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THE WORLD  作者: SEASONS
4月2日
16/4820

上級生の務め

「ひとつ聞きたいんだが、ここには何番の生徒がいるんだ?」


「基本的にこの検定会場に集まっているのは18000番から19999番までの生徒ですよ」


「ざっと2000人か?」


「ええ、そういう事になります。全てではありませんが、大抵の会場が2000名ごとに区切られているので他の会場に行っても生徒数は似たようなものです。ただ、ここもそうですが、会場に集まる平均的な人数で言えば200人に満たないでしょうね」


なるほど。


所属としては2000人でも実際に会場に集まっている生徒数は1割程度らしい。


「検定を受けたいんだが、入ってもいいのか?」


手帳を見せながら問いかけてみると係員は生徒番号に視線を向けてから諭すように言葉を紡いだ。


「20382番ですか。検定を受けるのは自由ですが、あまり無理はしないほうがいいですよ。対戦相手を選ぶときは10番程度上の相手を目処にして試合を進めていくのが一般的な流れですから」


引き留めはしないが出直した方がいいという意味だろうか。


言いたいことはわからなくもない。


自分よりも10番程度格上の相手と戦っていくのが基本だとすれば400番以上離れた成績で次の会場に向かうのは無謀だと言いたいのだろう。


もう少し成績をあげてから、

極力2万に近い番号を得てから挑戦すべきだと忠告しているように思われる。


その意見はまあ、もっともかもしれない。


だが無理をするなと言われてすんなりと引き下がるつもりは今のところなかった。


無理かどうかは戦えばわかるからな。


少しずつ成績をあげるのも悪くはないが、

それはその必要性を感じたときに実行すればいい。


まずは現在の力でどこまで勝ち上がれるかを調べることが重要だと思っている。


「やるだけやってみて、それでダメなら出直すつもりだ」


善意で忠告してくれた係員の横を通り抜けて足早に会場内へと入って行く。


そして迷うことなく受け付けに並び。


先程と同じように試験の手続きを行う。


「試合がしたい」


生徒手帳を出して申請すると返事はすぐに返ってきた。


「20382番、天城総魔さんですね。こちらの参加者名簿をどうぞ」


先程と同じく参加者名簿には現在会場に集まっている生徒の番号と氏名が一覧となって記されている。


だが今回は少しだけ内容に違いがある。


自分よりも格下の生徒がいないことで会場内にいる全ての生徒の名前が記されているということだ。


確かに集まっている生徒の総数は200名程度らしい。


各時間帯によっても異なるとは思うが、

現時点では200名をホンの少しだけ越える程度の生徒達が集まっているようだ。


とはいえ。


選べる相手は多いが探すべき相手はただ一人でしかない。


どれだけ集まっているかは問題にはならない。


次に戦うべき相手の番号を確認しつつ、

差し出された参加者名簿をざっと眺めてから即座に一人の生徒を選ぶ。


「この生徒でいい」


指差した先に記された名前は篠田良太(しのだりょうた)だ。


面識は一切ないが現時点では他に選択肢がない。


「え~っと、篠田良太さんですか?」


対戦相手の名前を確認した受付の女性はどことなく困ったような表情を浮かべながら言葉を詰まらせている。


「本当に、この人で、いいんですか?」


「ああ、そうだ。何か問題でもあるのか?」


「え、い、いえっ、問題とかそういう訳ではないのですが、問題以前の問題というか、いえ、挑戦は自由なので問題がないとも言えるのですが、でも、その…」


どう説明するべきか悩んでいるようだな。


だがそれでも俺の指名に問題はないはずだ。


誰を選ぼうと自由だと聞いているからな。


そのためか。


試合を拒む理由が思いつかなかった受付の女性は

ため息混じりに試合の手続きを進めていった。


「え~っと、篠田良太さんですが本日はまだ下位対戦を行われていませんので挑戦を許可します。試合場B-4にお向かい下さい」


色々と面倒くさそうに手続きを済ませていく女性の指示を受けてからゆっくりと試合場B-4に向かう。


会場の内部に複数ある試合場の中でも南西側に位置する今回の試合場は受付から会場に入ってすぐ左側付近にあるのでたどり着くのは簡単だった。


受付を離れてからものの数十秒で試合場にたどり着いてみると今回の審判を務める審判員が話しかけてきた。


「天城総魔さんですね。只今、対戦相手をお呼びしていますので、少々お待ちください」


小さく頷いてから対戦相手の篠田良太が現れるのを待つ事にした。






そしてそのまま何をするわけでもなく数分ほど静かに待っていると、

呼び出しを受けた篠田が堂々とした足取りで試合場に姿を現した。


「待たせたな。あんたが今回の対戦相手か?見たことのない顔だな。」


話しかけながら歩み寄ってくる篠田からはこの会場における上位の風格が感じられる。


誰が相手だろうと負けることはないという自信に満ち溢れた強者の威厳が感じ取れる篠田だが、

のんびりとした口調で話しかけつつも試合場に着いてすぐにこちらの生徒番号を確認したことで即座に顔色を豹変させていた。


「なっ?20382番だと!?」


番号を知って驚く篠田を臆する事なく堂々と見つめ返して問いかけてみる。


「ああ、そうだ。それがどうかしたのか?」


何も問題はないはずだと考えているために、

一切動じる気配を出さないこちらの態度を見ていた篠田の表情は一瞬にして不機嫌に染まった。


「どうかしたかだと?ふざけているのかっ!?仮にも俺は18007番だぞ!!2千番以上も離れているのに、俺に勝てるつもりなのか!?」


「もちろんそのつもりでここにいるが、勝てるかどうかは戦えば分かる事だ」


「戦えばわかるだと!?馬鹿馬鹿しい!とんだ命知らずだなっ!!」


吐き捨てるように言い放った篠田は俺を見下して睨み付けてくる。


どうやら本気で怒らせてしまったようだ。


わざと怒らせようと思っていたわけではないのだが、

俺の態度が気に入らなかったらしい。


「痛い思いをしても泣き言を言うなよ!」


発言自体がすでにバカバカしいと思うものの。


そこを指摘すれば余計に逆上するだろうな。


「ああ、大丈夫だ。そのつもりはない。」


言い争いをするためにここにいるわけではないからな。


感情を抑えて淡々と答えてからつまらない会話を打ち切ると篠田はさらに急速に険悪な雰囲気を放ち始めた。


「ちっ!」


舌打ちをしてあからさまに不機嫌な表情を見せる篠田だが、

正直に言えば俺としては特に気にするほどの問題ではない。


戦って負けるならばそれまでのことであり、

勝てるようであれば次の会場へ向かうだけでしかないからだ。


ただそう思うだけだからこそ必要以上に対戦相手と話し合おうとは思わない。


「………。」


篠田は黙り、俺も相手にしようと思わない。


そんなふうに互いに沈黙することで生まれる険悪な雰囲気。


息苦しささえ漂う重苦しい空気のなかで、

会話が終わった事を感じた審判員があいまいな笑顔を浮かべながら試合場に歩み出てきた。


「それでは試合を始めます。両者共に準備はよろしいですね?」


問いかける審判員に対して俺は無言でうなずいただけだが、

篠田は不満を隠すことなく審判員に念を押す。


「実力に差があるんですから、やりすぎで反則とか言わないでくださいよ?馬鹿が大ケガしてもそれは自己責任です」


この試合において何が起きても自分が悪いわけではないと主張する篠田だが、

審判員はそうは思わないらしい。


「初心者に指導をするのも上級生の務めですよ。」


やんわりと諭すように説得してから、

ゆっくりと後方に下がり始める。


「それでは、試合、始めっ!!」


どちらに味方するわけでもないまま試合開始を宣言した審判員が試合の結果を見届けようと行動するなかで、

開始早々に篠田が全力の一撃を放ってきた。


氷柱吹雪つららふぶき!!」


風を起こして吹き抜ける冷気。


魔術としての格がどの程度か分からないが、

篠田の魔術によって生み出された数百もの小さな氷柱が吹雪の如く降り注ぐ。


「吹雪か、耐えきれるか?」


数秒で距離を詰める吹雪を見つめながら迫り来る吹雪に対して防御結界を展開する。


「シールド!」


結界を展開した瞬間に氷柱の雨が次々と降り注いだ。


一本一本が針のように鋭く尖る氷柱。


一つでも直撃すれば重傷を負うのは間違いないだろう。


鋭く尖った氷柱が次々と降り注ぎ、

展開している防御結界に着弾してパキパキと小さな音を立てながら結界を凍結させていく。


その様子を眺める篠田は攻撃を続行する。


「手加減なしだっ!!」


魔力を使い果たす勢いの篠田が怒りを込めて攻撃を続けていく。


続々と放たれる氷柱。


それにより結界ごと氷に覆われたことで視界を遮られてしまい、

こちらからは反撃もままならない。


確かに強いと思う。


この会場において最上位の成績を持つだけあって、

放たれた魔術の破壊力は俺の予想を上回るほどの威力を秘めているだろう。


それでも手加減などは一切考えない篠田は結界を突き抜けるために容赦なく攻撃を続けている。


両手から絶え間なく氷柱が放たれる。


限りある魔力を消費し続け、

膠着状態のままで試合開始から数分の時間が流れていく。


…そして…。


「これが実力の差だ。」


防御結界ごと氷付けにする一方的な攻撃によって勝利を確信した篠田が魔術を止めて吹雪を消し去った。


「まあ、俺が勝つのは最初から分かっていたから当然の結果だけどな」


勝利を宣言する篠田の発言によって静まり返る試合場。


誰も声を発しない試合場にいるのは無傷の篠田と審判員。


そして結界ごと凍結させられて姿の見えない俺だけだ。


「ふんっ!!調子に乗って一気に上位番号を狙おうと思ったんだろうが、そんなに甘くはないんだよ。もっと下から出直してくるんだなっ」


篠田の台詞を聞き終えた審判員が試合終了を宣言しようとするが、

その前に反撃の一手を放つ。


「炎の刃!!」


氷で閉ざされた結界の内部で魔術を発動して炎の刃を放った。


「なっ!?反撃だとっ!?」


不意を突かれて動揺した篠田は炎の刃から逃げられない。


周囲を包み込む氷を砕き飛ばしながら突き抜けた炎の刃が勝利を確信して油断していた篠田の体を深く切り裂いた。


「ぐあっ!?」


試合が終わったと思い込んでいたせいで完全に油断していた篠田はろくに回避も出来ないまま炎の刃の直撃を受けて片膝をついてしまう。


その一瞬の隙にさらに幾つもの炎の刃を生み出すことで周囲の氷を打ち砕いて脱出する。


これで自由は確保できた。


篠田の先制は完全に失敗だ。


俺は無傷だからな。


対する篠田は炎の刃を食らって負傷したようで試合場にうずくまっている。


今、攻撃すれば楽に勝てるだろうな。


脱出から即座に新たな力を発動させる。


「氷柱吹雪」


「な…なん、だと!?」


今度はこちらの手から放たれた吹雪。


炎の刃の直撃によって身動きのとれない篠田は成す術もないまま吹雪の如き氷柱に襲われて全身を凍結させながら意識を失って倒れ込んだ。


「………。」


今度は篠田が沈黙する番だ。


試合場に倒れて意識を失っている篠田に動く気配は感じられない。


完全に戦闘不能状態に陥っているようだな。


そんな篠田の様子を見ていた審判員が今度こそ試合終了を宣言する。


「試合終了!勝者、天城総魔!」


これで二勝目だ。


再び試合に勝利した。


ここまでは予定通りと言えるだろう。


僅か2回の試合で一気に順位を上げることができたからな。


この勢いなら次の試合も勝てるかも知れない。


今ならまださらに上を目指せるかもしれないと判断して、

受付で手続きを終えてからすぐに次の検定会場へと足を向けることにした。


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