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07 理想のバストは1M以上。ただし中身は筋肉で

某日、私は以前見かけたアレな人をまたもや焼却炉近くの雑木林で見かけた。

彼はまたもや同じような場所で同じようにうずくまり、左手の手首を右手でぎゅっと握りしめて唸り声をあげていたのである。

どうやら彼はまだ呪縛から抜け出せていないようである。

哀れなり。

私は彼の姿に胸がぎゅぅっと締め付けられるようなきもちであった。

あの手紙も無駄に終わってしまったかと虚しい気持ちになりながら、しかし私はもう一通彼に手紙を書くことにした。


『“私の左目は死神の目なんだ”と常に眼帯をつけていた彼も、“私には秘密のお友達がいるの、うふふ、今もここにいるのよ”なんて言ってた少女も、“俺の前世は有名な陰陽師!俺に逆らうと怖いぞ”なんて言っていた麻呂顔も、結局は普通の人でした。大丈夫です。貴方もまだ引き返せます。』


私は気配を殺して彼にそっと近づき、落ちていた石を重しにして書いた手紙を置き静かに立ち去ったのである。

なんとか立ち直ってくれればよいが…。

私はグレてしまった息子を見守る母のような心境で思った。


 ***


現在、私はお花ちゃんが薬を買っているという薬屋にいるのである。

あの後、お花ちゃんに彼女の状況について説明を受けたのだが、色々長すぎたのでばっさりカットする。…というわけにもいかぬだろうから要約して説明すると、以下のようになる。


1、彼女は戦争で負けた亡国の難民で、兄と二人きりでこの国に流れてきた。ちなみに両親とは死別。

2、お花ちゃんは昔からあまり体が強くなかったそうなのだが、慣れない環境やらなにやらで一年ほど前から著しく体調が悪化。

3、ほとんど所持金のなかった二人はスラムに潜り込み、兄はその彼女の病気を癒す薬を買うために朝から晩まで働いており、いつも夜遅くにしか帰ってこない。


というわけで、私の予想はほぼ当たり。

これで薬屋の主人が悪いやつで、薬代を相当ぼっていたとすれば、それを締めてしまえば一件落着であろう。

兄に会うのは時間的に無理であるので、お花ちゃんの薬を買いがてら薬屋の偵察にやってきたのである。

江戸は結局買ってやるのか…となにやらぶつくさ言っておったが、状況が変わったのだから仕方があるまい。

それに私とて彼女の病を見てみぬ振りをするのは心理的ダメージが大きすぎるのである。

そうして店内を見ているのだが、…なにやら不思議な店である。

四畳ほどの狭い店内。

手前のスペースに商品が置かれており、奥にカウンターがありそこに店主がいる。そのまた奥にもスペースがあるようだが暖簾がかかっておりそちらを見ることは出来ない。

店内には薬の材料なのか、乾燥された草花があちこちに吊るされていたり、何かの骨や皮、水晶なようなものが置かれている。これは物珍しくはあるが、ゲームの世界ではよくあることである光景である。

私が不思議だと思ったのは、棚に並べられている商品の事である。

例えば、これ。今私の一番近くにあるピンク色の液体。その名も“ラブポーション”。効果は、相手にそれを飲ませることで自分への好感度を2上げるらしい。

その隣にあるのは、並べられた七色の瓶。これは“カラーリング剤”である。効果は、相手の好きなカラーに髪を染めることで好感度を2上げる。ついでに容姿が1上がるらしい。

そのまた隣には、“アフロディテの涙”。効果は1日限定で魅力を+5にすることであるらしい。

……なんなのだろうか、これは。

私には理解不能である。

ステータスを上げる薬は他のゲームにもよくある。

しかし好感度や容姿、魅力を上げて何の意味があるのだろうか。

分からない。分からないが…攻略のためには買った方がいいのか?……いやいや、違うだろう!私が目指すのは脳筋キャラである…!このような破廉恥なアイテムは………。

………なんだかクラクラしてきた。

私はそれ以上棚を見る気がうせて、薬屋の店主と話していた江戸の方へと近づいた。

薬屋の店主は一言で言うと…ロリ巨乳だった。

二次元では一定の層に人気のある定番キャラクターだ。好みは十人十色であろうが、私はこの手のキャラは苦手である。

鼻の下が伸びているといったら、必死に否定してきた江戸はどうかしらぬが。

それは置いておいて、改めてお花ちゃんの薬の値段は不当に高いのではないかと言ってみたのである。

すると幼女は、少しむっとしたような顔をして「そんなことはないのじゃ」と否定した。

とてもテンプレはしゃべり口調である。

「この薬の材料はとても高いのじゃ。オオワシの心臓にファイアジュエルの火、どれもレアものなのじゃ」

「本当にぼってないんですの?他の薬屋にも確認しますわよ?」

私が少しばかり喧嘩腰でいうと、幼女はかなり不機嫌そうな顔に。それをみて江戸が私の腕を肘で突いた。

「どっちもかなりの高級品だし、この値段は妥当だと思うぞ。ユノ」

「そうじゃそうじゃ。それに妾はハナのことを気に入っておる。この価格はほぼ原材料費のみじゃぞ」

はっきりいって赤字だ。と鼻を鳴らす幼女に私もまたムッとするが、これは私が悪い。

見知らぬ女にいきなりぼったくり扱いされれば、誰だって気分を害する。

「…すみません。変な疑い方をして。許してくださいませ」

私は素直に頭を下げて謝罪した。

「わかってくれたらそれで良い。おぬしもハナの事を思ってだろうからな」

「本当にごめんなさい」

しかし、そうなると私の推理は崩れてしまった。

もしかして本当にただ普通に貧乏で薬が買えないというだけの単純な話だったのだろうか。

なんだか拍子抜けしながらも、とりあえず江戸に薬を買わせ店を出ることにした。

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