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THE WORLD  作者: SEASONS
4月5日
139/4820

真哉の能力

《サイド:天城総魔》


くっ!


ただひたすらに槍の攻撃を耐え凌ぐ。


そして防御に徹しながら北条の能力を探り続ける。


その攻防の間に何度も霧を生み出しているのだが、

北条の一撃によって全て吹き飛んでしまっていた。


やはり霧では北条を足止めできないようだ。


霧の内部を平然と突き抜けてくるからな。


霧の能力で北条を無力化するのは諦めるしかないだろう。


その辺りの理由が不明のままなのだが、

突撃を繰り返す北条の姿に特別な魔術などの要素は感じられない。


純粋に突撃を続けているだけのように思えてしまう。


だが、それはあえない。


それだけで霧を突き抜けることはできないはずだ。


本来なら魔力の量に関係なく瞬間的に全ての魔力が奪えるはずだからな。


霧の内部に入り込むのは裸で炎の中に裸で飛び込むのと同等の行為だ。


気合だけで耐え凌ぐのは不可能のはず。


それなのに霧の内部でも行動できるということは何らかの能力が発動しているのは間違いないだろう。


問題はその能力が何なのか?という部分だが、それがまだ分からないでいる。


とは言え。


北条の戦闘方法そのものは単純明快だ。


槍に込めた魔力を破壊力重視の魔術に変えて、

自慢の体力で強引に叩き込もうとしているだけだからな。


最初こそ驚いたものの。


すでに対処法は確立している。


無理に押さえ込んだり、弾き返すのは難しいが、

受け流すだけならそう難しいことではないからだ。


槍の長さによって攻撃範囲の広さが厄介ではあるが、

耐え凌ぐだけなら無理に攻める必要はない。


時間を稼ぐためにはむしろ都合がいいとさえ言えるだろう。


北条の攻撃を耐えるのは簡単だが。


北条の能力を解析しない限りは俺も決定打にかける現状だからな。


打開策を考える必要がある。


どうする?


槍の長さを逆手にとって懐に攻め込んで反撃できない北条に魔剣の一撃を与えるという手段はすでに却下済みになっている。


そんな単純な作戦はすでに失敗しているからだ。


まさか槍術に加えて棒術まで極めているとは思わなかったからな。


危うく致命的な攻撃を受けるところだった。


たまたま上手くかわせたから良かったものの。


長さ3メートルの槍も、中心を持てば左右1、5メートルのこん棒に変わってしまう。


その程度の長さなら小回りが効き。


前後左右に頭上から足元に至るまでのあらゆる角度から攻撃が迫って来る。


むしろ2メートル級の長さを持つ魔剣のほうが取り回しに手こずるほどだった。


これが北条の実力か…。


近接戦闘に関しては間違いなく強敵だと思う。


遠距離攻撃であれば沙織に軍配が上がるが、

近距離攻撃であれば北条が圧倒的に有利だ。


中距離を中心として前衛も後衛もこなせる翔子も十分に強いと思ったが、

二人に比べれば確かに劣る実力だろう。


だからこその2位と3位だ。


北条と沙織の実力を改めて再認識したところで、

会場内の状況に少しだけ変化が起きる。


翔子と沙織の二人が試合場に接近してきたからだ。


こちらに向かって駆け寄る足音が聞こえてくる。


「総魔っ!」


「天城君!北条君!」


翔子と沙織が試合場を包む結界ギリギリにまで近づいてきた。


二人とも黒柳から解放されたようだな。


肝心の黒柳の姿は見当たらないが、

どこか離れた場所から観察しているのだろう。


本当に試合に興味を持っているかどうかはわからないが、

西園寺が残っている以上は責任者である黒柳が先に撤退するとは思えない。


推測でしかないが、おそらくどこか離れた場所からこちらの様子を眺めているのだろう。


とはいえ。


どこにいるかわからない人物を探すよりももっと重要な問題がある。


今は北条を倒すことが最優先だ。


駆け寄って来た翔子達の姿を視界の隅で確認しながらも、

今は油断する事なく防御に徹し続ける。


心配そうにこちらを見つめる翔子や真剣な表情で試合を見守る沙織に問いかけてみれば答えはわかるかもしれないが、

目の前の北条を無視して話しかけられるような余裕はないからな。


今はとめどなく続く北条の攻撃を受け止めながら、自分自身で考えるしかない。


北条の能力は何だ?


この状況で考えられる可能性は何だ?


自問自答しながら北条の能力を探ってみる。


攻撃に関する能力ではないと思う。


その可能性は既に何度も考えたが、

どんな手段であっても霧を突き抜ける理由にはならないからだ。


だとすれば防御に関する能力だろうか?


それも何かが違う気がする。


具体的な理由があるわけではないものの。


北条は間違いなく俺の攻撃を警戒しているからだ。


霧と魔剣を最大限に警戒しているように思える。


その行動を見る限り、防御能力を高めているようにも見えない。


だとすれば…。


考えられる可能性は限られてくるだろう。


これまでの攻防の流れを考える限り、

北条の能力の中で明らかに突出している才能があるように思える。


それが答えなのだろうか?


確かめてみる必要はあるかもしれない。


5分に及ぶ攻防のおかげで、ようやく一つの仮説にたどり着くことができた。


北条真哉の能力。


それは『強行突破』ではないだろうか?


全力で突き進むことによって相手の魔術を突き抜ける能力とでも表現するべきかもしれない。


他にも考えられる可能性は幾つもあるが、

北条の行動を見る限り突撃そのものが北条の能力に思えてしまう。


ルーンの能力が属性であるとは限らないだろう。


特殊な能力は幾つでも考えられるはずだ。


現段階ではまだ仮説だが…。


その仮説を実証する為に、

吸収した魔力を変換して天使の翼を展開してみることにする。


「エンジェル・ウイング」


きらめく一対の翼。


その翼を見た瞬間に、北条が後方へと身を引いた。


「ついに出しやがったか」


翼の攻撃を警戒して警戒する北条が動きを止めている間に魔術の準備を整えていく。


すでに一度構築した魔術だ。


発動に5分も必要ない。


北条が動きを止めたことで生まれたわずかな沈黙。


ただそれだけで準備は終わる。


翼の発動から僅か10秒で魔術の圧縮が完成した。


「受けてみろ、アルテマ!!」


翔子に放ったアルテマと全く同じ構成だ。


沙織に放ったアルテマに比べれば半分程度の破壊力しかないが、

それでも即席の魔術としては十分すぎるほどの威力があるだろう。


北条の攻撃を大きく上回る究極の破壊魔術が発動したことで、

試合場が一瞬にして崩壊していく。


威力は十分のはずだ。


だがもしも推測が正しければ…。


北条はアルテマさえも突き抜けてくるだろう。


そんなふうに考えた直後に…


「うおおおおおおおおおおっ!!!!!」


粉塵が巻き上がる中心部から多少手傷を負ったという程度の北条が槍を構えたままで突進してきた。


「大した威力じゃねえか!!これ程の威力を喰らったのは久々だぜっ」


笑顔を浮かべてはいるが北条の目は真剣そのものだ。


一瞬で間合いを詰めて飛び込んで来た北条は警戒していたアルテマさえも突き抜けられたことで自信に満ちた笑みを浮かべている。


やはり、通じなかったか。


即席とは言え最強の魔術でさえも北条に影響を与えられなかった。


予想していた状況ではあるものの。


北条の強さは見事としか言いようがない。


だがこれで確定したと言えるだろう。


俺の予想通り。


北条は特別な力など使わずに強引にアルテマを突き抜けてきたからだ。


これで推測が確信へと変わった。


すでに北条の能力は読みきった。


一瞬で間合いを詰める瞬発力とどんな魔術も突き抜ける突破力。


そして試合場を崩壊させる程の破壊力を生み出すための原動力。


それらの示す答えは『一つ』


真哉の能力は純粋なる速度だ。


他を凌駕する速さこそが北条の特性だろう。


圧倒的な速度から放たれる一撃が本来の破壊力を増加させているように思える。


どんな魔術も突き抜ける『速さ』こそが北条の力の秘密だと判断することにした。


まだ確定ではないがもしも推測通りだとすれば北条はもはやここまでだ。


俺の予測が正しければ、この試合に勝つ事は容易だからな。


もはや警戒する必要はないだろう。


ただ耐え凌げばいい。


北条の能力に気付いたことで、その後も持久戦で粘り続けることにした。


霧を生み出して徐々に北条を弱らせながら魔剣の力で槍を封じる。


その作業を淡々と繰り返すだけだ。


何度も突撃して来る北条の攻撃を防戦して凌ぎ続けて、

北条が動きを止めるたびに奪った魔力を変換してアルテマを発動する。


そんな持久戦をひたすら繰り返すだけで、

北条の体力は確実に削られていくことになる。


当然、その地道な努力によって互いの『魔力の差』は徐々に逆転していく。


俺はほぼ無傷の状態で魔力を節約して防戦を行っているだけだ。


対する北条はアルテマに飲まれて着々と体力を奪われながらも攻撃の度に魔力を浪費していく。


対照的な攻防だな。


疲労を蓄積していく北条は徐々に追い詰められていくことになる。


もう少しで結果が出るだろう。


まもなく魔力の差が逆転するからな。


俺にとっては予想通りであり、

北条にとってはやっかいな状況となりつつあるはずだ。


だが、北条もただただ突撃するだけの男ではないようだ。


防御に徹する俺を見て、北条も『とある事実』に気付いたようだった。


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