Ⅴ-14
ヘリが飛び立って数分後、高校を駐屯地にした部隊は今までになく慌ただしく、そして夜に潜んで展開を開始した。次の段階に移行すれば努力は無駄になると分かっていたとしても、無闇に騒ぎ立てるのは軍隊として正しくない。
しかし避難民の全てに説明する時間も、納得させる気力も、それに割く人員も足りていない状況だ。当然、AFの襲撃の際に彼ら全員の命を守る人員も足りていない。
ならばせめて、邪魔をさせないように隔離する。それが部隊の選択だった。
その試みは、まだ崩れていない。慌ただしさや騒々しさは、主に校庭と校舎から離れた司令部テントを中心に発生していたからだ。そしてその中心となっているのは、『魔法権利』を持つ三峰である。
「敵はバリケードに構わず正門方面に集合しています。裏門の気配も側面の川を並走してそちらに移っているみたいです、確認を」
《こちら屋上、移動を確認。先頭の合流まで一○秒、最後尾の到達は四○秒程度と推定。……先頭が建物に到達、建物内部への侵入を確認》
AFの気配を探り、その動向を逐一口にするのが残された三峰の役目であった。
《こちら正門、目視で確認は出来ませんが、何かがいることは間違いありません。大尉、砲撃許可を。洒落たカフェに入った奴らのケツを蹴り上げる準備は整っています》
「許可する。洒落たカフェは更地に変えてやれ、店主は化け物に食われている。構わず吹き飛ばせ」
「非難してきた住民も迫撃砲の爆音で跳ね起きますよ、大尉」
《避難場所に日に二回の食事、更には目覚まし付だなんて贅沢ですね……っと》
軽いジョークとともに迫撃砲が火を噴く音が、外部と通信機を通して二重に聞こえる。それが数回続いた後、屋上の狙撃手付きの観測手と正門の鉄塔に立つ見張りから着弾報告が届き、司令部の一角もそれに応じて色めき立つ。三峰は辟易としながら、その様子を見守っていた。
雲の上の階級を持つ榊大佐が去ってから、元々初期対応で部隊が大打撃を受け壊滅――またはそれに近い状態になり散り散りになった兵隊たちの寄せ集めであった駐留部隊は、大きく二つに分かれてしまった。
一つは負傷兵を後方に送り返した寄せ集めの残りで、既に何度もAFと遭遇し仲間を失い恐ろしい道中を陸路で進んだトラウマ持ちの熟練兵たち。もう一つは送り返した負傷兵の代わりに後方から送り込まれ、AFを細身の羆程度の認識しか持たず、快適な空の旅を経て物資と共にやってきた陽気な補充兵たちだ。
前者は粛々と任務を遂行し、後者は嬉々として任務に励む。その数は半々で、三峰は前者に近い。といっても直接矢面に立つことは殆どなく、百戦錬磨の兵隊には程遠かった。だがそれでも陽気な補充兵たちに対して我慢出来ない不満が、ただ一つだけ存在した。
《こちら正門、カフェとその近辺の建物は半壊。砂煙でよく見えませんが今の所、脅威となる生物は炙り出せていません》
《火力が強すぎてバーベキューになったんじゃないですか? 周辺の掃討はヘリと太陽を待ってからで十分ですね》
彼らは、AFを舐めていた。
銃を向けただけで、人間と対峙した時のような優越感を得られると誤解しているのだ。
「まだまだ気配は残っています。最初の発射音で勘付かれ、相手は一気に散らばることで損害を最小限に抑えましたし、逆に散ったことで対処が難しくなりました。気配を一度に伝えることも、数が多く進路が多彩過ぎて有用ではなくなりました」
三峰は感じ取った現状を淡々と口にする。それを受け取った司令部の面々は役割の薄くなった迫撃砲を撤収させ、その砲撃部隊を遊撃隊として待機させる。
《こちら正門、人間がいます! 複数の、砲撃に巻き込まれたと思われる一般人が、正門に向かって歩いてきます》
《三峰兵長、お前まさか適当なことを――――》
「落ち着いてください軍曹、正門に近づく気配は間違いなくAFです。バリケードの影に隠れられる前に撃ち殺してください」
《撃ち殺してください? 相手の姿形は人間で、子供まで――……って、おい誰だ撃ったのは!》
正門の銃座から届いた戸惑いに被さるように銃声が響き、戸惑いは激昂へ変質する。しかし激昂を向けられた狙撃手は淡々と尋ね返す。
《こちら屋上、――――敵を排除。正門、何故撃たない? 一般人に見えようが軍服を着ていようが不審な点が少しでもあれば、そいつは敵の可能性がある》
《しかし少尉、相手はどう見ても――》
《そうだ、それが敵の遣り口だ。軍曹、分かったら撃て。一番危険なのは……、敵に一番近いのは、お前たちだぞ》
「軍曹、とにかく撃て。後のことは生き残ってから考えればいい」
屋上と司令部――後方から前線への叱咤激励を受けた正門に配置された部隊は、吹っ切れたのか夜の闇で蠢く全てのモノに向けて機関銃を撃ち始めた。通信は大口径の機関銃が作り出す爆音と前線を維持する兵士の絶叫を絶え間なく拾っている。
それはもう、こちらの足を引っ張るほどに。
「軍曹、銃撃をやめろ! 近くで撃ち過ぎだ! 通信機を銃座から離せ!」
「散り散りに退避したAFの気配、再びが正門前に集まっています!」
「銃撃はやめるな! おい、今すぐに正門との回線を絞れ!」
異常事態に気付いた司令部の一人が、慌てて指示を飛ばす。それを受けた隊員もまた慌てて機器の調節を行い、やっと通信機は正常に戻る。
《こちら屋上、司令部聞こえますか! 応答願います》
「こちら司令部、少尉、正門の状況はどうなっている? 簡潔に答えてくれ」
《照明がやられました。何者の仕業かは分かりませんが、その所為で下はパニックになっています。曳光弾のお蔭で弾丸の軌道は追えますが、その軌道は常軌を逸しています》
困惑と興奮を即座に飲み込み、狙撃手の少尉は冷静に分析し答える。その少尉の落ち着き様とは逆に、司令部は騒然とし始める。
照明がやられた。その一言が司令部に齎した反響は、大きかった。灯りは、闇夜で戦う人類が持つ対AFの生命線であり、これを失ったら敵の影は闇に紛れ人類を襲い、僅かな抵抗の機会すら奪われてしまうのだ。それを理解している政府は、人命より発電所や送電設備の死守を優先した。残酷ではあるが、その方が生き残る命の数が多いのだ。
司令部では、様々な憶測が飛び交う。通信機を開いたままに。
跳弾、照明機器の故障、AFの信奉者の工作、AFの攻撃……。危機が迫る中、麻痺した思考は過去を見つめたまま動かない。必死に危険な現状を説く三峰の言葉も、その憶測と愚痴に近い打開策の模索に飲まれて無惨に消えてしまう。
AFは既に、バリケードの内部に入り込んでいる。
伝えなければならないが、伝えた所で打つ手はないかもしれない。
入れ代わり立ち代わりテントに立ち寄る隊員の指示を仰ぐ声と轟音に叩き起こされた避難民の危機感のない不満を追い払う怒声を聞きながら、三峰の心中には言いようのない焦りが湧き上がっていた。
「――――兵長、少尉からです!」
喧騒を掻き分け近づいてきた二等兵が、三峰の肩を叩き伝える。彼が冷静に対応出来たのは、低い階級のおかげで不毛な議論に巻き込まれずに済んだからだ。
「少尉、三峰兵長です!」
《――――兵長、兵長か! 率直に訊くが、AFはどの程度入り込んでいる?》
「かなりいます! ……ですが、押し寄せては来ません。進攻は遅く、数が揃うのを待っているみたいです」
《……そうか、ならいい》
直接三峰を指名し緊迫した声で尋ねたにも関わらず、少尉の反応は淡泊で通信機の先で沈黙を保っている。ただ時折ずっしりと響く対物狙撃銃の銃声が、屋上組の健在を誇示していた。三峰は少尉が通信機の前にいない可能性も考慮し、居辛い司令部の備品に戻ろうと腰を上げる。だが、少尉はそれを見計らったかのように、姿の見えない三峰を呼び止める。
しかし通信機から飛び出す筈の言葉は、司令部に飛び込んだ隊員の悲鳴にも似た叫び声で掻き消される。内容は同じだったが、与えた動揺は段違いだ。
一歩距離を置いていなければ、きっと自分も同じ動揺に曝されていた。
「少尉、……AFが動き始めました」
三峰は少尉を真似て冷静な分析を行う。少尉も特に動揺せず、叫び声の背中を押した。
《そうだ。バリケード内部の防衛線も崩壊した》
すぐに化け物どもが押し寄せるぞ、と少尉の他人事のような口調に、二等兵が舌打ちをする。当然通信機が拾わない程度の音量だが、三峰にはその苛立ちがはっきりと伝わった。この二等兵が我慢できないのは、AFにしてやられてる現状か安全地帯から分析を行う少尉なのか、それは分からない。
そんな二等兵の苛立ちも露知らず、少尉は現状を少しでも好転させようと提言する。
《屋上に来い、兵長》
短く一言、クロと似た言い方だ。違うのは、その一言に補足があるかないかだ。
《今すぐ司令部を放棄して、出征組が戻るまで屋上で籠城だ。大尉にもそう伝えてくれ》
三峰サッとは司令部を見渡す。指揮に携わる者たちは皆、机やボードに噛り付き不利を覆すための方策を練っている。だが漏れる言葉は、作戦開始前と変わっていない。
人員が足らない。
AFに住民の多くを奪われた街で、孤立しているのだ。圧倒的不利な消耗戦を強いられているにも関わらず、拠点防衛に割かれた人員は一個中隊――その三割は失い、実際は八十人程度の戦力しか割り当てられていない。敵は昼夜問わずに襲い掛かってくるのだ。千人を収容出来る規模の高校を、守り切れる筈もない。
「少尉、貴様はそれでも軍人かッ!」
停滞したままのAFの気配と通信機の先の少尉の声、そして外部から聞こえる止まない銃撃。細分化された三峰の注意は、この怒声によって一本に纏め上げられた。怒声の主は大尉であり、その傍には二等兵が何とも言えない表情で控えている。驚き振り向く三峰を一瞥にし、大尉は殴りつけるように通信機に向かって罵声を浴びせる。
「屋上を籠城先に選ぶと言うことは、避難してきた住民を見捨てることになる! 屋上は避難民全てを収容することは出来ないのだぞ!」
《分かっています。それを理解した上での提案です。自衛隊時代は忘れてください》
大尉の顔は、みるみる朱に染まっていく。軍属の人間が国民を見捨てる行為は、口にするのも憚られる禁忌の一つだ。結果的にそうなった場合を除いて、軍属の人間は可能な限り国民を――国益を生み出す彼らを守り、国を守らなければならないのだ。
だが、少尉はそれを口にした。それに足る理由も添えて、毅然とした口調で。
《千人纏めて死にますか? それとも九百人を捨て百人守りますか? 自分は後者を選びます、大尉。幸い校舎内には机や椅子――バリケード造りに適した素材が溢れています。化け物が押し寄せるより早くバリケードを組み上げられたなら、入り口が多く無駄に広い外部より守り易い筈です》
少尉の提案は避難民の一部を見捨てる提案であると同時に守る提案でもあった。
坂を転がり落ちるように悪くなる戦況に頭を悩ませていた司令部の面々は散々に悩み、結局はその提案を二つ返事で受け入れた。
受け入れたのだが、同時に提案の難点も浮き彫りになる。
やはり人員が足りないのだ。
外に散って足止めをしている隊員を呼び集める人員も、校舎内の避難民を呼び集める人員も、籠城に必要な物資を運び込む人員も、遅延戦闘を行う人員も足りていなかった。
司令部には三峰を含め七人しかおらず、外で戦えている隊員に至っては知る由もないのだ。AFはまだ司令部に到達してはいない。外からは銃声も聞こえる。ならば必ず戦っている隊員は存在するのだ。
だが、それが何処にいるかは分からない。
委縮していた。厳しい訓練を経て職務に就いた兵隊たち――生存率四割を切る戦場に投げ出された兵士たちは、月明かりの闇夜に潜む化け物との遭遇を恐怖し切っていた。
三峰も、例外ではない。
『魔法権利』を手にする前から、AFと対峙した時はクロやシロといった他の権利者が近くに存在し、AFもまた三峰より彼らを狙った。常に索敵を飛ばし、数に圧倒され、一人で戦うのは初めての経験であった。
誰にでも初めてはある。戦って勝たなければ、死ぬ。寄ってくる敵を残らず『拡散』で消し飛ばせば、まだ生き残れる。
三峰は自分に言い聞かし、奮い立たせようとする。
そして、見つけてしまったのだ。
「…………敵の狙いは、自分かもしれない?」
思わず口に出した言葉が、飛び出す決意を固めた面々を再び動揺と疑惑の渦に叩き落とす。しかしこの渦は彼らを捕える渦ではなく、より安全な道を作り出すための渦となる。
三峰はこの推測の底にある索敵の詳細を、以前自分がされたように潜水艦のソナーに例えて説明する。相手の位置を知ることは、自分の位置を知らせることと同義なのだ、と。
「……なら真っ先にAFがここに来る筈だ」
「いきなり機関銃座に突っ込む歩兵はいません。恐らく相手にとっての権利者は倒さなければならない敵であり、倒すにはリスクが大きすぎる敵――そんな敵が鎮座している故、警戒して、相手の行動を深読みして、進攻が遅れているのではないかと、自分は考えています」
はっきりと自分の意見を言い切った三峰とは逆に、司令部の面々はその内容を図りかねていた。この戦況で三峰の言葉の意図を汲み取るとするならば――、それは只一つ。
「囮に……、囮になって敵を引き付ける……のか、兵長?」
顎に手を当てた大尉が自信無さ気に口に出し、即座に通信機が答える。
《それでいこう。化け物は兵長が引き付け時間を保ち、その間にバリケードを構築。最後に兵長を収容して終わり。どうでしょう、大尉?》
「仕方ないか……。少尉、それでいこう」
《兵長時計を確認しろ。現時刻○五一四、バリケードは○五三○に閉める。増援は出せないが、それまで頑張って生き残って辿り着いてくれ》
とんとん拍子で纏まっていく話を、その当事者であるにも関わらずに傍で見守る三峰からは、凍えるような恐怖は抜け去っていた。クロやシロも出来たことだ。『魔法権利』を持つ自分にも、それを成すだけの潜在能力がある筈だ。
伽藍とした司令部の机の上に腰を下ろし、三峰は気配を研ぎ澄ます。
『拡散』は強力だが、強力なだけでは足りない。
模倣ではない。自分に合った戦い方を模索し、獲得しなければならない。
だが、その瞑想は戦場にいてはならない軽い声で遮られる。
「おっ、やっぱりここだったの~。サザンちゃん、こいつもヤっちゃおうか~」
軽い声の持ち主は、少女だった。顔立ちは十代の日本人だが、色素の抜け落ちた髪は軽く波打ちと薬物中毒患者のように焦点の定まらない瞳、そこに浮かべた不気味な微笑み――まるで自身の不安定さを他人に押し付けているような少女だ。整った容姿とは真逆に思わず目を逸らしたくなる無惨に破られた衣服を身に着け、そこから覗く体は痩せこけている。
「――――、――――。――……」
その隣に並び立つ少女は、不安定さなど微塵も寄せ付けずに毅然とした態度を保っている。十代前半、僅かな胸の膨らみがなければ少年と変わらない細身の少女、笹の葉状の耳、半ズボンと外套という軽装、深紅の瞳、赤と金を混ぜ合わせた髪、光を吸収し輝く髪、圧倒的な存在感、笹の葉状の耳、手にした武器はファンタジーな細剣、こちらの動向を窺う瞳、敵を見つけた斥候の瞳、笹の葉状の耳。
笹の葉状の耳――とても分かり易い少女の特徴――遠征組の標的。
AFとは違う人類の敵対者――その可能性がある少女。理解できない言葉を口ずさむ。
「アハハ、何言ってるのか分かんないの~」
軽快に笑い飛ばす。どうやら白髪の少女にも分からないらしい。だが三峰に剣を向けている笹耳少女は、彼女の意図をしっかりと理解しているらしく、物怖じしない慣れた足取りで三峰に歩み寄る。
二人の体内からは、AFの気配は感じられない。人間だ。
けれど自分に近寄る少女は――この少女たちは、間違いなく敵だ!
三峰は咄嗟に机から飛び降り、笹耳の少女に向けて机を蹴り上げる。全力で蹴り上げられた机は、回転しながら少女に向かっていく。少女の背丈を優に超す大きさを持つ机は、三峰に選択の猶予を与えるには十分であった。
追撃か、それとも逃亡か。
だが少女は難なく机を飛び越え、三峰に剣を振り下ろす。その迷いのない剣筋を間一髪で受け止め、自らも迷いと共に『拡散』で消し去る。
「――――ッ!」
剣の半ばを『拡散』で消し去られた少女は、着地と同時に後方へ逃れようと飛ぶ。だがそれを逃すまいと三峰の手刀が、少女の細い首筋を襲う。本気で力を籠めれば、圧し折ることなど造作もない。だが、三峰はより残酷で確実な方法を選んだ。
この少女はAFと同じ――殺さなければ、殺される。
横薙ぎにした手刀――その指先は少女の首筋を掠める。しかし与えた傷は表面を削るだけの掠り傷ではなく、助かる見込みのない致命傷であった。
距離を取った少女は目を見開き自身の首筋に手を当てるが、未知の言葉を紡ぎ出していた喉の部分は、無惨にも空洞になっていた。『拡散』によって喉を散らされ、悲鳴を上げることを禁じられた少女は、せめて一矢報いようと三峰に向けて特攻を仕掛ける。
そんな少女の小さな体を、三峰は易々と蹴り払う。
『拡散』を使わなかったのは、敵とはいえ人型相手に多用するのは心苦しいからであった。だが無意識に力を抑えた三峰と違い、少女の剣筋は鈍らない。
少女の手に握られた銀色は、容赦なく三峰の両膝を裂く。
「――――何故ッ!」
三峰は目を見開き、信じられないモノを見るように相手を見つめる。三峰を斬り裂いたのは完全な形状の剣であり、それを握った少女は万全の状態である。数秒前に喉を散らされ、蹴り飛ばされた少女に違いなかった。
いや、目の前に控える少女は全く同じではなかった。
少女の目の下には一本の線――『魔法権利』発現の印が浮かび上がっていたのだ。
「――――くっ!」
地に両膝を着けた三峰は追撃にきた少女の蹴りを抱き止め、そして引き寄せ『拡散』を使う。蜃気楼のように少女の体は散らされるが、その背後からは再び同じ少女が飛び出し剣を振るう。
シュッと剣先が三峰の額を裂き、熱い痛みが脳と視界に染み渡る。その痛みを起爆剤に三峰は裂かれた両足に力を籠め少女に飛び付く。そして無駄だと分かっていながらも『拡散』を使って三人目の少女を殺す。
額から流れる鮮血で視界を真っ赤に染めた三峰は、再び現れた四人目の少女の姿を認識し、その直後蟀谷襲った鈍い衝撃に耐えきれず、抗う意思と裏腹に意識を深い闇の底へ落としていった。
朝日は遠く地平線の彼方に隠れている。
三峰を意識を引っ張り上げるモノは、何も残っていなかった。




