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08 理不尽な仕様

今日は我が親友を改めて紹介しようと思う。

ブサイクとは言わないが別に美形でもない、よく見るとそれなりに整ってはいるような気がするが基本的に地味な筋肉、急須の事である。

それなりに付き合って分かったが、彼は所謂モブ。ストーリーに絡みそうにないキャラである。

普通にコントローラーを持っていたらまず仲間に出来ない類のちょい役だと思う。そんな彼は普通なら親友になるはずがなかったキャラクター…ということで、ある意味レアなキャラでもあるかもしれない。

性格は基本的には温厚でヘタレ、ゴツイが人当たりが良いので小さな子供に慕われ、また礼儀はわきまえているので先輩たちには可愛がられる。

剣の腕はまだまだ、体格も発展途上。

モブキャラであるので、チートな気配は微塵もないが、将来はなかなかよいところまではいけるはずだ。

そんな急須は、紅一点で未だに重騎士クラスの中で浮いている私の世話を何くれとやいてくれる。

全くのド素人である私に剣の持ち方を教えてくれたり、ボッチになりがちな私を誘って他の人達との話に誘ってくれたり、細すぎて重騎士の防具が全く合わない私に軽騎士の装備を借りてきてくれたり…。

照れくさいので絶対口には出さぬが……本当感謝している。

また余談ではあるが、バイト先の店主である急須の兄の名前はポット、急須の父親の名はヤカン、そして母親の名前はケトルというらしい。

なんというか…。まぁいい。多分これは突っ込んだら負けだ。


***


あれから何度かお花ちゃんの下に通ったのだが、残念ながら彼女の兄に会うことはできていない。

何か条件を足りないのか…それとも本当にイベントでもなんでもなかったのか…。乙女ゲームというものの勝手がわからぬ私にはさっぱりわからない。

時々ではあるが江戸も彼女の下にかよっているらしいが、彼もまた兄とやらには会っていないそうである。

お花ちゃんには手を出すな、間違いは犯すな…と口酸っぱく言ったら、誤解なんだと半泣きになっていたが、彼にはロリコン疑惑が濃厚なので目を光らせておかねばならない。


「コラァ!ユノ!何をサボっている!さっさと打ち込んでこい!!!!」


と、そんな物思いにふけっておる場合ではない。

今は尊敬するガインス先生の授業中だったのである。

「はい!ユノ、行きますわ!」

「声が小さい!!!!」

「はい!!!ユノ、いっきまーーーーす!!!!」

近頃ようやく持てるようになった普通のソードで斬りかかるが、一閃で軽くふっとばされゴロンゴロンっと地面に転がされてしまった。

「なんだそのざまは!!!!気合いが入っとらん!!!」

「はい!!!」

「もう一回だ!!!」

「はい!!!」

起き上がり、もう一度飛びかかるが、それもまた軽くいなされゴロンゴロンである。

ご覧のとおり現在の私とガインス先生のレベルはドラゴンと生まれたてのひよこくらいに違う。

しかしそれでも、

「まぁ、少しはましになったな」

と、ガインス先生に言ってもらえる程度には上達しているのである。

「ありがとうございます!!!」

最初の頃の私はひよこどころか、ひよこに食われるミミズ程度の力しかなかったのだ。

「よし、ユノ、お前は端で素振りでもしとけ!」

「はい!!!」

「ほら、次だ!!!打ち込んでこい!お前ら!!!」

「「「はい!!!」」」

「貴様ら全員声が小さい!!!!」

「「「はい!!!!!!」」」

このクラスにおいて、私は落ちこぼれも落ちこぼれ、皆の足を引っ張りまくりである。

しかしあまりにもレベルが違いすぎるせいか、それとも女のせいか、はたまた根性だけは認められているからか今のところ遠巻きにされこそすれイジメはない。

私は他の者達がガインス先生に斬りかかっている様子を見ながら一生懸命素振りをする。

一つ振っては父の為、一つ振っては母の為、一つ振っては脳筋の為…。

単調な訓練は退屈ではあるが、その間ガインス先生をじっくり舐めるように見ることが出来るのは幸いである。

太い腕や首、野太い声、身のこなし、特大の剣を軽々と振り回す様、地面を踏みしめる大きな足、発達した僧帽筋そうぼうきんに三角筋、はちきれんばかりの大腿四頭筋だいたいしとうきんに大胸筋、美しいラインを見せる後背筋に腹直筋…。

どこ見てもガインス先生にはヨダレがでそうである。

二次元ではごく普通の女の子が巨大な重機や刀を軽々振り回したりするが…、私はそんなものにはだまされはしない。

やはりでかい武器、相当の攻撃力を誇るものを使うからにはそれ相応の肉体が必要であると私は考えている。

その点、本当にガインス先生は理想的である。

しかし!

しかしである…。

悲しいことに私には無駄な主人公補正がついているらしい。

そう、私はいくら食べても、いくら鍛えても体力こそつけどこの体型は一切変わらぬようなのである。

いつかはガインス先生のように逞しい体になるのだ…そう思っていた夢は儚く散った。

いや、まだ完全に諦める気はないのだが…ないのだが…望みは限りなく薄そうである。

こんな細く頼りない脳筋に何の意味がある?こんな私に生きる価値があるのか?私は…私は…。

「大丈夫か?ユノ」

心配して声をかけてくれる急須。

私は彼を見上げ、いっそこのゲームは育成ゲームということにして急須の筋肉をガインス先生よりも洗練された美しい筋肉に育てることに力を入れてみようかと考えたりした。

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