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「この件については、後ほどゆっくりお話ししましょう」


 一瞬水に覆われた視界は、すぐに元通りになった。

 ふと気が付くと、私は噴水の真ん中で座り込んでいて――――、それを、なんとも言えない表情で見つめるイル様。


 ――――やってしまった。


 「う、あ、えっと、す、すみません! ぼ、ぼうっとしてまして……っ!!」


 慌ててそう謝ると、イル様はため息を付きながらも手を差し伸べてくれた。

 ありがたくそれに捕まると、ひょいっと引っ張りあげられる。


 「……貴女という女性は……、なんというか……」


 顔をしかめ、必死に言葉を探している。

 しかし丁度良い言葉が見つからないのか、しばらくして彼ははぁっとため息をついた。


 「とりあえず、着替えては? 衣装がずぶ濡れです」

 「え、あ、はい」

 

 イル様が侍女を呼んでくれようと扉へ歩いて、ふと振り返った。

 きょとんとしている私の方へ、こつこつと歩いてくる。


 ――――これはきっと、物凄い罵詈雑言が……っ!!

 けど今回は全て私の責任だし、いろいろ言われても仕方ないし、けどやっぱり腹が立ってしまう気がするのはどうすれば良いの……っ!!


 

 ぎゅっと目をつぶった私が感じたのは、ふわりとした温かいもの。


 恐る恐る目を開くと、私の身体をイル様のマントが包み込んでいた。

 

 「少しの間ですが、そのままでは寒いでしょう」


 イル様はそうとだけ言って、今度こそ侍女を呼びに行く。


 私はと言うと――――、彼の予想外の行動に驚いていた。


 「……ありえない」


 こんな、優しい行動をイル様がするなんて。


 顔はやっぱり、呆れていたけれど、でも――――。


 

 呆然とした私の呟きは、誰もいない応接間に静かに響いた。



             ******



 「姫様っ!!」


 慌てた声といっしょに応接間に飛び込んできたのはナミだった。

 両手にタオルをたくさん抱えている。


 その後ろに続く――――、やはり、まだ呆れた表情のままのイル様。

  

 「姫様、ご無事ですか!? お怪我は!? お風邪は!?」


 転びそうな速度で私に走り寄ってくるナミ。

 大丈夫、と答えようとした瞬間、私の視界は真っ白なタオルに覆われた。

 ごしごしと髪の毛やら身体やらを衣服の上から強引に拭かれるものだから、ナミが必死に拭いてくれているのは分かっても――――、正直言って痛い。

 なんとかタオルの山から顔を出し、心配そうな彼女の問いに答える。

 

 「だ、大丈夫。怪我とか風邪とかしてないし」

 「ほ、本当ですか!? 良かった……。姫様、早くお部屋でお着替えください」

 「うん」


 ナミの言葉に頷いて、まだぽたぽたと雫を滴らせつつも、私は歩き始めた。

 応接間から出ようとした瞬間、イル様と目が合う。

 

 ――――そういえば私、まだお礼を言ってない。


 その事実に気が付き、慌てて頭を下げた。


 

 「あ、あの、イル様! マントを貸していただいたり、ナミを呼んできてくださったり、ありがとうございました!」


 それだけを言って頭を上げると、イル様は、いえ、と短く答えた。

 

 今回は何事も無く終われそう。

 そう期待した私の心を――――、イル様の言葉が、見事に裏切った。



 「この件については、後ほどゆっくりお話ししましょう」



 と。






あけましておめでとうございます。


今年も、「天然王女の婚約者」を、どうぞよろしくお願いします。


相変わらずののんびり更新だと思われますが、ゆっくり待っていてくださると嬉しいです。


読者様にとって、今年が良い年になりますように。



                   2013年1月1日 羽月 紫苑

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