穏やかな日々を
「疲れた」
「流石のわたしにも堪えたのだ」
夏郷と破耶は無事に戻ってきた。
そして直ぐに高校関係者に謝罪をし、一ヶ月間、何処に居たのか等、あれこれ聴かれた挙げ句、家族へと無事の連絡と謝罪をして、ようやく今に至るのだった。
「当然だ」
「新田副会長!」
「わたし達以外にも屋上に来るのだな」
「馬鹿かよ。屋上は許可なしじゃ出禁だぜ?」
「じゃあ出ましょうか?」
「おれは許可を得てるから構わんよ」
「何か用なのか」
破耶が訊く。
「デートの邪魔だった?」
「まあな」
「生徒会長も変わったよ」
「え!?」
「どうだったの……別の世界は?」
新田が言った。
「何のことなのだ」
「前の生徒会長はそんなに表情が変わらなかった」
「失礼だな!」
「真面目で屋上なんか来なかった」
「副会長?」
「何より、誰かを引っ張るのが苦手だった」
「……いつから気づいていたのだ?」
「冬休み前かな」
「わたしが異世界から戻ってきた時から!?」
「まあ、夏郷が半日だけだが授業に出たのも決めてかな」
「俺のことも!?」
「それから徐々に二人が付き合ってるって噂が立って。新祝祭の頃には交際が確定した」
「すげえ観察力」
「おれも経験者だからな」
「副会長が……経験者!?」
「そう、高一の時に。あれは夏休みだったな」
「どんな世界だったんだ?」
「貧しい小さな村で、知恵を振り絞りながら村人たちが協力して生活をしていたんだけど、村長が病気になってな」
「それで、どうなったのだ!?」
「薬を買う余裕はなかったし、病院に行く余裕もなくて。他に方法といえば村にしか生えていない薬草を摘んで、お湯に刻んで飲ます位しか無かったんだが」
「問題が?」
「その薬草も村にある洞窟にしか生えてなくてな、おれが男では1番若かったから取りに行かされてよ」
「採れたのか?」
「洞窟の一番奥に生えててな、簡単に採れたから、さっさと飲ませたんだ」
「村長は助かったのか?」
「すぐに元気になったよ。おまけに娘を嫁に貰ってくれって言われてな」
「どうしたのだ?」
「実はよ。返事をする前にこっちの世界に戻ってきたから、それっきりだ」
「どう返事をするつもりだったのだ?」
「もちろん……」
副会長の答えを聞く前に、別の声が聞こえた。
「夏郷君、破耶! 生徒会のメンバーが屋上で喋ってたら示しがつかないでしょ!」
「堅いこと言うなよ」
「アンタもアンタよ! 副会長でしょ!?」
「生徒会長のほうが立場が上だろ?」
「なんだろ……」
「どうした?」
「わたしの気のせいではなければ、副会長はこの状況を楽しんでいないか?」
「毎回アンタはね!」
「俺に言わせれば千景先輩のほうが楽しんでるような気がするがな」
「細かいんだよ千景」
新田と千景が屋上を駆け回っていた。
「戻るか、破耶」
「そうだな、夏郷」
夏郷と破耶が屋上を下りた。
「千景」
「何よ?」
「おれ、お前が好きかも」
「屋上で告白かい!」
千景が新田を軽く叩いた。
「どうなんだよ?」
「……やっと……言ってくれた……」
千景が嬉し泣きをした。
「ほら、示しつかないんだろ」
「細かいこと……言うんじゃないわよ」
暫く、二人は身を寄せ合った。
※ ※ ※
「六月といえば結婚だな」
「えっ?」
夏郷が動揺する。
「考えてるのだ。たまにな」
「必ずな」
「夏休み……」
破耶が夏郷をチラ見する。
「そうだな、何処かに行くか」
夏郷は破耶を見る。
慌ただしかった日々が嘘のように平穏で穏やかな日々に変わった。
「ゆっくり高校生を満喫するか」
「満喫するのだ」
チャイムが午後の始まりを告げた。




