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THE WORLD  作者: SEASONS
4月5日
132/4820

不自然な状況

男子寮を離れてから1時間ほどが過ぎただろうか。


翔子と沙織と共に向かった食堂で、すでに朝食は終えている。


現在、俺達は通い慣れた検定会場に向かって歩いている途中だ。


3人での食事ということもあって思っていたより時間がかかってしまったが、

そのおかげでさらに魔力が回復しているのは間違いない。


今なら7割弱というところか。


まだまだ万全とは言い難いが、

完全に魔力が回復するまで待っていたら午後になってしまうだろうな。


それまで体を休めて万全な状態で試合に挑んでもいいとは思うが、

先行している北条はすでに会場で待っているはずだ。


あまり待たせるわけにはいかないだろう。


足りない魔力は試合中に吸収して補えばいい。


上手く立ち回れば何とかなるはずだ。


「もうすぐ会場に着くな」


すでに会場は見えている。


あと2、3分程度で入口に到着するだろう。


「北条君はすでにいるんでしょうか?」


沙織が北条の姿を探しているが、

見える範囲にはいないようだ。


おそらく会場の中で待っているのだろう。


「どうか知らないけど、あのバカと総魔でしょ?どう考えても総魔の勝利で確定よね~」


そうだろうか?


俺としては余裕を見せられるような相手だとは思わないのだが、

翔子としては俺の勝利を疑っていないようだ。


本気で俺を信じているのだろうか。


翔子の笑顔に不安は感じられない。


その気持ちはありがたいと思うが、

実際に始めてみなければ結果は出ないからな。


確実に勝てると思うのはまだ早いだろう。


「結果が出るまで油断するつもりはない」


「ん~。まあ、そのほうが総魔らしいかな~」


俺らしい、か。


どうだろうな?


自分では分からないが、翔子は楽しそうに笑っている。


そんな翔子の隣を歩く沙織も笑顔を見せているように思える。


沙織も俺の勝利を確信しているのだろうか?


表情からは読み取れないものの。


翔子の発言を否定しないということは同意見と言うことだろうか?


沙織の考えはまだよく分からない。


ただ、時折向ける視線が俺の言動を観察しているような気がする。


本人は俺の調査から外れたと言っていたが、

それでも観察そのものを止めたわけではないようだ。


俺の行動を観察して自分なりに何かを判断しているのが分かる。


だが、だからと言ってその行為に文句を言うつもりはない。


それはそれで構わないと思う。


今更、監視をとがめる必要はないだろう。


翔子がいる時点で結果は同じだからな。


好きにすればいいと思うだけだ。


「まあ、結果はすぐに分かるとして、とりあえず会場に入ろ~」


会場に到着したことで真っ先に入口に歩み寄る翔子だったが…。


「ん?あれ?」


何故か昨日とは雰囲気が変わっているようだ。


受付には何故か『立入禁止』の札が張られていたからな。


「立入禁止、か。」


「なんだろ、これ~?昨日はなかったわよね?」


「ええ、そうね。特に何も聞いてないし、今までこんなことはなかったわよね…。」


どうやら翔子も沙織も理由を知らないらしい。


だとしたら直接確かめるしかないだろう。


「行ってみればわかることだ」


「それはそうだけど、そもそも入っていいの?立入禁止なのよ?」


まあ、そうだが。


「受付で事情を聞くだけなら問題はないだろう」


「そうかな~?そもそも入っちゃダメな気がするんだけどね~」


「その理由を聞くだけだ。まあ、考えられる可能性は幾つかあるからな。会場に入る程度で文句を言われることはないだろう」


「ホントに?」


ああ。


可能性だけなら幾つもある。


翔子は気にしていないようだが、俺は昨日この会場で3度暴れているからな。


翔子と和泉由香里と沙織との試合でだ。


それぞれの試合においてアルテマを使用して各試合場を壊滅させている。


当然それらの復旧作業は行われていると思うが、

一晩で解決できるような被害ではないだろうからな。


修理や補修のために一時的に会場が封鎖されていると考えるのは自然な流れだと思う。


他にも残りの試合場を補強して強度を高めているという可能性もあるだろう。


もちろん、それ以外の可能性もあるかもしれないが、可能性だけならいくつもあるからな。


その確認を取るために会場に入るくらいで校則に反するということはないはずだ。


「中に入るぞ」


事実確認を行うために翔子達と共に会場内へと歩みを進めてみると、

受付で話を聞くよりも先に見覚えのある男が歩み寄ってきた。


「久し振りだな。天城総魔君」


ああ、そうだな。


会場の入り口で挨拶をしてきたのは以前一度だけ会った事がある人物だ。


何故、ここにいるのか?


その理由は分からないが、男の名前は知っている。


ルーン研究所の所長である黒柳大悟くろやなぎだいごだ。


「今日は研究所にいなくていいのか?」


なぜここにいるのかを問いかけてみたところ。


「ああ、まあな。色々と思うことがあるだろうから先に言っておこう。今日は君が試合を行うと聞いて観戦に来たんだ。あれから君がどのような成長をしたのか密かに興味があったからな」


黒柳は堂々とした態度でここへ来た目的を話してくれた。


観戦か。


嘘か本当かは分からないが、俺の試合を見に来たらしい。


だとすれば目的はあれか?


「俺のルーンを確認にきたということか?」


「まあ、そういうことだ」


………。


黒柳は即座に認めたが、本当にそうだろうか?


ただそれだけの理由で研究所の所長が姿を見せるとは思えないからだ。


単なる調査なら職員を派遣すれば済む話だ。


所長自ら出てくる必要はないだろう。


そう思うからこそ、他に何か理由があるような気がするのだが、

現状では判断材料が少なすぎるために推測のしようがない。


もう少し情報を引き出すべきだろうか?


色々と疑問が尽きないが、

俺が問いかけるよりも先に黒柳が右手を差し出してくる。


「君の噂は報告として聞いているが、まだ実際の試合を見たことはないからな。北条君との試合をしっかりと見届けさせてもらうつもりだ。思う存分、頑張って戦ってほしい」


あくまでも観戦が目的だと言い張るつもりでいるようだ。


笑顔で右手を差し出してくる黒柳の行動には疑問を感じるが、

ひとまず黒柳の手を握り返しながら順番に問い掛けてみることにした。


「試合を観戦するのは勝手だが、この状況はどういう事だ?」


黒柳がどうこう以前に、もっとも強く感じる疑問が解決していないからな。


なぜ会場が封鎖されているのか?という理由を聞いてみたところ。


俺の質問の意味を察してくれたのか、

黒柳は笑顔を浮かべたままで答え始めた。


「ああ、そこはあまり気にしなくていい。ちょっとした安全策だ。学園でも屈指の実力を持つ君達の試合となれば何が起きるか分からないからな。安全面を考慮して試合が終わるまでの間だけ生徒と係員の全てを立入禁止にしただけだ」


安全面を考慮して?


本当にそうなのだろうか?


それだけの理由で会場を封鎖する必要があるだろうか?


少なくとも昨日の試合においてこのような措置はなかったはずだ。


なのになぜ。


今日になって、ここまで大掛かりな対策をとったのだろうか?


新たな疑問が増えるばかりだが、

俺と同じ疑問を翔子と沙織も感じているように見える。


いつもと違う雰囲気を感じて戸惑っているようだからな。


二人も詳しい事情は知らないのだろう。


翔子はともかく。


沙織なら何か知っているのではないかと思ったのだが、

困惑する様子から察するに何も知らないように思える。


だとすれば沙織に聞いても無駄だろうな。


黒柳は何を企んでいるのだろうか?


どう考えても不自然としか思えない。


この状況は明らかに異常だ。


だが、黒柳に追求しても答えは返って来ないだろう。


聞くだけ時間の無駄に終わる気がする。


今は大人しく黒柳の話に付き合うしかないのかもしれないな。


「それで?俺はどうすればいい?」


「ん?どうと聞かれても俺が指図することではないからな。北条君ならすでに試合場で君を待っているから。試合の準備が整い次第、君も試合場に向かうといい」


………。


北条はすでに試合場で待っているようだが、

笑顔で俺を見送ろうとする黒柳に説明を求められるような雰囲気は感じられない。


これ以上、話をしても意味はないようだな。


大人しく試合場に向かうしかないか。


黒柳の横を通り過ぎて歩き出すことにする。


その俺の後方で翔子と沙織も歩きだそうとしていたのだが…。


「申し訳ないが君達はここで待機だ」


二人の行動は黒柳によって遮られてしまったようだ。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 話し合い云々言ってるけど理事長たちの方から敵対しにいってるやんけ。行動と言動が矛盾してるな
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