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THE WORLD  作者: SEASONS
4月5日
159/4820

制限時間

《サイド:天城総魔》


黒柳と共にルーン研究所の奥にある実験室に移動した。


ここは二日前にも一度訪れた事のある例の大部屋だ。


初めてルーンという物を目にして、その能力に驚いた場所でもある。


あの日の出来事は今でもはっきりと覚えている。


名前も知らない青年と光を放つ聖剣の能力。


あの時に感じた衝撃は今もまだ忘れることができないからだ。


そう考えると、ここが始まりの地だと言えるのかもしれない。


ここでの経験が魔剣の誕生に繋がったからだ。


あの時の驚きがなければ魔剣は作り出せなかっただろう。


それを思えば感慨深いものがある。


だから、だろうか?


ここへ来ようと思ったのは…。


本当は実験の協力にするためではなくて、

この場所に来たかっただけなのかもしれない。


そんなふうに思ってしまう。


出来ることならもう一度、見てみたいと思うからだ。


そしてここへ来れば、もう一度あの青年に会えるかも知れないと考えていからsだた。


結果から言えば会えそうにはないものの。


それでもここにいるだけであの時のことを思い出すことができる。


あの力こそ、俺が目指すべき目標だ。


この広大な実験室を破壊しかねない圧倒的な攻撃力。


その力に憧れる思いが確かにある。


出来ることなら、もう一度見てみたいと思うほどだからな。


今回は無理だったが、いつかまた会えるだろうか?


出来ることなら全力で戦ってみたいと思う。


魔剣と聖剣のどちらが上を行くのか。


その答えを知りたいと思う。


そんなふうに考えながらも、

ここへ来た目的を果たすために実験室の内部を見渡してみることにする。


状況はあの時と酷似しているだろうな。


違うのは今回の主役が名前も知らない青年ではなくて自分だということだ。


この場所で実験を行うのは俺だからな。


その違いを思うことで、例の青年と同じ立場に立てた気がした。


追いついた…と思う気持ちは気のせいではないはずだ。


あの時は間違いなく手が届かないと思っていたからな。


あれほどの才能に勝てるわけがないと感じたことを覚えている。


だが、今なら勝てるかも知れないと思う。


実際に戦ってみなければ答えは出せないものの。


手も足も出ないと感じていたあの時とは状況が違う。


もしも今ここで青年と出会えたとしたら、

今度は迷うことなく勝負を挑めるだろう。


ようやく同じ舞台に立てたからな。


今なら戦うことに迷いはない。


そんなふうに思いながらゆっくり室内を見回していると、

数多くの職員達が実験の準備を整えていく姿が見えた。


あの日と同じように、実験の準備が進められているようだ。


そんな職員達の様子を俺と同じように眺めていた黒柳が改めて話しかけてきた。


「さて、まもなく準備が整うだろう。ひとまずこれからの段取りだが、先程の話し合い通りでいいんだな?」


「ああ、それでいい。特に変更はないからな」


合流した西園寺も含めて、黒柳と共に実験手順の再確認を行っていく。


「実験の進行は任せる。もちろん指示もそちらに委ねるつもりだ」


とは言え。


あまりのんびりとはしていられないからな。


出来る限り手短にして欲しいとは思う。


正確な時間を決めているわけではないものの。


翔子と合流する予定があるからだ。


実験に協力するために黒柳達の指示に従うつもりではいるが、

長時間ここにとどまることはできないことを前もって伝えておくことにした。


「このあとで翔子と合流して最後の試合に関する打ち合わせを行う予定があるからな。協力を申し出ておいて途中で離脱するのは申し訳ないと思うが、俺がここにいられるのはせいぜい30分程度だ。その間はそちらの指示に従うつもりでいるが、時間になったら退室させてもらうことになる」


「………。」


俺の出した条件に対して西園寺は不満気な表情を見せていた。


だが。


「ああ、それは構わない。」


黒柳は即座に了承してくれた。


「こちらとしては魔術の分析さえできれば十分だ。情報さえあればその後の実験は俺達だけで進められるからな。無理に強制するつもりはない」


実験結果さえ手に入ればそれでいいようだ。


強引に俺を引き止めようとはしなかった。


だが黒柳とは違って、西園寺は納得できなかったようだ。


「所長、それでは十分な調査結果が得られるとは思えません。魔術の特性と傾向を調べるためにはこちらの指示に最後まで従ってもらうべきです」


満足できる結果が出るまで徹底的に調査を行いたいのだろう。


その気持ちは理解できなくもないが、

翔子との約束があるからな。


最後までつきあうことはできない。


「悪いが無条件で付き合えるほど時間に余裕がない。」


集合時間を決めているわけではないが、

12時にはここを離れなければ昼食の約束は果たせなくなってしまうだろう。


遅くなったところで文句を言われることはないとは思うが、

一方的に役目を押し付けただけで翔子に迷惑をかけることになってしまうからな。


「ここにいられるのは正午過ぎまでだ。遅くとも12時30分には食堂に向かいたい」


それ以上の妥協は難しいのだが、

西園寺としては納得できないらしい。


「それは、そちらの都合でしょう?ここまで来て部外秘の情報を耳にした以上は最後まで実験に協力する義務があるはずです」


どうあっても途中退場は認めたくないようだ。


まあ、それも当然か。


現状では情報を持ち逃げすることに等しい行為だからな。


最終的に時間を理由に退出するのは逃亡したと思われても仕方がないだろう。


だが、そう思わせないための方法が一つだけある。


「どうしても気に入らないというのなら、時間内に理論を完成させれば文句はないな?」


「それは、まあ、そうですが…」


だったら心配する必要はない。


実験はすぐに終わるはずだ。


俺が考えた理論がどの程度の効果を発揮できるのか?


その答えはすぐに判明するだろう。


「魔術の証明を行うだけなら30分もあれば十分だ。」


情報を持ち逃げするようなつもりは一切ないからな。


仮に魔術の証明が時間内に終わらなかったとしても、

最後の試合を行うまでの待ち時間は手が空いている状況だ。


「どうしてもというのなら昼食後にもう一度ここへ来て協力してもいい。」


「………。」


こちらが協力を約束したことで口論する意味を失ったのだろうか?


まだまだ不満そうな表情のままだったが、

それでも大人しく引き下がってくれた。


「結果さえ出せるなら異論はないわ」


そういう結論に達したらしい。


「…だそうだ。これで文句はないな?」


念の為に黒柳にも確認してみると、

黒柳は大きく頷いてから笑顔を見せた。


「もちろん、文句はない。君が結果を出せるのなら、という条件はつくがな」


「それなら問題ない。」


魔術の展開に失敗するならともかく、

一度でも発動できれば結果は残るからな。


実験そのものはものの数分で終わるはずだ。


「結果はすぐに出る」


「ははっ。だったらすぐに始めよう。こうしている時間さえももったいないからな」


ああ、そうだな。


残り時間は少ない。


口論している暇はないだろう。


「それでは実験の主導権は西園寺君に任せる」


「分かりました」


黒柳が決断したことで西園寺も了承したようだ。


少々もめたが問題はない。


実験は必ず成功するからな。


すでに理論は出来上がっている。


あとは実際に魔術を展開して証明するだけだ。


難しいことは何もない。


黒柳が考案した理論を組み直して改良した新理論を基にして魔術を展開する。


そして幾つかの方法を試して拘束結界を完成させる。


ただそれだけのことだ。


結界の証明はすぐに終わる。


実験の内容は簡単だからな。


この場で実践して拘束結界を展開させるだけだ。


結界の内部で魔術が使えなければ実験は成功となり、

結界の内部でも魔術が使えるようなら実験は失敗になる。


その結果次第で俺の考えた結界の有効性が明らかになるだろう。


「それでは俺達の準備も整えてしまおうか」


「ああ、そうだな」


黒柳と共に実験場に向かうことになった。


もちろん西園寺も同行しているのだが、

西園寺は実験の指揮を執るために参加している。


今回も黒柳が実験の指揮をとらないからだ。


黒柳自身が被験者になることが決まっているからな。


直接、指揮を執ることができないという理由がある。


そんな黒柳だが。


今は研究所の職員としての日々を過ごしているものの。


元は一流の魔術師だったそうだ。


自分自身で直接確認した方が話が早いと言う事で黒柳が自ら名乗り出ていた。


「さあ、始めようか」


かつて光の剣を手にしていた青年が実験を行っていた場所に黒柳が立ち、

俺の様子を窺っている。


「君の成功を祈っている」


結果を出すことを優先した黒柳がこちらをじっと見つめている。


その表情には恐怖も喜びも感じられない。


ただただ純粋にこちらの行動を見極めようとする研究者としての本能のようなものを感じさせる。


「準備はいいのか?」


黒柳の正面に立ってから傍に控えている西園寺に問いかけてみると、

西園寺は真剣な表情で頷いた。


「ええ、こちらの準備は整っているわ」


…だそうだ。


「それなら問題ないな」


大まかな実験準備が整ったことで、黒柳も職員達に最終確認を行っている。


「防御結界の準備はどうだ!?」


即座に職員の一人が答えた。


「すでに完了しています!!万が一失敗して魔力が暴走したとしても、余波が室外に出る事はないと思います!」


「よし!次に観測班はどうだ!?」


次の質問には、西園寺が答える。


「すでに準備は整っています。ただ実験の内容が視覚では判断しづらい為に、どこまで正確に観測出来るのかは多少の疑問が残ります」


「その辺りに関してはとりあえず出来る範囲でやればいい。記録さえ残れば検証はいつでもできるからな。いいか!?今から実験を開始する!失敗時の危険性を考慮して各自十分に気を付けるように!!」


黒柳が指示を出し終えたことで、全ての準備が整ったようだ。


「待たせたな」


「いや、問題ない」


残り時間はまだ20分ほどある。


「もう少し休んでいてもいいくらいだ」


「そうか、そう言ってもらえるのはありがたいが、女性を待たせるのも失礼だろう。美袋君が怒り出す前に終わらせてしまおう」


「ああ、そうだな」


翔子が怒るかどうかは知らないが、

今までの行動を思えば面倒なことになるのは間違いないだろう。


少なくとも、こちらの要求を叶えるために動いてもらっているからな。


翔子の機嫌を損ねるのは得策ではない。


遅くとも12時30分には食堂に向かって、昼食の約束を果たすべきだ。


「正午までに全て終わらせる」


黒柳は魔術を完成させるために。


そして俺は翔子との約束を叶えるために。


お互いの目的を叶えるために、それぞれに意識を集中し始めた。


「魔術を展開する。覚悟はいいな?」


「ああ、いつでも構わない」


覚悟を決めた黒柳に拘束結界を発動する為に、右手を黒柳へと向ける。


やるべき事はただ一つ。


黒柳の魔力を撹乱すること。


ただそれだけだ。


黒柳が魔術を発動出来なくなれば実験は成功となる。


逆に言えば、黒柳の魔術を阻止出来なければ実験は失敗ということだ。


魔力に干渉できれば実験は成功する。


それだけを考えながら魔力を右手に集中させると、

職員達の緊張感が実験室内に広がり始める。


「いくぞ」


こちらからの最終警告に、黒柳は無言で頷いた。


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