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THE WORLD  作者: SEASONS
4月5日
137/4820

魔力が歪む感覚

《サイド:天城総魔》


ようやく実験の準備が整った事ようだな。


西園寺が自ら審判役として試合場の端に立った。


「もう一度言っておくけれど、試合の合図は私が出すわ。そして実験は20秒間だけ行わせてもらう予定よ。そのあと職員は撤収するけど、試合は一応、私が最後まで見届けてあげるわね」


実験の結果に関わらず、

西園寺は最後まで試合を観戦するつもりらしい。


一通りの説明をしたあとで、西園寺が左手を高く掲げた。


「さあ、準備はいいかしら?」


最終確認を行う西園寺だが、もちろん異論などない。


むしろ待たされすぎて気が抜けかけているくらいだからな。


「いつでもいい」


「おう!さっさと始めようぜ!」


「わかったわ。それじゃあ、試合開始を宣言するわよ」


最後にもう一度だけ俺の様子を確認した西園寺が振り上げていた左手を勢いよく振り下ろす。


「試合、始めっ!!」


試合開始の合図と同時に、未完成の結界が試合場を包み込んだ。


形状はほぼ同じだが、普段の結界とは色彩が少し違うように思える。


透明ではなく、薄い白色の結界だからな。


これは研究所で見た結界と同種のものだろう。


少し濁ったガラスとでも表現すべき色だ。


「これが新型か?見た目がちょっと変わっただけだろ?」


北条も似たような感想らしい。


軽く笑いながらルーンを握り締める北条だが、

今ここで重要なのは結界ではない。


その手に握られている長身の槍だ。


長さは軽く3メートルを越えるだろう。


先端の刃だけでも40センチほどはある。


そして槍の先端の左右両側には斧としても使えそうなほど切れ味の良さそうな鋭い刃が光を放ってきらめいている。


先端の直線の刃とは別に、反り返るような幅広い刃が組み合わされている三つ又の刃だ。


分類するならハルバードとでも呼ぶべきだろうか?


突き刺す事はもちろん、切り裂く事も可能な槍だ。


魔力で作られた北条の槍は、薄い緑色の光を放っているように見える。


「さて、一応紹介しておくぜ。この槍の名前はラングリッサーだ。その能力は…まあ、自分で確かめな!」


槍の名前だけを宣言してから、北条が一気に飛び出してきた。


実験の予定では結界は20秒しか作用しないからな。


北条は20秒間を全力で戦うつもりでいるのだろう。


「はっはー!!!!行くぜっ!!!」


全力で試合場を駆け抜ける北条に対して、

俺は即座に霧の結界を発動させることにする。


「ホワイト・アウト」


右手に魔剣を構えながら霧の結界で身を守る。


「無理に進めば霧に飲み込まれるだけだ」


突撃は無謀だと宣言したのだが。


「はっ!んなこと知るか!無理やり突き抜けるに決まってんだろっ!!」


北条は迷う事なく攻め込んでくる。


「うおおおおおおおおおっ!!!!!!!」


気合いの叫び声と共に、

槍を構えたままの北条が霧の内部へと飛び込んできた。


「この程度で俺を止められると思うなよっ!」


北条の動きは止まらない。


霧の影響を受けて魔力を奪われているはずなのに。


北条の動きが止まることはなかった。


「ちっ!」


突撃をやめない北条を見て、舌打ちをしながら後退する。


立ち止まっていたら槍の射程に入ってしまうからだ。


「まさか正面から飛び込んでくるとはな」


「当然だろ?こそこそするのは趣味じゃねえんだ」


そういう問題ではないと思うのだが…。


北条に霧は通用しないようだ。


魔力を奪っている実感はあるものの。


それでも北条は足を止めようとはしなかったからな。


「ぶっ飛ばす!!」


霧の内部を突き抜けてきた北条が握り締めている槍を豪快に振り回した瞬間に。


絶大な破壊力が爆音と共に生み出された。


「おらあああああああっ!!!!!!」


気合の雄叫びが響き渡り。


叩きつけられた槍が試合場の一部を粉砕した直後。


聴覚が麻痺するほどの轟音が鳴り響いて。


破壊の嵐が吹き荒れた。


「くっ!?」


とんでもない破壊力だ。


瞬間的な破壊力は沙織を上回るだろう。


たった一撃。


その一撃だけで試合場が半壊し。


粉砕された瓦礫が全方位に吹き飛んでいった。


「馬鹿げた力技だなっ」


「はっはー!!それが俺の取り柄だからな!」


一撃で試合場を粉砕した北条の破壊力は翔子の全力の一撃にも匹敵するだろう。


範囲攻撃ではないために回避は難しくないものの。


一撃必倒という意味では沙織の魔術よりも危険かも知れない。


総合的な破壊力は沙織に負けるとしても、

力と速さが格段に上だからな。


瞬間的な破壊力は文字通りの必殺。


接近戦では分が悪いのはすぐに分かった。


そして。


今の一撃だけで霧の結界は完全に吹き飛ばされてしまっている。


霧の能力よりも北条真哉の破壊力が上回っているのは間違いないだろう。


さらに。


衝撃の余波を受けただけで、俺も後方へと押し出されてしまっていた。


一撃の破壊力も危険だが、それ以上に危険な能力を持っているようだ。


北条の一撃を受けたことで、ルーンの能力の一部が感じ取れた気がする。


はっきりとした答えはまだ見いだせないが、

霧を突破出来るほどの実力があるのは間違いないだろう。


その事実は認めるものの。


それだけではない気もする。


もっと別の能力があの槍にはあるはずだ。


単なる破壊の武器ではない別の力が何なのか?


その能力を判断する為に今度はこちらから動き出すことにした。


「その槍の力を見せてもらおうか」


吹き飛ばされた地点で体勢と整えてから、

前方の北条に向かって一気に駆けだす。


「へっ!そうこなくっちゃ面白くねえぜ!」


全力で切り上げる魔剣と振り下ろす槍の刃が激突した。


『ガキィィン!!!』と鋭い金属音が試合場に鳴り響き。


互いのルーンの優劣が明らかになってしまう。


「くっ!?」


わずかに押し負けたようだ。


振り上げるよりも振り下ろす方が力が込めやすいのは間違いない。


だが、そんな技術に関係なく。


北条の腕力が俺を押さえ込もうとしていた。


「体を鍛えているのは一目で分かったが、まさかここまで差があるとはな…っ」


「ははっ!!翔子には馬鹿にされるが、伊達に体を鍛えてるわけじゃねえんだぜ!戦闘は体力勝負だ!いくら魔術の実力があってもそれだけで戦闘に勝てるわけじゃねえからなっ」


「確かに…そうだな」


北条の言葉はもっともだ。


戦いである以上。


魔術よりも戦闘技術が重要になる。


「なるほど、な。これが学園2位の実力か」


「俺の上はもっと強えぜ!!」


「それは、楽しみだ」


現状でも北条に押し負けているからな。


その北条よりも強い相手がいるのなら、戦う価値は十分にあると思う。


だからこそ。


「この試合を終わらせて、次の試合へと進ませてもらう」


「はっ!そんな台詞は俺を倒せたあとに言うんだな」


互いに切り結んだ状態で北条がさらに力を込めてきた。


くっ!!


北条の攻撃を弾くことができない。


それどころか受け流す余裕さえない。


思っていた以上の力だからだ。


ラングリッサーに込められている魔力の一部を奪う事は出来ているのだが。


北条自身の腕力に負けて徐々に追い込まれてしまっている状況だ。


単純な力では分が悪すぎる。


北条の持つ能力の分析が間に合わなければこの試合に勝ち目はないだろう。


それだけは直感で理解できたのだが、その瞬間に異変が起きた。


(なんだっ!?)


言葉では表現できない違和感を感じた。


いや…。


何が起きたのかを知覚できないというべきだろうか?


突然、思考能力がかき乱されるような気持ち悪さに襲われてしまい。


全身の魔力が歪むような感覚を感じることになったからだ。


(これが、北条の、力なのか…っ!?)


まだ把握できていない北条の能力が発動したのかと考えて即座に北条に視線を向けたのだが…。


見上げた視線の先では北条も同様の苦痛を感じているかのような苦悶の表情を浮かべていた。


「ちぃっ!!これはっ、どういう事だ…っ!?」


北条も動揺しているのが分かる。


北条からすれば、この状況は俺の仕業だと考えているのかもしれないな。


だが、その考えは間違っている。


俺も同様の影響を受けているからだ。


言葉にできない苦痛。


その違和感に襲われたのは数秒間だけだったが、

一瞬の隙をつくことで北条から離れて距離をとることはできた。


運が良かったと思うべきだろうか?


いや、余計な邪魔が入ったと思うべきか。


どうやら今の現象は北条の能力ではないようだからな。


だとすれば考えられる理由は一つしかないか。


即座に西園寺へと視線を向けてみると、

俺の視線に気付いた西園寺が慌てて俺から視線を逸らしていた。


「こ、これは…じ、実験、失敗…。という事、かしら…ね?」


はっきりと分かる明らかな動揺だ。


やはり西園寺は何かを行っていたようだな。


その確信は得られたものの。


西園寺の行動にばかり気を取られていられる状況ではないな。


20秒が経過したことで撤収する研究員達に目もくれずに、

北条がこちらへと駆け出して距離を詰めてきたからだ。


「これがお前の新しい力かっ!?」


何も知らない北条は敵意を見せながら突進して来る。


その勢いのせいで話をする余地はなさそうだ。


俺の言い分を聞いてくれそうにないからな。


問答無用で攻撃を仕掛ける北条の攻撃を受け止めるために魔剣を構え直したのだが、

北条の勢いに押されて再び後方へと弾き飛ばされてしまう。


「くっ…」


今回は上手く防げたが手がしびれるような感覚が残ってしまっている。


やはり力の差だけはどうしようもないか。


北条の力は油断できないな。


西園寺が何の実験が行われたのかも不明のままだが、

北条の能力もまだ分かっていない。


どちらから優先するべきか?


その答えは考えるまでもないだろう。


魔剣を構え直しから再び北条に向き直る。


そして即座に霧の結界を展開し直してから北条の接近に備えた。


まずは北条を制するしかないからだ。


当初の予定通り。


持久戦に持ち込むつもりで防御に徹することにする。


「ここからが本番だ」


「はっ!その程度の結界で俺を止められると思うなよ!」


一度突き抜けたことで自信を持っているのだろう。


北条は勢いよく飛び出して、再び霧の内部へと突入してきた。


ちっ!


霧では止められないか。


北条の魔力が多いために、全てを奪い取るのに時間がかかってしまっているようだ。


もちろん霧の内部でも行動できる何らかの能力があるはずだが、

それ以上に北条の意志の強さが上回っているのかもしれない。


魔力を奪われた程度では退かないからな。


その度胸はさすがとしかいいようがない。


やはり北条は強敵だな。


すでに謎の違和感はなくなっているのだが、念のために周囲を確認してみる。


ほとんどの職員達も立ち去っている状況だ。


残っているのは機材を片付けている数名の職員と審判を務める西園寺だけだろうか。


実験に関しては後回しにするしかないようだ。


まずは目の前の問題を解決するべきだろう。


余計なことには気を向けずに、

目の前の北条に全力で攻め込むことにする。


「はぁぁぁっ!!!」


「うおおおおおおおおおおっ!!!!」


接近戦で互いのルーンを激突させながら幾度と無く繰り返す攻撃。


その度に金属音が試合場に響き渡る。


さすがに接近戦では大規模魔術を放つ余裕がない。


北条の攻撃を裁くだけで精一杯だからだ。


予想はしていたが、

やはり北条の戦闘能力はずば抜けている。


すでにかなりの魔力を奪っているはずなのに、

全く動きが鈍る様子が見られないからな。


このままではまずいと思う。


力づくで押し切られてしまうかもしれないからだ。


「おらおらおらおらああああああっ!!!!」


くっ!


上下左右から襲ってくる全ての攻撃を必死に受け止めつつ。


北条の能力の分析を急ぐことに集中する。


北条の能力はなんだ?


破壊力に関わる能力ではないように思える。


北条の攻撃は特殊な能力ではなくて単純な腕力だからだ。


もちろん魔術という力があってこその破壊力なのは間違いないが、

北条の攻撃は魔術に腕力を加算する形で発動しているようだからな。


特殊な能力で破壊力を上げているわけではないだろう。


それに。


北条は魔力を吸収する霧の内部に正面から飛び込んで来ている。


単純な攻撃特化ではないのは間違いない。


だとすれば北条はどんな能力を持っているのだろうか?


魔術に対する耐性があるのか?


可能性は高いが、何かが違う気がする。


北条は間違いなく魔力を奪われているはずだ。


その証拠に俺の魔力は少しずつだが増えてきている。


それなのに北条は霧の内部で行動し続けている。


これは単に効果が薄いという話ではないだろう。


間違いなく影響はしているのだが、

想定しているほどの効果が起きていないというべきだろうか?


現状、北条を観察しているだけでは分からない。


だが防御に徹することで、北条も焦りを感じ始めているようだった。


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[気になる点] こいつらはそんなに主人公と敵対したいのか?ツッコミどころしかない小説だな
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