森…
ーーーーー今週の土曜日ーーーーー
「ここからどう行くんだろ」
「ん〜。バスとか?」
「…………」
俺達は今、近所のバス停にいる。城島さんがここを指定したのだ。約束の時間まであと五分を切った所で車のクラクション音が聞こえた。振り返ると、黒塗りの高級そうな車が止まっている。そして後ろのドアが開いて一人の人物が出てきた。
「あ、城島さん!」
制服の時と違い私服は可愛い。白いワンピースに黒い日傘。運転席に座っていた運転手が城島さんに日傘を差している。やっぱりお嬢様だ。
「…本当に…なんてお礼を言ったらいいのか…」
「城島さん。お礼なら事件を解決させてからにしてよ」
「そうそう!」
「……ありがとうございます」
そう言って城島さんは遠慮がちに微笑んだ。
「それで城島さん、目的の別荘地はどう移動する? バス?」
「移動はこの車で行きます。少し遠いですが、車の中は快適なので安心ですよ」
車の中は城島さんの言う通り、快適だった。
縦長の車内は真ん中にテーブル、その周りには長イスがある。
「わ〜! やっぱり凄いなぁ〜」
「凄い…ですか? よく分かりませんが…」
日和は人と仲良くなるのがうまい。城島さんは慣れてないのか、顔を赤らめているけど嫌がってはないようだ。
しばらくすると風景は木ばかりが目立つようになった。どうやら車は森の中を進んでいるらしい。
「も、森かぁ。いかにもって感じ」
「………悠心…気付いたか?」
「……あぁ」
おとなしかった伊吹が小声で話しかける。薄々と気付いてたが森に入ってから肌がピリピリしていた。でも目はまだ異変がない……ただ、ここに何かがある…。
車に揺られる事、約一時間半。ようやく車が止まった。森の中に佇む木で出来た家は不思議な雰囲気を醸し出している。
「…ようこそ、別荘へ。歓迎致します」
「………」
風が吹く…。風に乗って何か……声が聞こえるような。これは……
「…っ!」
目に異変を感じて思わず眼帯の上から左目に触れる。眼帯を外さなくても分かる……今、俺の左目は赤く染まっている。
「…悠心? …もしかして!」
「いやいや、なんでもねーよ」
ダメだ。まだ何も起きてない所で日和を怖がらせる訳にはいかない。
「どうかしました?」
「いーや、なんでも」
「そう、ですか。ではどうぞ中へ」
城島さんを先頭に別荘の中にお邪魔する。俺も中に入ろうとした時だった。
ーーーーーーーーーージャマヲ、スルナァ
憎しみが篭った声が後ろから聞こえた。
急いで振り返るけど、居るのは伊吹だけだ。
「……悠心、何かいたのか?」
「……あぁ。でも今はいない…」
この別荘……もしかしたら危険かもしれない。