同じ姿
《サイド:深海優奈》
…えっ?
…あれ?
「ミルク…?どこにいるの…?」
必死にあちこち見回してみましたが、ミルクはどこにも見当たりません。
今までいなくなるということはなかったのですが、
どこかに行ってしまったのでしょうか?
「ねえ、ミルク?」
呼びかけてみても返事がありません。
どういうことでしょうか?
これまでミルクが私から離れることはなかったと思うのですが、
どこか別の場所にいるのでしょうか?
「ミルク、どこにいるの?ねえ?」
何もわからなくて。
どうすればいいのかわからなくて。
何度も何度もミルクの名前を呼んでみました。
ですが…。
ミルクの返事はありません。
どこかに隠れているような雰囲気さえ感じられないんです。
どうして?
何もわかりません。
私はここで何が起きたのかを覚えていないからです。
私が意識を失っている間にミルクがどうしていたのか?
その事実を知らないんです。
現実から目を背けて心が壊れていた私はミルクがどうなったのかを知らないんです。
だから…
だから私はまた不安を感じてしまいました。
どこにもいないミルクの姿を必死に探そうとしたんです。
「ミルク…っ!ねえ、ミルクっ、どこにいるのっ!?」
焦りの表情を浮かべて必死に見渡す地下通路。
そして死体の転がる室内。
そのどこにもミルクはいません。
「ねえ、どこに行ったの…?」
再び泣き出す私に、御堂先輩が声をかけてくれました。
「えっと、もう一度、召喚してみたらどうかな?もしかしたら魔力が尽きて消えたのかもしれないし、呼び出せばきっとまた現れると思うよ」
あ…ああ、そうですね。
魔力が足りないと精霊は消えてしまうんですよね?
もしかしたら私が意識を失っている間にミルクは魔力が尽きてしまったのかもしれません。
もしもそうだとするともう一度召喚すればミルクは帰ってくるはずです。
そう信じてミルクを召喚してみようと思いました。
「ミルク」
私の手に現れる小さな光が徐々に形を造り始めてミルクの姿になります。
ですが…。
「違…う。違う。ミルクじゃ、ない…」
私は手の上でちょこんと座る精霊を見て涙を流してしまいました。
これは、ミルクじゃないんです。
「…違うっ。…この子は…ミルクじゃない…っ…」
再び絶望に染まる心。
手の上で静かに私を見上げる精霊を見て、絶望を感じてしまいました。
今ここにいるのは何も言わない精霊なんです。
新たに生み出した精霊は鳴き声をあげることも私に擦り寄ることもなく、
ただじっと私を見上げているだけなんです。
それはまるで『人形』のように。
他の精霊と同じように意思を持たない精霊なんです。
今ここにいるのはミルクと同じ姿をしたただの精霊です。
ただ主の指示に従うだけの普通の精霊なんです。
その変化を見た私の涙は止まらなくなりました。
「ミルク…。ねえ、ミルク…。どこにいるの…?」
ただの精霊に問い掛けてみても、精霊は何も答えません。
感情も意思も持たない精霊に答える力はないのです。
「どうして…っ!?」
「………。」
悲しむ私の様子を見て、御堂先輩は言葉をなくしていました。




