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「外見だけは美しい……姫のようですね」


 「えぇぇぇ!? あ、明後日ですかっ?」


 目を丸くするナミに、私はため息をついて頷いた。

 

 「そうよ、明後日なの。急すぎるでしょう? もう、お母様ったら、たぶん私が行くって言う前にもう話をつけていたんだわ」

 「お妃様、姫様に聞かずに? さすがお妃様というか、姫様の話を聞くべきというか……」

 「本当にそうよね」


 私ははぁーっと2度目のため息をつく。

 

 「とにかく、早めに荷造りをしてちょうだい」

 

 

             *******



 そして―――あっという間に、日は過ぎた。

 嫌なことが待っているほど日は早く過ぎる、とはよく言ったものだ。


 「今日、ですね」

 

 ナミの言葉に、私は頷く。

 もう、外に馬車は来ているし、私も出掛け様のドレスに着替えた。もちろん、ナミもいつのも侍女の制服ではなく、出掛け様の服に着替えている。

 イル様も、同じ馬車に乗るらしい。噂では、イル様は居やがったがレフシア王国の国王陛下が無理矢理そうしたとかなんとか……。迷惑な国王もいたもんだ。

 ため息をついた時、


 「リイナ、準備は整った?」


 ノックの音と共に、お母様が部屋に入って来た。


 「まぁ、綺麗じゃない! 貴女はやっぱり美人だわ」


 お母様は私を見てにっこりする。

 そして、私に近づく。

 

 「いい? レフシア王国についても、堂々としているのよ。

 お願いだから、イル様に失礼なことをおっしゃったり、失礼なことをしたりしないで」

 「はい……」


 “イル様が、先に私に失礼なことを言ってきたらどうするの”。その言葉を、呑み込んだ。


 「良い子だわ。じゃあ、下におりましょう。ナミ、貴女もね」

 「はい、お妃様」



                 ******



 王城の前の広場には、豪華な大きい馬車。そして、それを見る民衆たち。


 「イル王子も、馬車の中にいるみたいだぞ!」「きゃあっ、あのかっこいい王子様?」「見たい! 見たいわイル王子の顔!!」


 そんな声が、民衆から聞こえる。

 私は、深呼吸してその中に出て行った。


 「リイナ様!!」「王女様だ」「いってらっしゃい!」


 民衆の歓声に、私は笑顔で手を振る。

 馬車に向かって歩くと、扉が開いた。中から、深い青の服に身を包んだイル王子が現れる。

 

 「リイナ姫。このたびは、我がレフシア王国へ来て下さることになり、誠に嬉しいです」


 そう言って、イル王子はふっと微笑む。その柔らかな微笑みに、町娘達は悲鳴を上げた。

 でも、それはイル様の性格を知らないから。私は分かる。あの人は、“誠に嬉しく”ないだろうと。

 でも、私だってお母様に“失礼なことをしないで”と言われたばっかりだ。


 「私も、お招き頂き誠に光栄ですわ」


 そう言って、私は膝を折る。イル様は微笑んで頷いて、手を出した。

 またまた上がる、町の娘達の悲鳴。

 私は、微笑んでその手を取った。引かれて、馬車に乗り込む。

 そして―――あろうことか、イル様までも同じ馬車に乗り込んだ。


 「い……ッ!?」


 叫びかけた。でも、今叫んじゃ駄目。そう思って、なんとか堪える。

 ナミも馬車に乗り込んで、やっと扉が閉まる。


 「なぜ、イル様も同じ馬車にっ!?」


 閉まった途端、私はそう叫んだ。

 

 「なぜも何も……父上の案です。私が、自分から貴女と同じ馬車に乗ると思いますか?」


 ……そうですね、思いませんよ、私も。

 でも、イル様のお父様は、よほど私とイル様をくっつけたいらしい。“婚約者”になっている時点で、もうくっついているも同然なのだけど。


 「だから、仕方ないのです。レフシア王国の王城までは、約三日間の旅。しばらく、我慢しましょう」

 「……そうですね。今のうちから、慣れないといけませんものね」


 私は頷いて、窓の外を見た。

 いつの間にか、外には綺麗な草原が広がっている。そして、遠くに王族の別荘が見えた。


 「綺麗な邸ですね」


 イル様が、別荘を見て呟く。

 あの邸は、美しい邸としては三本指に入るだろう。たくさんの薔薇にかこまれて、アーチには繊細な彫刻が掘られている。


 「でしょう? ただ、誰も住んでいないんです。私も、ここ数年あの邸には行っていません」

 「それは……もったいないですね。では、中はからっぽですか」

 「ええ」


 イル様に、私は頷く。イル様は邸を見つめて、


 「外見だけは美しい……姫のようですね」


 そう、呟いた。

 あら、褒められた? 初めてイル様に“綺麗”と言われた?

 私は、一瞬そう思った。でも……


 「外見……だけは?」


 だけ、という言葉に疑問を抱く。


 「ええ。外見は美しいのに、中身はからっぽ。まさに、貴女でしょう?」


 ……はぁぁぁあ?

 私は、イル様に本気の殺意が沸くのを感じた。隣では、ナミが懐の小刀に手を伸ばしかけている。

 そうよ、ナミ!! それでさっさとイル様を刺してしまいなさい!!


 「……なんて、冗談ですよ」


 イル様は、ふっと笑った。

 イル様……私、馬車に乗らなくてもかまいません。歩きます。ですから……、

 どうか、貴方の顔が見えない所へ行っても良いですか?















イル……またまた爆弾発言を(笑)。


日刊ランキング(恋愛)19位、ありがとうございます!

そして、お気に入り50件突破!!


これからも、応援よろしくお願いします!

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