05 行動範囲を広げ、金を稼ぎつつステータスをあげよう
重騎士たちの食事風景は圧巻の一言である。
他のクラスの生徒達はそれぞれ好きなメニューを食堂のおばちゃんに注文し、思い思いの場所、仲間たちと共にゆっくりのんびりと食べているのだがうちは違う。
朝はバラバラであるが、昼食と夕食時には私達ガインス先生の生徒たちは一緒に揃って食堂へと向かう。
そして決められたテーブル|(長テーブル2つ)に整然とつくと、料理を注文するまもなく厨房からおばちゃんたちがでっかい鍋をもってきてテーブルの中央にドーーーン、ドーーーン、料理の乗った大皿を持ってきてドーーーン、ドーーーン、最後に大きな水差しをドンドンドン!!!と置く。
そしてガインス先生の「よし、一堂存分に喰らえ!!!」の号令とともに、猛然と食事のとりかかるのである。
暗黙の了解で取り皿は一人一皿のみと決められている。一皿にどれだけ持っても良いが、取ったものを全て片付けてからでなければ次の料理を取ってはならない。そのため腹をすかせた重騎士たちは他のものに自分の食い扶持を盗られまいと必死に喰らう。
一皿目は、一番近くの皿から料理を取り、比喩ではなく口の中に流し込み飲み込んで完食。二皿目は一皿目を処理する間に目をつけていた別の料理に手を伸ばしガツガツと喰らう。三皿目になるともうほとんど料理は残っていないので、他の生徒達と争いながら必死にかき集めて皿に盛り名残惜しむように食べる…というのが一連の食事の流れである。
奴らの胃袋はまさに化物である。
ステーキだろうがハンバーグだろうがアツアツのグラタンだろうが一皿目は一息に丸呑みする。
山と盛られた料理が瞬く間に重騎士たちの腹に消えてしまうまで僅か10分の事である。
私とて重騎士の一員。例にもれず…と言いたいところであるが、残念ながら私は彼らについていくことが出来ない。
彼らが一皿目を喉に流し込んでいる間に、自分の分を確保するので精一杯。
他の者共が食事を終えてもなお一皿目を一生懸命に口に詰め込んでいる有り様である。
だがいつかは彼らのようになってみせるのである。
*
さて、ゲームを初めて一ヶ月が経った。残念ながらイベントらしいイベントは起こっていない。そこで私は行動範囲を広げるべく急須と一緒にアルバイトを始めたのである。
はじめは学内の掲示板に掲示されているアルバイトの募集の中から選ぼうとしたのであるが、カフェの店員やら貴族のお嬢様の話し相手やらとやたらとリア充臭いものばかりであったので私は乗り気ではなかった。
そのことを急須に話すと、彼が一緒に自分の兄の店で働かないかと誘ってくれたのである。
彼の兄の仕事とは肉体労働が主な“何でも屋”であるらしい。
仕事内容は引っ越しの手伝いや屋根の修理、人手の足りない土木現場の手伝い等。
バイトとはつまりステータスアップ用のサブクエストであろうと見ている私は、他のバイトよりもずっと経験値を稼げそうな彼の提案に喜んだ。
バイトの日時は、授業が休みである土日である。
ちなみに今日は土曜日。今日の仕事はというと、荷台を引いてあちこちを周り、いらないガラス製品を引き取るという廃品回収である。
「いらないガラス製品はありませんか~?いらないガラスの花瓶、割れたガラスの破片、なんでも喜んで引き取りますよー」
そんなことをやっていると、「あ、お嬢ちゃんちょっと!」なんてよく声がかかる。
お客さんがもってきたガラスは秤にのせ、重量の分だけお金をはらう。汚れていないキレイなガラスなら少しだけ色がつくのである。
ちなみにこのガラスの廃品回収は、子どもたちのお小遣い稼ぎにとても人気があるらしく、時々子どもたちがワッとよってきて「これ買い取って~」と袋を差し出してきたりする。
中身は粉々になったガラスがほとんどである。
ちなみに子どもたちにはあめ玉もおまけしてやるのである。
これは優しい私の自費である。
ガラガラガラ…と少しずつ重くなってきた荷車を引いていると、「おねぇちゃん…」とまたもや子供に声をかけられた。
振り返るとそこには10歳くらいの痩せた女の子が立っていたのである。
なんだか非常に顔色が悪く、具合が悪そうである。
もうすこしふっくらとしていれば可愛いだろうというような顔立ちをしているが、痩せているせいでガイコツにしかみえない。
「どうしたの?」
「あの、これもいい?」
彼女が私に差し出したのはいくつかの小さな小瓶であった。
香水でも入っていたものだろうかと考えていると、「それお薬が入っていたの」と彼女は言った。
「薬?」
「うん。私、病気、だから」
そういってケホケホっと咳をする。
ふむ。もしかしてこれはイベントというやつではなかろうか。
病気で弱っている子を前にしてアレだが、私は目を輝かせたのである。
お金がない+病気の女の子…とくれば、まさしく王道のイベント展開であろう。
「辛そうね。家にまだ薬はあるの?」
「……その瓶が売れれば買える…かも」
「そう。おうちにはお父さんかお母さんはいる?」
「ううん…。でもお兄ちゃんがいるから…」
おぉ。まさに。
私の考えどおりだとすると…お兄さんは病弱な妹のためになかなか危ない橋をわたって仕事をしているのであろう。
そうしてなんとか稼いだお金で薬を買うのだが…その薬屋が腐れ外道でほとんど効果のない薬を高額で売っていたりするのだ!
これは首を突っ込んでおかねばなるまい。
そう思った時、「あれ?ユノか?」と後ろから江戸に声をかけられたのである。