「姫を見誤っていたようです」
ナミが洗い、(どうやったのかは分からないけれど)急速に乾かして畳んでくれたマントを持って、私はずっと立ち尽くしていた。
目の前には、イル様のお部屋。
イル様が貸してくれたマントは、ナミが「私が返しに行きます」と言ってくれたけれど、そこはと私が返しに行くことにした。
私が借りたのだし、考えてみればろくにお礼も言わなかった気がする。
だからけじめをと思って、このイル様の部屋を目指して勇んで歩いてきたけれど――――。
やはり、躊躇う。
「……大丈夫、返すだけなんだから」
自分に言い聞かせるように呟き、すうっと深呼吸。そして、目の前のドアを二回ノックした。
「失礼します、イル様。リイナです」
そう告げてから、ゆっくりドアを開ける。
恐る恐る中に踏み出した私を待っていたのは――――、珍しくきょとんとした顔のイル様だった。
ティーカップを持つ手は口に運ぶ途中で止まっていて、顔は私を凝視している。
「……イル様?」
思いもよらぬ彼の姿に呆気にとられてそう問うと、イル様ははっと椅子から立ち上がった。
ごほんと咳払いをして、言う。
「申し訳ありません……。姫が私の部屋に来るなど、予想外だったものでして……」
「ええ、私も……」
ええ、私も予想外でした。まさか自分からイル様のお部屋を訪ねることになるなんて。
心の中で珍しく同調しかけて、今回の目的を思い出す。
「って、そうじゃなくて。あの、お借りしたマントをお返しに来たんです」
マントを持ち直して、ゆっくりと差し出しながらおずおずと礼を言う。
「あの……、ありがとうございました」
妙に気恥ずかしくなって、お辞儀をして顔を隠した。
……まさか、イル様にお礼のお辞儀をすることになるとは思わなかった。
そんなことを心の端っこで考えながら、イル様の表情を伺う。
「ああ、ありがとうございます」
彼はそう言ってマントを受け取りながら、ちょっと面食らった顔をしていた。
――――なぜ?
私がそう思っていることに気付いたのか、イル様は言い辛そうに口を開く。
「いえ……。あの、申し訳ありません。姫がこんなにまともなことをしてくるとは……」
「な……っ!!」
イル様の口から出た、思いもかけない言葉……、いや、もう慣れてしまった言葉を聞いて、かあっと身体が熱くなる。
「し、失礼なこと言わないでください!! 私だってこれくらい、こんなのが普通の礼儀だって知ってるんですから!!」
じろっと睨んでそう言うと、イル様はきまり悪そうに眼を逸らした。
「その……、申し訳ありませんでした。姫を見誤っていたようです」
そう言いつつ、ぺこりと頭を下げる彼。
やっぱり、こういう所はちゃんとしてる人なのよね、なんて、心の中で考えて。
……マントを洗ったり乾かしたりするのは、ナミにやってもらったのだけれど。
更新遅れまして、申し訳ありません。
そして、題名の台詞にものすっごく困りまくってる今日この頃。
題名に関しては、突っ込まないで頂けるとありがたいです。