「歩いても良いからイル様の顔を見たくない!!」
“歩いても良いからイル様の顔を見たくない”
そんなことを思っても、本当に歩くわけにはいかず……。
馬車の中は、重い重い空気。ナミも、私を心配そうに見て、イル様を殺気立った目で見るのを繰り返している。
その状況のまま、数時間が立った。
「……あの、姫様」
「何?」
遠慮がちに、ナミが口を開いた。
「もうそろそろ、今夜の宿に到着するようです」
「ほんと!? 良かったぁ……」
この空間から解放される。そう思うと、自然に笑みが浮かんだ。
「……今の嬉しそうな笑みは、見なかったことにしましょうか」
イル様が、ため息混じりに言った。
「な……。私が、笑ってはいけないのですか?」
むっとして、私は言い返す。私は一言も、“やっとイル様と離れられる”なんて本音は言ってないんだから!
「いいえ。……ただ、貴女の表情は言葉以上に語っていましたよ」
イル様はそう言うと、立ち上がった。
いつの間にか馬車は止まっている。
「では、また明日」
そう頭を下げると、イル様は素早く去って行く。
「……あああっ、嫌な男!!」
私はそう言いながら、拳で馬車のクッションを叩く。
隣で、ナミがこくこくと激しく頷いた。
******
「ひ、ひひひ姫様ぁっ!!」
ナミが、ばん! とドアを勢いよく開けて入って来た。
「あら、ナミ。どうしたの? そんなに慌てて」
きょとんとしている私に、ナミは紅い顔で言う。
「ゆ、ユアンが……。来てるんです!! 私、全ッ然気付かなくて!!
姫様、ユアンは来ないって言ったじゃないですか!! なのに、さっき、外で会って……」
私を責めるような口調……なのに、その顔は真っ赤で、しかも……幸せそう。
私は今、ここにユアンがいなくて本当によかったと思った。ユアンがいたら、きっと二人でいちゃいちゃラブラブシーンを初めてしまうだろう。
「ああ……。そう、来てたの……。イル様と同じ馬車ってことに頭がいっぱいで、気が付かなかったわ……。そう、ユアンが……。それはつまり、貴女は……」
私の言葉に、ナミは頷く。
「姫様のお世話が終わりましたら……私、ユアンの部屋へ行ってきますね」
語尾に、音符マークでもついていそうなナミの口調。
私ははぁっとため息をついた。
「ナミ……。ユアンを、ここに連れて来なさい。
私も、ユアンのことは好きだし……って、もちろん、友人としてよ!? 幼馴染としてよっ!?」
“ユアンが好きだし”と言った途端、ナミの髪の毛が逆立ったのを見て、私は慌てて補足する。
ナミは、私のことを一番大切に……お父様やお母様よりも大切に思ってくれているけど、ユアンが絡むと少し別なのよね……。
ユアンが私のことをからかったりすると怒るんだけど、私がユアンのことで今回のような事を口にしたら、ナミは私にも殺気を向ける。
「はぁ……。私は、ユアンのことなんか奪わないわよ」
「ゆ、ユアンは姫様に奪われませんよっ!! 私にめろめろなんですから! って、きゃあっ、私ったら何を……っ!」
一人で言って、一人で赤くなるナミ。
本当に、めろめろらぶらぶカップルだ。
「じゃあ、ユアンを呼んで来ますね!」
……ユアンを呼びに行かせたのは、間違いだったかもしれない。
足取り軽く……というより、ピンクのオーラ付きで飛んで行ってしまいそうなナミを見て、私はそう思った。
*******
「おうっ、リイナ!」
ユアンは、部屋に入ってくるなり片手を上げてそう言った。
その途端に飛ぶ、ナミの高速頭はたき。
「ユアン、リイナ様でしょ!! それか、姫様! 呼び捨てはだめっていつも言ってるでしょ?」
「って、ナミ……」
頭を擦りながら、むくれてナミを見るユアン。
ユアンはさらさらとした金髪に緑の瞳の、容姿端麗な騎士だ。
幼馴染ということもあって、私を呼び捨てでよんでいる唯一の人(お母様とお父様を除いて)。
「いいのよ、ナミ。ユアンに“リイナ様”なんて呼ばれた日には、天と地がひっくりかえっちゃう」
「だろー? ほら、リイナもこう言ってるじゃん」
「ひ、姫様がそう言うのなら……」
しぶしぶ、といった表情のナミ。
もう頭をはたかれなくなって、ユアンはほっとした表情だ。
ここまでは、いつもの出来事。そして、ここから始まるのは―――
「もう、いつもだめだって言ってるのに……」
「まぁまぁ、リイナも良いって言ってんだからさ、ほら、許してよ、な?」
そう言って、ナミの髪を撫でるユアン。
ナミの頬は、あっという間に真っ赤に染まる。
「……うん」
こくんと頷くナミ。
ナミ……貴女、さっきまであんなに……。
「それよりさ、ナミ、今日の夜、俺の部屋に。夜の12時でどう?」
「行くわ、ユアン。12時ね? きっと行くわ」
「うん、待ってるよ、ナミ」
そして、私の耳に聞こえるちゅっというリップ音。
ユアン……夜に部屋に来てって……私が三人で話したいって言ってたの、忘れたの?
「あのー……ナミ、ユアン……?」
「ナミ……君が馬車に乗るなんて、聞いて無かったよ。俺の馬にいっしょに乗せてあげたかった」
「ユアンと馬に乗れるのは凄く良いけど……私は姫様といっしょにいるんだもの」
二人は私の言葉を無視して、いちゃいちゃシーンを続ける私の侍女と騎士。
王女の事を忘れるなぁぁぁあ!!
あああ、やっぱり題名に良い台詞が見つからなかっ……(ry。
200ポイント突破、10000アクセス突破しました。
ありがとうございます!