伊吹からの依頼
次の日、いつもより早めに通学した俺は走って自分の教室に向かった。教室の中は既に二、三人の生徒が来ていて窓側の一番後ろの席に目的の奴が居た。本を読んでいるのか、俺に気付いてないみたいだ。
「…よぉ、伊吹」
「……何だ悠心。今日は早いな」
声を掛けると伊吹は一度、本から目線を逸らし俺を見るがそれは一瞬ですぐにまた本を読み始めた。
「…な、なぁ……その。俺が部活作ったのは知ってるか?
」
「…心霊関係の部活だろ。凪雲さんが騒いでた」
日和が騒ぐ?
まぁ、それは良いか。それより知ってるなら話しは早い。
相変わらず伊吹は本から目線をずらさない。
「じゃあ率直に言う! お前、部活入ってないだろ。なら俺の部活に入れっ」
言いたい事は言った。
後は伊吹の返事を聞くだけだ。
「……………良いが一つ、条件がある」
伊吹は読んでいた本をパタンと閉じてゆっくり席を立ち、俺の前に立つ。
「…ようするに、お前からの依頼って事で良いんだな」
「………構わない」
伊吹から依頼の内容を聞く時もそうだ。
順調過ぎて何か嫌な予感がしていた。
「えっ……伊吹君が依頼を!?」
「おぅ! しかもその依頼を解決したら一気に部員が二人増えるんだ」
「二人って……それじゃ、解決したら部活が作れるって事?」
私はイマイチよく分からない。
朝、いつものように登校するや否や、既に教室に居た悠心に廊下に連れ出されて依頼の事を聞いた。伊吹君とは幼馴染みだけどいつも何を考えているのか分からなかった。そんな伊吹君が一体何を?
「あれ……でも悠心、今二人増えるって言った? 一人は伊吹君で…もう一人は…」
そこまで言って気づいた。悠心がよく言った!みたいな顔をしているからだ。
「実は、隣のクラスの城島さんから何度か伊吹に相談してたらしい。何度か話しを聞いてる内に伊吹は心霊関係かもしれないって思ったんじゃないかな」
城島さん。
確か城島 妃さん、隣のクラスの生徒で城島財閥のお嬢様。大人しくてお淑やか。そのせいかいつも一人。そんな人がどんな依頼だろう。
「その城島さんが伊吹君に相談…か」
「そう。んで、昼休みに城島さんから話し聞く事になったから。日和も来るだろ」
「勿論!」
幽霊とかは怖いけどこれも部員の為!
それに悠心が居れば怖くない。
「…あ、そうそう。城島さんの依頼だけど本当に幽霊絡みだと思う……日和は大丈夫か?」
本当に幽霊絡み。
部活に入ると決めてから覚悟はしてたけどやっぱり怖い。でも…。
「危ない時は悠心が助けてくれるんでしょ?」
悠心はまさか自分に来るとは思ってなかったのか、ビックリしてたけどそれは一瞬だけ。すぐいつもの顔になって。
「あぁ……日和は絶対に守る!」
「……な、なら大丈夫」
苦し紛れにそう言うと悠心は無邪気に笑った。
私は今の自分の赤い顔に恥ずかしさ一杯だった。