込まれていたかもしれないな」


魔力が足りずに…?


彼の言葉を聞いて、僕はさらなる答えに気づいてしまう。


くっ!


そ、そうか…っ!


「そういうことなのかっ!」


彼の発言によって僕はようやく事実に気づくことができた。


さっきの接近戦において、霧の内部にいたことを思い出したからだ。


魔力が奪われたことで、防御に必要な魔力を与えていたんだっ!


力づくで押さえ込めると考えて、霧の内部にとどまったのが失策だったようだ。


魔剣の防御能力と霧の吸収能力を甘く見ていたんだ。


「僕の魔力を…奪ったんだなっ」


「ああ、そうだ。そして驚異的な能力を持つお前のその力に敬意を表して、俺も俺の持つ力を見せよう」


宣言した直後に彼の体が光り輝きだした。


うっ!!!


あまりの眩しさに一瞬目を閉じてしまった。


まずいっ!?


今、敵対している人物は目を逸らせるような相手ではないんだ。


一瞬の油断が敗北に繋がってしまう。


どこだっ!?


どこにいるっ!?


慌てて目を開けた瞬間にはすでに、彼の姿が消えていた。


見失った!?


彼が姿を消したと思った。


だけど実際にはそうじゃないようだ。


違うっ!


下だっ!!


ただ単に彼が移動しただけだと気付いて即座に視線を下へと下ろすと天使の翼を広げる天城総魔が地面に降り立っていた。


くっ!


反応が遅れてしまった。


今の一瞬で攻撃を受けていたらまともに対応できなかったはずだ。


それなのに天城総魔は攻撃を仕掛けてこなかった。


「余裕を見せているつもりかい?」


「…いや、違う。ただ単純に魔剣で切かかるだけでは本気の一撃とは言えないからな。最後の一手を完成させるために準備を整えていただけだ」


自信を持って宣言する彼の言葉に虚言は感じられない。


本気で何かを仕掛けようとしているのが分かってしまったからだ。


ただ一人、地震の影響を受けていない彼はしっかりと魔剣を構えた。


「さあ、ここからが本番だ」


魔剣を構えながら翼をはためかせる。


そして瞬時に加速して、崩壊した試合場を突き進む。


地面スレスレを高速飛翔する姿は飛燕そのものだ。


黒い闇が迫る姿からは殺意すら感じてしまう。


「速いっ!?」


空を飛翔する彼に対して、僕は地震の影響で自由に動けないままだ。


どちらが優勢かは考えるまでもない。


回避はできないっ!


ならっ!!


受け止めるしか選択肢はない。


まだだっ!


「まだ負けたわけじゃないっ!!!!」


床に突き立てていた聖剣を引き抜いて全力で横に薙ぐ。


その迎撃は運良く魔剣を弾くことに成功して身を守ることができた。


だけどそれは一度だけだ。


聖剣という支えをなくしたことで地震に耐え切れずに体勢を崩して片手までついてしまった。


ダメだっ!


足場が悪すぎる。


ただでさえ自分の攻撃によって試合場が崩壊してしまったために足場が限られているんだ。


この状況で地震による足止めを受ければ身動きなんて取れない。


急いで対処しなければいけないんだけど。


だけど何も思い浮かばなかった。


僕にできる対処法は何一つないからだ。


試合場を元に戻すことなんてできないし。


地震を止める手段さえない。


聖剣を試合場に突き立てても地震は止まらなかった。


となれば、かなりの魔力を消費することを覚悟の上でもう一度攻撃を仕掛けるしかない。


今度は会場そのものを吹き飛ばすつもりで力を解放するしかない。


そうしなければ地震を止めることができないからだ。


左手だけで聖剣を構えて試合場に向ける。


再びグランド・クルスを発動させるためにだ。


だけど聖剣の力を解放する前に彼が攻め込んでくる。


無理だっ!!!


地震に意識を向ける余裕がないっ!


上空からの攻撃は驚異的だ。


それはもう断罪の刃とさえ言えると思う。


一瞬でも視線を逸らせば瞬く間に首が跳ね飛ばされかねないと感じるほど容赦のない一撃が襲いかかってくるんだ。


まずいっ!


追い込まれていくっ!


切り結ぶ度に徐々に追い込まれていってしまう。


片手だけでは彼の勢いを止める事は難しく。


思うように動けない焦りが、余計に動きを緩慢にしてしまう。


徐々に迎撃が遅れ始めたことで、

彼の攻撃に反応できなくなっているんだ。


「ここまでだな」


「しまっ!?」


背後に回りこまれた瞬間に敗北を覚悟した。


『ザシュッ!!!』と、魔剣で背中を斬られてしまったからだ。


「ぐ…あっ!?」


この一撃は致命傷だったかもしれない。


防ぎきれなかった一撃が背中を切り裂いたんだ。


負傷と同時に急速に奪われていく魔力。


たった一撃で3割以上もの魔力が奪われてしまい。


視界が一気に歪み始める。


くっ!


さすがにきつい…。


「だけど、まだ…まだだっ!!」


気力を振り絞って無理やり意識を覚醒させる。


残り僅かな魔力で状況を打開しようと思うんだけど、

現状で出来ることは限られている。


まずはこの地震を止めないことにはまともに立ち上がることさえ出来ないからだ。


「どうすれば…!?」


迷う間にも彼は迫り来る。


何とか時間を稼いで隙をみつけるしかないだろうね。


背中の傷の治療と並行して、足止めのための魔術の詠唱を始めてみる。


その間にも彼は攻撃を仕掛けてくるけれど、

最後の悪あがきとして聖剣を全力で振り回し続けた。


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