表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
THE WORLD  作者: SEASONS
4月5日
144/4820

干渉と妨害

《サイド:天城総魔》


ふう。


ようやくたどり着いたか。


試合場で倒れた北条を休ませる為に医務室へとやってきた。


そして空いているベッドに北条を運び込んで、

勤務中の医師に北条を預けることにした。


そのついでに周囲を見回してみると、

見覚えのある生徒達が数多くいるのが確認できた。


各ベッドには昨日の試合で倒した生徒達が今もまだ眠り続けているようだ。


近くにいた医師に聞いてみたところ。


ここに運び込まれてから現在に至るまで目を覚ました生徒は一人もいないらしい。


唯一の例外が翔子だが、

翔子は魔力を全損していたわけではないからな。


魔力を取り戻して目覚めるのが早かったのだろう。


魔力を失った影響で昏倒してしまった生徒達はまだ誰も目を覚ましていないようだ。


医学的な治療法では生徒達を目覚めさせることはできないからな。


彼等が目覚めるには失った魔力が自然回復するのを待つしかないだろう。


そのせいか。


食事を取れない彼らは点滴を受けることで僅かな栄養だけを与えられている状態のようだ。


目覚めるまで何日かかるのかは個人差がある為に計り知ることは出来ないが、

遅ければ2、3日はかかるかもしれない。


当然、北条真哉も例外ではない。


このままなにもしなければ当分の間は目を覚まさないだろう。


もちろん魔力を送り込めばすぐに目覚めるはずだが、

北条は倒れる前に治療を拒絶していたからな。


勝手に治療するわけにはいかないと思う。


翔子や沙織とは違って、

『敵の手は借りない』とも取れる意思を見せていたからだ。


北条はまだ俺に協力するつもりがないという意思の現れだろう。


俺からすればどちらでもいい部分だが、

翔子と沙織からすれば決定的な溝が出来たのかもしれないな。


翔子も沙織も今はまだ何も言わないが、それぞれに思うことはあるだろう。


とは言え、北条の真意は誰にも分からないからな。


今はただ目覚めるのを待つしかないだろう。


「北条君、大丈夫かしら?」


心配そうな表情で北条を見つめている沙織だが、

俺との試合で受けた怪我は沙織の魔術でほぼ完治しているからな。


心配する必要はないだろう。


見た目だけで言えば、ただ眠っているだけだ。


これ以上やるべきことは何もない。


だからだろうか?


「まあ、大丈夫なんじゃない?」


翔子の表情は気楽な笑顔だ。


それほど北条の容態を心配しているように見えないのは自分自身でも経験しているからだろうな。


他の生徒達と同様に、

俺との試合によって一度は魔力を失って倒れた翔子だが、

治療を受けて目覚めたことで北条の苦しみを知っているはずだ。


どういう症状があって、

どういう後遺症が残るのか。


それら全てを知っているからな。


心配する必要はないと考えているのだろう。


それほど深刻には考えていないようだ。


ただ、翔子の場合。


試合前にも経験していたことが大きいのかもしれないな。


寮の前で魔剣の能力を経験して自力で目覚めた翔子は知っている。


多少のけだるさはあってもそれ以上の後遺症がないことを知っているからな。


せいぜい眠り続けたせいで、

ご飯を食べ損ねて空腹で気持ち悪くなる程度の話だ。


大して気にするほどの事ではないと判断しているのだろう。


「大丈夫!大丈夫!」


沙織を元気づけようとして話しかけている翔子。


そんな二人のやり取りを聞きながら、

もう一度周囲の生徒達に目を向けてみた。


静かに寝息を立てる生徒達に異常は見られない。


誰もが眠っているだけだ。


俺の試合とは関係のない生徒達も少なからずいるようだが、

現時点では半数以上が俺の被害者と言うことになるだろうか。


俺が医務室送りにした生徒の総数は北条を含めて19名になる。


第2検定試験会場で10人。

第1検定試験会場で9人。


合計19人だ。


翔子と沙織はすでに行動できる状態なので、数には含んでいない。


とは言え。


これ程の数の生徒達を倒して魔力を吸収したにもかかわらず、

その全てを使い切らなければ倒せなかったであろう翔子と沙織の実力は認めなければならないと改めて感じてしまう。


逆に言えば、数を揃えなければ翔子や沙織には届かないということだ。


並みの魔術師であれば翔子や沙織には勝てないだろう。


もしも吸収の能力がなければ、俺がここまで上り詰める事も出来なかったかもしれない。


『他人の力でここまで来たという事実』を嫌でも痛感してしまう状況だな。


それでも北条との試合で得た魔力は有難いと思う。


それほど多くはないものの。


北条の魔力を吸収したことで

俺の魔力は半分程度を維持できているからな。


このまま試合をしなければ今日中には魔力が全快するはずだ。


最後の試合では全力で戦えるだろう。


ただ…。


より強くなることを目指すうえで他人の力を得て1位に立つ事にどれほどの意味があるのかと思う疑問も少なからずある。


俺自身の実力はまだそれほど高くはないからな。


自分自身が力を付けなければ本当の意味で強くなったとは言えないだろう。


そんなふうに考える自分もいる。


負けない為に…


そして勝ち続ける為に…


たまたま吸収という能力に目を付けたのだが、

本当にこれが自分の能力なのだろうか?


ふと、そんな疑問にもたどり着くことがある。


そして疑問を感じると同時に、自分にはもっと別の力があるのではないか、とも考えてしまう。


それが何かは分からない。


だが、なんとなく考えてしまう。


今はまだ答えの出ない問題だが、

最後の試合が終わった時に俺はその答えを出す事が出来るだろうか?


心の中に思い浮かぶ疑問はいつまでもなくならない。


考えれば考えるほどキリがないからな。


そんなふうに考え事をしていると、

不意に翔子が何かを思い出して不思議そうな表情を見せながら話しかけてきた。


「そう言えば、さっきは何の話をしてたの?」


「さっき?何の事だ?」


「だから、西園寺さんに何か聞いてたじゃない?実験がどうのこうのって」


ああ…そのことか。


翔子の質問の意味を理解して、

先程の西園寺との会話を思い出してみる。


結界の実験の裏で行われていたもう一つの実験。


その内容に関する会話だったのだが、得られた情報は何もない。


「少し気になる事があっただけだ」


「だ・か・ら、それが何かを聞いてるんだけど?」


尋ね続けてくる翔子が追求を諦めてくれる様子はない。


これまでと同様に、こちらが答えるまで質問を繰り返すつもりなのだろう。


「教えてくれないの?」


よほど気になるのだろうか?


まっすぐにこちらを見つめて、視線を外そうとしない。


「話したくないわけではないが、それが何か分からないだけだ。ただ、試合中に何かの実験が行われていたのは間違いないからな。それが何なのかを確認していただけだ」


「実験?何の?」


それが分からないから悩んでいるわけだが。


「結界の、ですか?」


翔子の横で何かを考え込んでいた沙織が話しかけてきた。


「何か知っているのか?」


「え、いえ…。詳しい事は何も知りません。ただ、試合場の結界の耐久性を高める為の強化実験を行っているという話は聞いた事があります」


結界の強化か。


その言葉を聞いたことで再び確信がもてた。


やはり沙織は何も聞かされていないようだ。


…と同時に。


当事者である北条でさえ何も知らないはずだ。


強化という表向きの実験。


その実験の背後で何か別の実験が行われていることを誰も聞かされていないように思える。


それが何かまでは分からないが、

おそらく俺にとって無視出来ない何かだろうな。


そう考えていた。


深刻な表情で思考する俺と不安そうな表情の沙織。


その間に立つ翔子が核心に迫る。


「結界の実験だけじゃないって感じ?」


翔子の質問に頷いておく。


「ああ、そうだ。試合前には結界の実験だと言っていたが、それ以外の何かを行っていたのは確かだ。明らかに別の力、何らかの『干渉』を感じた。そしてそれは北条も同じだったようだ」


「どんな感じでしたか?」


どう説明するべきだろうか?


試合中の出来事を思い返しながら答えてみる。


「魔力に直接働き掛けるような干渉と言えばわかるか?魔術の展開を阻害されるような感じだ。おそらく魔力の流れを妨害するような実験を行っていたのだろう」


「妨害…ですか?」


推測できる範囲内で答えてみたのだが、沙織は首を傾げている。


その隣で困惑している翔子も足りない知恵を振り絞っているようだ。


「それって魔術が使えなくなる…とか?」


「その可能性は高いだろうな」


「「えっ?」」


翔子の言葉を肯定してみると、

翔子と沙織は揃って驚きの表情を浮かべていた。


「それって、問題じゃない?」


「ええ、そうね。被験者の同意を得ない実験は基本的に禁止されているはずよ」


ここまでの会話によって、二人も話の重要性に気付いたようだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ