「あんな方が、姫様の婚約者なのですか?」
「……今、なんと?」
私は、震える声で聞き返す。イル様は表情を変えず、
「ですから、“しばし、我がレフシア王国へ来ないか”と、父上は仰っております」
「……」
私は黙って、イル様を見つめる。
“蛙の子は蛙”という。つまり、イル様がこんな性格なのはたぶんイル様のお父様とお母様の遺伝で……だとしたら、やっぱり……うん、お父様とお母様も、こんな嫌な性格のはず。
『行きません!!』と言いたいけど、これでも婚約者。それは許されない。
「それは、嬉しいお誘いですわ。是非、行かせてください」
口元に手を当て、ふふふ、と愛想笑い。
「それは、良いお返事が貰えて良かった。早速、父へ知らせますね」
イル様もにっこり笑う。でも、私にだって分かる。絶対これは、愛想笑い。
その愛想笑いのまま、イル様は出て行った。
「……はぁーっ!!」
大きく息をつき、ベッドにダイブする。
だめだ……イル様といると、肩が凝る。
「姫様……あんな方が、姫様の婚約者なのですか?」
ナミが心配そうに私を見る。
「ええ……ほんっと、嫌な男でしょう?」
ため息をつきながら、私は頷いた。
「ええ、嫌な男ですね。姫様への発言には驚きました!
本当に、首の骨を折ってやろうかと思いましたよ。料理長に、肉切り包丁でも借りてこようかしら……」
ナミはイル様の出て行った扉を見つめて、しかめ面で毒づく。
「ちょっと……。“嫌な男”呼ばわりしたなんてバレたら、大問題よ?
確かに、イル様は嫌で嫌で嫌で仕方ない大嫌いな男だけど」
私はナミに苦笑して言う。ナミは、はい……としょげた。
「……姫様は、レフシア王国へ行くのですよね」
「ええ。非常に不本意だけどね」
「つまり、イル王子様のご両親にもお会いするのですよね」
「ええ。蛙の子は蛙、というように、蛙の親も蛙でしょうね。逢いたくないわ」
「では、私もご一緒していいですか?」
「ええ。そうね、貴女もご一緒し……え!? ナミ、貴女もレフシア王国へ!?」
驚いて大声を出した私に、ナミは頷く。
「ええ。それに、私は姫様の第一侍女ですし、いっしょに行くことになると思います」
「それは……そうかもしれないわね。ありがとうッ、ナミ!!」
私は思わず、ナミに抱きついた。
見知らぬ異国で嫌な相手と過ごす時間も、ナミがいたら大分良くなる。
「それより姫様、国王陛下にお伝えしなくて良いのですか? 出来るだけ早めにお伝えした方が良いのでは?」
私に抱きつかれながら冷静に発された言葉に、はっとする。
そうだった。いつから行くのかは分からないけど、出来るだけ早めに伝えておいた方が良いだろう。
「ありがとうナミ。じゃあ、今から伝えに行くわ。
……そうだ、従者として、ユアンも来るように、お母様にお伝えするわね!」
「えっ、ひ、姫様ッ!!」
私が“ユアン”と言った途端、ナミは顔を赤くする。
ユアンは、この城に仕えている騎士だ。私に殴り方を教えてくれた幼馴染でもある。体術も凄いけど、剣がとても上手い青年だ。
そして……彼とナミは恋仲である。ナミの方が、10歳くらい年上だけど。
「あ、あの、ユアンは、王城の警護ですし!! 異国へ行くのは……ッ!!」
おろおろと言うナミ。
「あら、なぜ? 王城の警護なんて一人くらい抜けても平気だし、ナミだってユアンが居た方が楽しいでしょ?」
「それはそうですけど……ッ! でも、ほら、ユアンをレフシア王国につれて行かなくても……ッ!! ほら、姫様、分かるでしょ?」
そう言いながら、ナミは赤面する。え、何? 何なの? 分かんないわよッ!!
「遠回しに言わないで! 何なの? 何か都合悪いのッ?」
「だ、だって……ユアンといっしょに異国まで行ったら、私達、ハネムーンになっちゃいます……。
私は姫様のお世話をしなければならないのに、きっと、二人で……」
そう言って、きゃあっと頬を赤く染めるナミ。
……幸せ者ね。
「そう……。そうね、貴女がユアンにばっか構ってたら私はイル様と二人っきりになっちゃうものね」
私はそうため息をついた。
好きじゃない人と結ばれるのは、私だけか……。
「じゃあ、お父様たちに話してくるわ……」
私はそう言って、まだ頬を赤く染めているナミを残して部屋を出た。
*******
「ということなんです、お父様、お母様」
私は、イル様の話を両親に言った。お父様とお母様は顔を見合わせる。
「その話なら、もう聞いているわ。楽しんで行ってらっしゃい」
お母様が、そう言ってにこっと微笑んだ。もう知っていたのね……。
「分かりました。……楽しめるかどうかは不安ですが、行ってきます」
私の言葉に、お母様は苦笑する。仕方ないじゃない、だってイル様の国よ? 楽しめるはずがない。
「まぁまぁ、そんなことを言わないで。
それより、さっきレフシア国王様からの鳩便が来たのだけど、いつでも歓迎のご用意は整っているそうよ。だから、出立は明後日でも良いかしら?」
「明後日!?」
私は思わず大声を出した。
「そんなに早くですか?」
「……苦虫を噛み潰したような表情はやめなさい。レフシア国王様に失礼でしょう」
「……はい、お母様」
明後日には、私はレフシア王国に旅立つのか……。
そう思うと、心が重くなった気がした。
なんか……タイトルに良さげな台詞がなかっ(ry。
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本当にありがとうございます。
ちなみに、年齢設定は、
リイナ→16歳 イル→18歳 ナミ→24歳
そして、ユアンも16歳です。リイナと幼馴染の同い年なので。