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THE WORLD  作者: SEASONS
4月4日
123/4820

格安定食

《サイド:美袋翔子》


うんうん♪


総魔と二人で食べる『夕食』


この時間は貴重よね~。


実際にどうかは分からないけど、

ちょっとは仲良くなれてる気がするからよ。


ただ、ね。


肝心の夕食なんだけど。


総魔の手元にあるのは毎度お馴染みの格安定食よ。


内容は日替わりだから毎回同じ食材というわけじゃないんだけど…。


私からすれば『それでいいの?』って思っちゃうわ。


だってさぁ。


ものすごく大きな食堂だけあって選択肢は結構広いのよ?


軽く300種類くらいはあるんじゃないかな。


季節によっても変わるから全部で何種類あるのかは私も知らないけどね。


だけどそれくらい幅広い選択肢があるんだから他の料理も頼めばいいのにって思うんだけど、

総魔は一貫して格安定食を選んでるのよね~。


それが良いかどうかは別として、ある意味、分かりやすい食生活だと思うわ。


…って言っても。


もちろん私は菓子パンじゃないわよ?


夕食はちゃんとした食事を選んでるわ。


今日は熱々のグラタン(大盛)と向き合って、

スプーン片手に幸せ一杯な感じ。


まあ、大盛って言っても山盛りっていう意味じゃないけどね。


大きめの器っていう程度で、

総魔が食べてもお腹一杯になるかどうか疑問なくらいの量だとは思うわ。


だからかな?


「それで足りるのか?」


総魔が私に尋ねてくるけれど、

それこそ私が総魔に問いかけたい言葉なのよね~。


だけどその前に。


笑顔を浮かべたまま大きく頷いてみる。


「じゅうぶんっ♪お腹一杯になるわ♪」


グラタンにスプーンを刺す瞬間は間違いなく至福のひと時なのよ。


味も美味しいし。


体も温まるし。


文句なしよ。


だからそれよりもね。


私としては総魔の定食にこそ疑問を感じるわ。


『格安定食』という名前の『在庫処理詰め合わせ』って感じなのよ?


見た目は悪くないけれど、

物足りない感じがするのは明らかにこっちのはずなのよね。


そう思っちゃったから、

総魔に視線を向けて尋ねてみることにしたわ。


「ねえねえ、いつもこの定食を食べてない?」


まあ、いつもって言えるほど一緒に食事をした事はないんだけどね。


それでも知ってる範囲内で考えてみると、

間違いなく毎回この定食を食べてる気がするのよ。


だから聞いてみたんだけど。


私の疑問を肯定するかのように総魔が頷いてくれたわ。


「ああ、そうだな。大きな声で言えることではないが、あまり持ち合わせがないからな。今はこうして食べられるだけで十分だ」


ん?


…え?


お金がないの?


気になる発言を聞いてしまったことで、

もう少しだけ総魔のことを尋ねてみることにしたわ。


「お金がないって…総魔に家族とかいないの?」


普通はほら、親や家族が学費を負担してくれる事が多いのよ。


私も両親に払ってもらったしね。


入学金さえ払えば誰でも入れるこの学園の場合。


月々の寮の使用料は必要になるけど、

それ以外でいえば食事くらいにしかお金を使う事がないわ。


学園の外に出て買い物をしたり、

誰かと一緒に遊んだりすればお金を使う事はあるでしょうけど。


学園内においてはそれほど必要じゃないことは事実だと思う。


それなのに。


食事を切り詰めるほどお金がないっていうのはなんだか珍しい気がするのよね。


だから思いきって問いかけてみたんだけど。


私の質問に対して、総魔は無言で頷いてしまったわ。


うわぁ~。


もしかしなくても、聞かないほうが良かったかもしれないわね…。


これってつまり。


お父さんもお母さんもいないってことでしょ?


ふと、こみあげる疑問だけど、

これ以上余計なことを聞いちゃうわけにはいかないわよね?


まだまだ友達とも呼べない関係なのよ。


興味本位で話を聞いて総魔を困らせるわけにはいかないわ。


今はまだその辺りの話題には触れない方がよさそうに思う。


そうなるとどう話しかければいいのか悩んでしまうんだけど。


私が悩んでいる間に、今日は珍しく総魔から説明してくれたわ。


「ここへ来るまでに色々と事情があってな。正直、所持金はあまり多くない。おそらく、節約しても3ヶ月程度が限界だろう」


寮費と食費。


節約を続けて生活しても3ヶ月が限界?


…って言うことは、その先に関してはどうなるかわからないってことよね?


だとすると。


資金が尽きる前にお金を稼ぐか、

あるいは卒業するしかないっていう感じなのかな?


二者択一の選択肢よね。


その辺りの事情も総魔が頂点を目指して急ぐ理由の一つなのかもしれないわ。


まあ、一言で言うなら経済的な限界ってやつよね?


それくらいは理解できるけど…。


「…ということは、総魔が学園に居続けるためには、お金を稼がないといけないわけよね?」


「ああ、そういう事になるだろうな」


ふむふむと頷いて考えてみる。


お金を稼ぐ方法ね~。


思いつく方法は幾つかあるのよ。


「単純に仕事をしてみるとかはどう?」


「必要であればそうするが、ギリギリまでは学業を優先するつもりだ。未だに講義を受けたことのない立場で言うのもなんだが、せっかく学園にいるんだからな。学ぶことを優先しておきたい」


あ~。


うん。


まあ、それはそうよね。


学生なんだから勉強を優先するのは当然だと思うわ。


例え図書室と検定会場を往復するだけの日々を過ごしている総魔でも学生としての行動を逸脱しているわけじゃないしね。


少なくとも入学してからまだ一週間も経ってないんだから。


講義を受けたことがないっていうのも現時点ではまだそれほどおかしな行動だとは思わないわ。


あくまでも、現時点では、だけどね。


「う~ん。それなら、学園で募集してる委員会とかはどう?」


「委員会?」


「うん。例えばほら、美春みたいに保健委員になって救命医療班として活動してみるとかそういう感じ。それなら総魔もできるでしょ?」


「治癒魔術師として働くということか」


「そうそう、そういうこと。それなら魔術の練習もできるし、学園からの補助金も出るし、やって損はないと思うのよね」


「確かに悪くはないだろうな」


「でしょでしょ?もしもその気があるのなら手続きの仕方を教えてあげるわよ。って言っても私は保健委員じゃないから、どこでどういう手続きをするのかしらないけど、美春に聞けば教えてくれると思うから」


それほど仲がいいっていうわけじゃないけど、

話を聞きに行って邪険にされることはないと思うわ。


これまでの態度を考えれば、

色々と不満を言いながらもちゃんと教えてくれる気がするのよね~。


「どうする?やってみる?」


「そうだな。考えてみてもいいが、今はまだいい。今すぐに資金に困るということはないからな。少なくとも明日の試合が終わるまでは余計な問題を抱え込みたくない」


ん?


明日?


あ~そっか。


それもそうよね。


明日は真哉との試合があるんだっけ?


すでに敗北が考えられないくらい総魔の実力は信用してるけど。


だからこそ。


その次に行われる試合に対しての不安は感じちゃうわね。


もしも真哉が倒れたら、次は…。


いよいよ『彼』が総魔の前に立ちはだかることになるからよ。


だとしたらまあ。


確かに今は余計な仕事を抱えていられるような状況じゃないわね。


総魔が目的としている学園の頂点はすでに手の届くところにあるんだから。


あと2回。


たった2回だけ試合に勝てば総魔の目的は達成されるのよ。


そうなれば、そもそも学園に留まる理由はないわよね?


総魔の実力なら卒業も実現可能だと思う。


無理に仕事を抱えて学園に残る必要がないのよね~。


つまり、お金を稼ぐ方法を考える必要はない、ってことで。


総魔の態度を見ればそう考えているのは一目瞭然だったわ。


「とりあえず、お金のことは心配してないのね?」


「ああ、今のところはな。特に気にしてない」


「じゃあ、いっか」


考える必要のないことであれこれと相談する意味はないし。


今はただ、総魔が目的を達成できるように協力すればいいと思うからよ。


とりあえずそんなふうに思えるようになったことで食事を再開してみる。


「ん~、美味しい♪」


少し時間が経っても熱々だったグラタンはまだまだ冷めないわ。


むしろ食べやすくなって丁度いいくらいになってるかも。


「幸せ~」


美味しいご飯が食べれることが一番の幸せだと思うのはみんな一緒よね?


「総魔も美味しい?」


「ああ、悪くない」


美味しいかどうかはわかりにくい返事だったけど、

一応不味くはないみたい。


もくもくと食事を続ける総魔を横目で見つつ。


私は私で幸せ一杯の笑顔でグラタンを食べ続けてる。


う~ん。


これって周囲の生徒達からすれば恋人同士に見えたりするのかな?


まあ、やってることはそういうことよね?


ただ一緒に食事をしているだけなんだけど、

恋人同士であればそれが普通の行動だと思うわ。


でも…ね。


ちゃんとわかってるわよ。


総魔にそんなつもりはないってね。


むしろ私がいないほうがましだとか考えているかもしれないわ。


それはそれで困るというか寂しい気がするんだけど…。


私としてもね。


そんなふうになりたいなんて考えてるわけじゃないのよ。


ただ、ね。


周りにそう思われたとしても悪くはないかな~?


なんて思える程度には総魔のことを気にしてると思うわ。


だから、かな。


そんな私達の姿を遠くから見つめてる人がいることに結局最後まで気づかなかったのよ。


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