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進化しすぎた種族

作者: 加納啓太

 宇宙船ゆりかごは、母星と似た環境の惑星を探すための探索船だった。乗組員達はいずれも、使命を果たそうという活力にあふれていた。

 ゆりかごが宇宙空間を進んでいる時のことである。通信士が報告した。

「船長、信号をキャッチしました」

「母星からか?」

「いいえ、まさかとは思いましたが、我々の文明の物ではないようです。発信源は、すぐそこの衛星です」

「衛星から? 調べる必要があるな」

 選ばれた調査隊のメンバーが、衛星に降り立った。信号をたどっていった先は何もない砂地に見える。隊員は計器を調べた。

「信号は確かに、このあたりから出ているんですが……」

「手分けして探そう」

 しばらく捜索した後、隊員の一人が入口を発見した。

「ありました、ここです」

 巧妙に隠されていた入り口を抜けると、長い通路があり、その先には大きな機械があった。部屋の様子を確認した隊員が言った。

「他に部屋はないようです。生きものの気配もありません」

「ふむ。信号は、この機械から自動で発信されたということか……」

 機械を調べようとパネルに触れた。その途端、画面がつき、音声が流れ出した。


『皆さん、こんにちは。私たちはゲルニプル。かつてこの惑星に住んでいたものです。この音声は私たちのメッセージを、あなたたちの言葉に翻訳したものです。衛星へ誘導したのには理由があります。まず、私たちの歴史を聞いてください。

 私たちゲルニプルは、この星でもっとも進化した種族でした。ありとあらゆる高度な装置、巨大な建設物を作り、海の底のもっとも深い場所も、山の頂上のもっとも高いところも、私たちに行けない場所はありませんでした。

 しかし文明が発達する一方で、利便性を追求した私たちの生活は、自然をむしばんでいきました。大気は汚染され、海は汚れ、植物は枯れていったのです。このままでは、どんな生きものも住めない星になってしまう。この状況を打開するため、世界各地から学者が集められました。あらゆる要因をコンピューターに打ち込んで計算し、最善の策を探したのです。

 研究の末、学者たちは一つの結論に達しました。この星を救うには、ゲルニプルがいなくなるしかない、と。私たちの人口は全部で約二十七億八千万人。全員がいなくなれば、毎年その分の水、食料、空気が消費されなくなり、また工場から出る排気ガスも、家庭からの排水もなくなります。そうすれば、この問題は完全に解消されると、学者たちは計算しました。もちろん、どこか他の星を探すという案も出ました。しかし、新たな星に行っても私たちは同じ事態を引き起こすだけだと、わかったのです。学者たちの案は、最善の策でした。私たちは永遠に眠ることを決断しました。結果は、今画面に映っているとおりです。

 最後まで聞いてくださってありがとうございます。私たちの望みは、この惑星の美しさを守ることです。この星を、このままそっとしておいて欲しいのです。この星はもっともっと長い間、鳥たちがさえずり、植物の緑でおおわれた美しい惑星であることができるでしょう。どうか、地表には降りず、あなたたちの星に戻ってください。それが、私たちの最後の願いです』


 音声はそこで終わった。彼らは顔を見合わせた。

「自らを犠牲にして、星を守るとは……」

「彼らは恐ろしく高度な進化を遂げていたんですね。そんなこと、我々は思いつきもしなかった」

「しかし、星に戻ってくださいと言われても……」

「……そこが、我々の母星なんだがな」

 コンピューターの画面に映る、荒れ果てた惑星。そこは、かつてゲルニプルが住んでいた星であり、彼ら人類の故郷でもあった。ゲルニプルが守ろうとした美しい姿に戻ることはもうない。この惑星はじきに、生きものの住めない環境になるだろう。

 ゲルニプルほどには進化出来なかった人類を乗せ、宇宙船ゆりかごは旅立った。どこにあるかもわからない、人類の新たな住処を求めて。

星新一っぽい話が書きたかったんだと思います。

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