0、01%と99、99%
「説明は以上だ。何か質問は?」
一通りの内容は説明した彼女は俺に質問をした。当然、質問ありありだ。ルールの一部が分からない。 俺の心が読める彼女には何を疑問に思っているか分かっているだろう。わざわざ、俺に答えさせたいらしい。
『希望通り、答えてやるよ。 其の四の意味が分からない。簡単に教えろや。』
其の四、つまり、可能性がどうたらの条件だ。 説明の文だけでは、ワケが分からない。
「その質問を待っていたよ。今までにその質問をしたのは、九八名いたからね。 君もするとは思っていた。 」
彼女は嬉しそうな顔をした。 よほどその質問を聞きたかったのだろう。 だが、一つ気になる事がある。 今までに彼女に挑戦したのは九九名だ。 一名だけ、この質問の意味を最初から理解した人がいるのか?
「君は、乱数という言葉を知っているかい? 知っているはずだよ。 例えば、ジョーカー除くトランプ五十二枚があるとして、その中から適当に四枚取って確認したら戻すことを十回繰り返す時に、その十回とも、四枚のエースが出る事はあり得ると思うかい?」
『そんなもんあり得るわけない。』
俺は即答した。 確率がどれくらいかは、分からないが、そんな事は何百年もかけなくては、起こらないとんでもないほど小さな確率だ。
「ふふふっ、 それならその何百年をかけたら良いだけだよ。確率は低くとも、何千回、何万回と繰り返せば、いつかは起こり得る。逆にその五十二枚のトランプから五十一枚を取り出して確認してから戻す事を十回繰り返しても、一度もスペードのエースが出ないかもしれないよ?」
彼女の難しい回答で俺は頭の中がいっぱいになった。俺はあまり賢いやつじゃないから、理解するのには、時間がかかった。 彼女の言いたい事は、可能性が0、01%でも起こり、99、99%でも起こらない事があるという事だ。そんなものはもう奇跡の領域じゃないか。それを認めてしまったら、其の五と矛盾する。
『そんなもん認めたら、魔法で全てが行われました。と言ったら、全てが解決する。それだけの話だろ‼‼』
俺は半分ヤケになって、怒鳴った。 とりあえず、理解が出来ない。彼女は今、この瞬間も俺を嘲笑っているだろう。
「もっと簡単に説明しよう。0%と0、01%、99、99%と100%とは別の物なんだよ。さっきのトランプだって、五十二枚の中にジョーカーを引けと言われたって、確率は0だ。五十二枚全部を引いて、中にキング四枚が入っている確率は100%だ。0%を100%に変えることは出来ず、100%を0%にする事も出来ない。 それを抗ってこその奇跡だ。どう?簡単でしょ?」
俺の事を可哀想だと思ってくれたのか、もっと噛み砕いた説明をしてくれた。
なるほど、頭の悪い俺にも分かる説明だ。推理する時には、ある程度までは何でもありということだ。
「君も大分分かって来たから、そろそろ始めるよ。 舞台裏も待っている。 最後の舞台が開幕だよ。」
再び、彼女の合図と共に、俺の目の前は真っ白な光に包まれた。きっと、次に目を開ける時には、目の前には、あの十名の役者が映るだろう。 俺は光に包まれている少しの間、眠りについた。この光はとても心地が良い。
『‼ ここは? 厨房か? それにしても、 とても広い。』
「その通り、ここは厨房で、ほとんど、ミシェル一人で担当している。執事のミリーは料理が下手だからね。 この厨房はミシェルの支配下と言っても良い。」
目を覚ました俺は、この広い厨房に驚いた。 この広さで食事の用意をほぼ一人でこなしているのだ。彼女は化け物かと思った。
しばらくすると、ミシェルとミリーがやって来た。 二人とも笑っている。どうやら、世間話らしいもので盛り上がっているらしい。
目の前には俺らがいるが、彼女たちは、全く気づいていない。
『俺たちは、見えていないのか?』
「ああ、私らはこの舞台の傍観者だ。 この物語に直接関わることは出来ない。 」
その後、彼女は去って行った。後は、俺一人で、この物語を見届けろという事だ。俺はしばらくの間、彼女たちの話し声を聞いていた。