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03 最初はだれでもレベル1

私は生ぬるい平和にたゆたう国、日本で生まれ育った人間だ。戦の経験も心得もあるわけがない。当然ながら剣術については全くの初心者である。

いや、剣道くらいならかじったことはあるが、中・高の授業でやった程度で別に得意でもなんでもない。

だから剣術の稽古などわからない。ゲームの中で、縦横無尽に戦場を馬に乗って駆け巡り、右に左にと敵を屠って999の連続殺害コンボを決めた経験はあれど、そんなもの現実には全く役には立たない。

正しい剣の握り方も構え方も振り方も全くわからない。

しかし、まぁよいのである。

なぜなら今の私は剣を持つとかいう以前に体力も腕力もないのである。

剣の持ち方や振り方は授業で習うとして、とりあえず私は体力づくりに励むことにしたのである。

したのである…が…。


「…ぜぇ…ぜぇ…ぜぇ…ぜぇ…」


恐れいった。この体、ここまで貧弱であるとは思いもしなかった。

「なぁ…大丈夫か?ユノ」

朝の自主練習。グラウンドを走る私の横にやってきた急須が心配そうに言った。

「だ、大丈夫ですわ。こ、これく…らい」

「いや、大丈夫じゃなさそうだから聞いてるんだが…」

「な、何をいっておりますの、まだ…さ、三周目で…ございますわよ」

軽く10周のはずが、3周ですでに私は虫の息である。心臓は痛いほどに打っているし、酸素は足りない。足はガクガクするし、頭は朦朧としている。

「いや、少し休んだほうがいいんじゃないか。それにユノ、お前気付いているか?さっきから走っているというよりも歩いているぞ?」

「な、何を…おかしなことを…。私…走っています」

「まぁ、走っているつもりではあるんだろうけど…」

「…そんなに…私のペースが遅いというのなら…お、お先にどうぞ」

さっさと行けとばかりに手をふると、彼はしばらくは私についていたがやがて私を軽々と追い抜いていった。

その内、天下無双の強さを誇る主人公とて、一番最初はレベル1。HPが10程度のスライムにも苦戦するものである…とはいえ…悔しすぎる。

ぐぬぬ、今に見ておれ。などと思っている内に、急須はグラウンドの反対側を走っていた。

速すぎではあるまいか。私は先ほどからまだ1メートルほどしか進んでいないというのに。


そしてようやく私が10周を終えた時には、すでに8時を回っていた。授業は9時からであるが、8時半には教室にいなくてはならない。

予定では軽くランニングしたあと、腕立て伏せや腹筋といった運動をする予定であったのだが、何一つできていない。悔しい。

起き上がるのに手を貸してくれた急須が「ユノ、お前の体力のなさはともかく根性だけはみとめてやるよ」と言ってくれたのが唯一の救いだ。

そうして部屋に戻る途中、私はグラウンドの隅の目立たない場所で江戸が剣を振っているのを見つけた。

頭から水をかぶったように汗をかき、一心不乱に剣を振り下ろしている。

素人目ではあるが、あれはかなりの腕前であろう。剣が風を切る音がここまで聞こえる。

その私の視線を追ってか、急須が江戸は軍の偉い人の孫なのだと教えてくれた。

「今年の注目株の一人だな」

「他にもいるんですの?」

「あぁ、あいつ、剣のエド=リュミエと、そして魔術師のホッペ=リン。彼らはまだ学生でこそあるものの、すでに中級騎士程度の実力派持っているって話だぞ」

「へぇ…」

江戸に“ほっぺた”か。ほっぺたが何者かは分からないが、江戸と同じ扱いだということは、ゲームのシナリオを予想するに…

「なかなか強力そうなライバルですわね」

彼らはおそらく主人公である私のライバル的存在なのだろう。

「ユノ…お前、身の程知らずというか…。彼らをライバル扱いか?」

最初は格下に見ていた相手が、少しずつ実力を発揮し焦るライバル(江戸とほっぺた)たち。よくある流れとしては、何度かぶつかり合いながらも最終的には私達は意気投合し、心強い仲間となるという展開だ。

だが負けを認められず、恨みを募らせ、敵にその身を下しての盛大な裏切りを働く…という展開もありえないではない。

後者の場合は、彼こそが最終ボスになるという可能性もある。

「要注意ですわね」

まぁぽっと出で、すぐに死んじゃう噛ませ犬的な役割という線もあるが。

「ユノ…なんというかすごいな、お前は」

と、考えたところで私は急須を見上げた。

彼は…なんとなく序盤に怪我をしてさっさと前線離脱しそうなキャラである。

かわいそうにと見ていたら、「なんだよ」と言われたので「まぁできる限り守ってあげますわ」と返しておいた。

そして私達は江戸に近づくこと無く、彼の傍を通り過ぎたのである。


 *


脳筋に頭脳は期待していない…ということだろうか。

教師も生徒もまるきりやる気が感じられない。

体を動かす授業ではやたらと元気の良い生徒たちが、今は大半が机に突っ伏して眠っており、教師はそれを注意するでもなく教科書をボソボソ読みながら板書している。

朝練で大変疲れていた私も眠ってしまおうか…とは思ったが、まじめに受ければその分ステータスアップが期待できる上に、後々の評価にも関わるだろうとまじめに受けることにする。

某ペル○ナ4の主人公のように授業を聞いていれば、ピロピロンという音とともに頭の上に音符がぴょっこり出てくる…なんてことはなかったが、おそらく知性とか賢さとかが上がっているはずだ。

私は一生懸命、板書された文字をノートに書き込みながら、そういえばステータスの確認はどうすればいいのだろうかと考えた。

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