06 脳筋とはつまりSTRである
ユノ=グランデ
性別:女
年齢:16
クラス:重騎士(だったらいいな)
Lv:10(だったらいいな)
HP:882(だったらいいな)
MP:(゜⊿゜)イラネ
STR:60(だったらいいな)
INT:12|(だったらry)
DEX:20|(だったry)
AGL:16|(だっry)
CON:31|(だry)
以上はあくまで理想ではあるが、随分頑張って鍛錬を組んでいるしこれくらいにはなっていてほしいものである。
また上のステータスを見て、私が目指す脳筋とはどのようなものかも端的に理解していただけると思う。つまり私の目指す脳筋とは丈夫さよりも攻撃力|(CONよりSTR、RDMよりATK)を重視するタイプである。
一撃のでかさこそジャスティス。
今は地道に鍛錬を重ね、強くなるために耐えてはいる私ではあるが、本当は何でもいいからさっさとぶった斬りたいと思っている。しかしこのゲームではなかなかその機会がない。
もしかしたら乙女ゲームでは、キャラクター|(私)が一定レベルに達しないと、戦闘イベントは起きないのかもしれない。
なんとも悩ましい限りである。
*
さて、
久々の江戸登場である。
それは構わないのだが、何故イベントが発生したこのタイミングで呼んでもないのに登場するのであろうか。
「ユノ?」
「はい」
彼と一緒にイベントを進めるべきか否か。
これが画面の前なら、しばしコントローラーを離して考えたところだろう。
しかしこれが現実になると考える時間などありはしないのである。
「どうしたんだ?」
そう聞かれて「そう、この子、病気らしんだけど…」と結局何も考える事なく答えてしまった。
「この子?」
そういって私から女の子に視線をやった彼は、「確かに具合がわるそうだ」と心配そうな顔をして言い、かがみ込んで彼女の額に手を当てる。
セクハラだ。
「熱はないみたいだけど…大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ、お兄ちゃん」
明らかに具合が悪そうであるのに健気に微笑んで見せる彼女が痛々しい。
私はとりあえず彼女が持ってきたビンを秤に乗せて精算しながら「お名前は?」と聞いた。
「私、ハナ。ハナっていうの」
「そう、お花ちゃんね」
「「オハナちゃん?」」
「私の名前はユノですわ。で、そっちの無駄にキラキラなのは江戸です」
「無駄にキラキラって…」
何やら江戸はショックを受けておるようだが、それは無視して精算したお金を彼女に渡す。もちろん飴玉も一緒だ。
彼女は受け取ったお金を指で数え、そして悲しそうに肩を落とした。
「お金、足りなかったかしら」
廃品回収の代金なんてたかが知れたものであるが、それでも彼女の予想よりも少なかったらしい。
元気なく「…うん」と頷く彼女に私の良心がチクチクと傷んだ。
江戸が私を見てどういうことと聞くので、廃品回収の代金で薬を買う予定だったそうだと言ったら彼もまた痛ましげな表情をした。
なかなか良いやつだな…とは思ったものの、「じゃぁこれで…」と懐に手を入れた時には、全力で肘をみぞおちに入れてやった。
私だって鬼ではない。
薬代に困っている病気の子に金を恵んでやるのは悪いとは言わない。
しかしそれを安易にやるのはいかがなものかと思うのだ。
そういう一時しのぎをして、その時はいいかもしれないが後々困ったことになると思うぞ。
例えば…、まぁお花ちゃんはしないだろうが、「あの時助けてくれたんだから最後まで助けろ!」と言ってたかってきたり、彼女の経済状態に詳しいものが持っているはずのない金を盗んだものと決めつけて泥棒扱いしたり、その金を強奪されたり、もっともらってこいと言われたり、病人だったら恵んでもらえると妙な知恵をつけたバカが病気の子供をわざと外に出して放置したり、何故自分の子供は助けないのにその子だけは助けるのだと難癖付けられたり、タダで治療費くれる馬鹿がいるらしいぜ…なんて言って大量にタダ飯食いが押しかけてきたり……なんてのはまぁさすがに下衆の勘ぐりというやつだが、それよりなによりイベントフラグが折れたらどうしてくれる馬鹿者が!
一ヶ月以上かけてようやくやっと訪れたイベントらしいイベントだぞ!
イベントとはガラス細工のように繊細なものであるのだぞ!
扱いには細心の注意が必要であるのだぞ!
口に出しては言わぬが、私は崩れ落ち涙目で咳き込んでおる江戸を冷たく見下し、怯えるお花ちゃんを安心させるようににこりと微笑んだ。
*
それから私は一度急須の兄の店に戻り、それから先に帰したお花ちゃんの家に家庭訪問に向かうことにしたのである。
もしかしたら派生イベントか、イベントの続きが発生するやもしれぬ。
ちなみに暇なのか江戸もついてきたが、全くもって彼は必要ないのであるが、彼がイベント発生の条件ということもあるので我慢してやるのである。
そうして先に聞いておいた花ちゃんの家の方へ足をむけると…これがもうなんというか。街の中心地から外れだんだんと活気がなくなってきたかと思うと…土埃の舞う通りに半分崩れたような建物にバラックのような建物が並ぶ通りに出た。通りを歩く人々もどことなく汚らしい。
辺りをみて眉を潜める私を見て、江戸が「この辺りは所謂スラム街だよ」と教えてくれた。
「元々は商業地区として栄えていたらしいけど、中心地が移動してしまってから廃れたんだ」
「へぇ…」
人相の悪そうなのも何人か固まって昼間から酒を飲んでいるいるが、江戸曰く「昼間は大丈夫だ」ということである。全く信用出来ないが。
そうして辿り着いたお花ちゃんの家もまたかなりボロボロで、本当にお金がなく苦しい生活を強いられているようであった。
粗末ではあるがそれなりに清潔にされている室内には最低限の家具しかおかれていない。
客の訪れは久々であると喜んでくれはしたものの…、粗末な一つのベッド以外に椅子は一脚きりであった。
お花ちゃんは申し訳なさそうであったが、なに江戸のことなど柱時計とでも思ってその辺りに経たせておればいいのである。