「物足りない、なんて」
今日もまた、王城では夜会が催されていた。
「……しかし、何度見ても信じられませんね」
私の隣で、ナミが小さな声で囁く。
彼女の視線の先にいるのは、夜会用の衣装に身を包んだイル様――――と、彼を囲み、頬を上気させながら談話している大貴族の子女たち。
彼女たちの顔は嬉しさでいっぱいで、イル様が彼女たち自身に目を向けていない時も、彼の顔を見てはうっとりとしている。
「……確かに、イル様のお顔はかっこいいですけれど……あんな性格でいらっしゃるのに」
肩をすくめて無礼なことをいうナミに、うんうんと頷く。
「それには私も同意だわ。いくら、王子様としては完璧だとしても……っあ」
次に続きそうになった言葉を、慌てて飲み込む。
「と、これ以上はだめだわ。イル様と約束したんだった」
口元に手を当てた私を、きょとんとした顔で見るナミ。
イル様などとどんな約束を、と、顔に書いてある。
「……せめて、ね。良い女性と男性を演じましょうって。
私とイル様とが結婚するのは、残念だけど決まったことだもの」
だからしばらく、イル様に対して暴言は吐かないし、吐かせないの。
そう言った私の顔をまじまじを見つめ、彼女は口を開いた。
「そんな約束をしてらしたんですか……。
確かに、姫様とイル様のご結婚はもう決まったようなものですけれど……でも……」
指を絡ませ、言い辛そうに瞳を伏せる彼女。
「……何? 気にしないで言っていいのよ?」
その顔を覗きこむようにそう言えば、やっと口を開く。
「……お二人が少しでも先に進んだようなら、良い事だと思います。
けれど私は、たとえイル様だとしても、姫様の本質をきちんと知っていらして欲しいんです。
……いや、イル様はもう知っていらっしゃるんですけど、でも……、ご結婚するお相手ですから、きちんと向き合って欲しい、と申しますか……。
あ、あの、いえ、気にしないでください。失礼なことを申し上げました」
はっと姿勢を正し、腰を降りつつ謝罪するナミ。
慌てて顔を上げさせつつも、彼女の言葉を頭の中で反復する。
さすがに人生経験が豊富で恋人もいる彼女の言葉には、無視できないものがあった。
「……ナミの言う通り、かもしれないわね……」
遠くに見えるイル様を見つめ、小さく呟く。
彼はその視線に気が付いたのか、ふっとこちらへ目を向けた。
反射的に目を逸らそうとしてしまうのを堪え、ぎくしゃくしながらも微笑みを浮かべれば、何があったのか、彼はこちらへ歩いてきた。
「……姫、ダンスがお好きでないというのは存じていますが……、一曲、お付き合え願いますか?」
優しい声音でそう尋ね、すっと手を差し出してくる姿は、"完璧な王子様"で―――――。
なんとなく物足りない、なんて、思ってないはず。
さ、三か月近く空いてしまい、本当に申し訳ありませんでした。
…こ、更新速度が上がる予定はありません。←