大雑把な方角
…とまあ、色々とあったけれど。
海岸を離れて周辺の捜索を再開することになったわ。
…でもね~。
肝心の何らかの部隊がいた形跡が見つけられないことで困り果てていたりするのよね。
「結局、どうすれば良いの?」
呟く私に彩花が答えてくれる。
「足跡を残さないように移動しているようね。物的証拠もなしとなると、これは少し面倒ね」
そう言いながらも微笑み続けてる。
常に微笑みを絶やさない彩花の笑顔は、
どことなく邪悪な雰囲気を放っているように思えるわ。
…もう少し明るい雰囲気があればそうとうモテると思うんだけど。
彩花の笑顔って、なんか怖いのよね~。
そんなふうに思う私の考えに気付いているのか…
彩花が微笑みを浮かべたまま近づいてくる。
「人生は楽しく生きるべき。そうは思わない?」
…う~ん。
意味深な言葉よね?
彩花が何を思っているのか不明すぎるわ。
「ふふっ」
私の返事を聞く気がないのか、
彩花は調査を再開してしまう。
その後ろにぴったりと寄り添うあずさの背中を眺めながら、
再びため息を吐いてしまったわ。
…はぁ。
本気で疲れるわね。
まともな性格のせいで仲間達の行動や発言が理解出来ないのよ。
仲が悪いとかそういうことはないんだけどね。
それでも世間一般から外れた行動をとるみんなに囲まれていると。
何故か私のほうが間違ってるんじゃないかな?なんて疑問を感じることがあるのよ。
…絶対にそうじゃないとは思うんだけどね。
なのに。
時々、自分に自信を持てなくなる時があるのよ。
だからこういう時には余計なことを考えないようにしているわ。
とりあえずはどっちでも良いから、
やるべきことをささっと終わらせるべきなのよ。
考えても解決しない悩みを放置することにすると。
今度は未来が歩み寄ってきたわ。
「…で、その部隊が逃げた『方角』とかは分からないの?」
ん~。
方角ね~。
一応は聞いてるけど。
かなり大雑把なのよね~。
「確か…東に向かって逃げたとか、聞いたかも?」
「ふ~ん。東ね」
呟きながら東に視線を向ける未来が、
ルーンを発動させてから両手に現れた杖を地面に突き刺したわ。
【ルーン】ディープブルー
あらゆる『水』を操れるルーンを使用して、
大地の水分に干渉するつもりのようね。
「ウォーター・フル・フィールド!!」
未来が魔術を発動させた瞬間に。
ルーンが輝きを放って大地が微かに煌めいたわ。
その光は視界範囲全域を含むどころか、
遥か遠くまで影響するらしいのよね~。
有効射程距離はおよそ10キロの超広域におよぶ探査魔術なのよ。
水分の微妙な動きを感知する魔術によって、
未来は大地を踏み締めながら逃走する集団を見つけだしたようね。
「東の方角に集団で行動する部隊があるわ」
未来の言葉を聞いた瞬間に彩花達に呼び掛けてみる。
「東方向に敵部隊を感知したわ!全力で追い掛けるわよ!!」
…って?
指示を出し終えるよりも先に彩花が真っ先に走り出してた。
さらには未来も勝手に追跡を始めてる。
…ああ、もうっ!
あずさは彩花の言うことしか聞かないし。
菜々香は無言で行動してしまう。
そんな仲間達のあとを追って、
最後に走り出した私も謎の部隊の追跡を始めることになったのよ。




