02 私は脳筋が好きだ
ゲームのキャラクターを育てる時、人にはそれぞれ好みのタイプというものがあろうと思う。
例えば、剣士が好きだとか、遠距離攻撃の弓を多用するとか、魔法を使いたいとかだ。
その中で私がダントツに好きで作るキャラというのは…脳筋キャラである。
脳筋キャラとはなにかというと、一般的には重厚な装備に、背丈よりも大きな無骨な大剣を持つキャラクターの事を指す。素早さは望めないが、その分頑丈さと一撃の重さを売りとする。弓が降ろうが魔法が飛んでこようが愚直なまでにただ進み、そして力で持って叩き潰す。これが脳筋キャラである。
私の場合、『今回は手数の多い盗賊タイプを育ててみるか』…などと思っていても、気づけばこのタイプになっている事が多い。
これは私が馬鹿だから…ということもあろうが、それよりなにより大剣というもののもつロマンに魅力を感じての事だと思う。
ツヴァイヘンダーやクレイモア、某狂戦士のガ○ツの持つ大剣など見ているだけでよだれ…心が踊る。
…というわけで、おそらく主人公の設定なのだろう。他の人は一方的にクラスを決められているにもかかわらず、海藻のような頭の人に「ユノ、お前はどのクラスがいい?」と聞かれた時には、迷わず重剣士であろうと思われるガインスという教師の元へと向かった。他に剣士のクラスと魔法のクラスなどがあったようだが、ガン無視である。
私の向かう先を見て、海藻の人や江戸が信じられないという顔をしていたがどうでもいい。
ガインスという教師も呆れたような顔をしていたがそれもどうでもいい。
私はやる。やってやる。
今は頼りない細腕なれど、いつかはガインス先生のように丸太のような腕になり、自分の体重よりも重い剣をブンブン振りまわしてやる。
目指すは一人縛りでのボス撃破である。
「ご指導ご鞭撻の程よろしくお願いいたします」
きっちり90度頭を下げて挨拶をすると、ガインス先生は未だ戸惑いながらではあるが頷いてくれた。
***
そして初日の授業であるが、残念ながら授業という授業はなかった。
お互いに自己紹介をし、授業の形態や心構えを教わるだけであった。本格的な授業は明日からであるという。
私のクラス、ガインス先生のクラスは重騎士を育てるクラスであり、女は私一人。他は男…しかもゴツめの男で汗臭そうなのばかりである。
そして江戸や海藻がキラキラっとしていたのに比べ、なんとなく地味である。
まぁ顔なんて飾りだ。ステータスには何の影響もない…はずだ。……色仕掛けが必要な任務がなければ。
まぁとにかく紅一点の私は浮いている。浮きまくっている。
同間隔で並んで整列しているにもかかわらずなんとなく他の生徒たちとの距離を感じる。これは精神的な距離であろう。
これはかなり寂しい…とは別に思わないが、ステータスや評価に響きそうであるので私は自分から話しかけることにした。
「なぁ、お前…じゃなかった、あの、私ユノといいます。お名前をお聞きしてもよろしいかしら?」
できるだけ柔らかい口調と表情で隣に立っていた身長180くらいの男に話しかけた。途端男はギクリとしたように体を震わせ、油がきれたブリキ人形のような動きで私を見た。
彼もまた江戸や海藻と違い、ブサイクとは言わないがイマイチ華のない顔立ちをしている。
「俺に…言っているのか?」
「えぇ。一緒のクラスでこれから学ぶのですもの、仲良くしてくださいな」
なんかびびっているのでにっこりと微笑んでみる。
すると彼は見事に引きつった。
なぜだ。
「仲良くって…お前、本当にガインス先生の下につく気か?」
「えぇ、もちろんです。でなければここに並んでおりませんわ」
「だが…本当に本気か?その細腕で…普通の剣だって振るえるとは思えんが…」
ジロジロと腕を見られ、私も自分の腕に目を落とした。
確かに細い。これでは細い剣ですら持つのに苦労するだろう。
しかし「大丈夫ですわ」私は言い切った。
「たしかに今はか弱いかもしれません。しかし私はやれると確信…いえ、決意しておりますもの」
「その決意は立派だと思うが…。ユノだったか?お前は女だぞ?普通の剣士ですら女は敬遠するというのに…」
「あら、普通の女は魔法使いになるものですの?」
「…普通は騎士学校にも入らないだろうな。普通は軍に入るにしても後方部隊かせいぜい魔術師だろうな」
「へぇ…。まぁどちらにしても大丈夫ですわ。私は必ずこの部隊で成り上がってみせますから」
ピシャリという私の言葉は、彼の琴線に触れたらしい。
怪訝そうな顔が、少し感心するような表情になり口角を上げた。
「そうか。じゃぁよろしく頼む。俺の名はキュースだ」
「そう、急須ね。よろしく」
私達は握手を交わした。
彼の手は大きくて、厚くて、固かった。
私のふにょふにょの手もいつかは急須のようになってほしいものである。
*
授業は一週間に5日、午前に2つ、午後に3つの授業がある。
一つの授業は1時間20分であり、9時から授業が始まり5時半に終了する普通の高校よりも楽なくらいの日程である。
騎士学校であるのだから、もっとギチギチにつめて…例えば5時半起きでシゴキがあり、そこから昼までは休みなし、昼を食ってしばらく腹を休めた後は日が暮れるまでまた訓練、そしてくたくたになってベッドに入ればラッパに起こされ校庭に走り出る…という形態が良いようなきがするのだが、本当にのんびりとしている。
朝・夕の自主練は勝手ではあるものの、別に推奨されているわけでもない。訓練も横並びで面白みがない。昼もかなりのんびりとしている。
これでは魔王軍がやってきたときにコロっとこの国は滅ぼされてしまうに違いない。
それともこれは滅ぼされるのが運命であり、敗残兵から成り上がってゆくゆく私は王になる…というシナリオなのだろうか。
それとも乙女ゲームというのは“ヌルゲー”の別称であるのだろうか。
だとしたらちょっとがっかりだが、ヌルゲーと見せかけてかなりハードな仕様ということもありうる。
とりあえず鍛えておいて損はあるまい。
私はガインス先生のクラスで唯一の友人となった急須を相棒と定め、日々努力をすることに決めた。